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学校・研究機関分野 3Dプリンター活用事例

東京大学 物性研究所 計算物質科学研究センター様
株式会社クロスアビリティ様


株式会社クロスアビリティ
代表取締役社長
古賀 良太 様
取締役
千田 範夫 様
計算科学事業部 サイエンスプログラマ
長代 新治 様
東京大学 物性研究所 計算物質科学研究センター
技術専門職員
山崎 淳 様
プロジェクトマネージャー 工学博士
古宇田 光 様

3Dプリンターで空間に分布する物理量を見える化
透明樹脂の中に電子雲、銀河、気流の描写が可能に

中学校の理科室にあった分子模型。分子の世界を表現するために原子を表す球体が棒で結合されている。しかし、球体と棒の組み合わせの分子模型は原子の周りをまわっていると教わった電子の存在を描いていない。

実は高等化学では電子はまわっておらず、存在確率をあらわす電子雲によって示されるのだ。雲が濃いところは電子が存在する確率が高い。東京大学物性研究所とクロスアビリティは3Dプリンターで電子雲を描写する新しい技術を共同開発した。

課題 >> 効果

  • 見える化電子雲を描写した分子模型を製作したい
    • これまで電子雲を描写した分子模型の製作では、ガラスの中に高出力レーザーによりダメージを生じさせることで形状を形成していたが、その形状制御や色つけなどが課題に
    • 東京大学物性研究所とクロスアビリティは、電子雲のデータを特殊な手法で変換し、インクジェット方式3Dプリンターで透明樹脂の中に描写できる技術を開発
  • ノウハウ3Dプリンターでどこまでできるのか、ノウハウを蓄積したい
    • インクジェット方式3DプリンターObjetシリーズを利用し、丸紅情報システムズとともにトライ&エラーを重ね、いかに作業工数やデータ容量を削減するかなどのノウハウの蓄積に努めた。例えば球体を表現するのに、微小サイズであれば8面体でも人間の目には球として認識できることを利用し、データ容量削減に役立てた
    • 単に物理量を再現するのではなく、データのどこを採用するか?のフィルタリングによる見せやすくする工夫も必要
  • 幅広く応用見せるツール、考えるツールとして幅広く応用したい
    • 原子や結合の様子だけでなく電子雲も描写できるため、電子雲の状態と分子構造の関連について理解を深める教育ツールとして有効
    • 複雑な結晶構造をもつ3D電子雲模型を造形し高い性能を持つ材料開発に活用
    • 雲、銀河、建物や車の周囲の気流などを、認識しやすいサイズに落とし込んでの見える化ができるため、幅広い領域での応用を期待

透明樹脂の中に電子雲を描写する

東京大学物性研究所 計算物質科学研究センターの山崎淳氏が見せてくれた分子模型は、これまでの分子模型のイメージを覆すものだ。

3Dプリンターで透明樹脂の中に電子雲を含む、本当の分子の世界が表現されていた。それは神秘的で美しい。計算物質科学研究センターはスーパーコンピュータを用いた数値計算に基づいて物質科学の新しい理解と精密な予測を目指す活動に取り組んでいる。同センターは3Dプリンターを活用し一般の人に向けて視覚的でわかりやすいプレゼンテーションを行う「見える化プロジェクト」も進めている。

「3Dプリンターを使ってみてほしい」といわれたとき、主に実験装置の開発を行っている山崎氏は3Dプリンターを見たことさえも実はなかったという。

「3Dプリンターを使って試行錯誤しながら分子模型や結晶構造を造形しました。透明樹脂の中に電子雲(電子密度分布)を描写して分子模型を製作するというテーマが大きな転換点となりました」と山崎氏は振り返る。3Dプリンターで透明樹脂の中に電子雲を描写するための新しい技術の開発は、山崎氏と同センターの計算物質科学イニシアティブプロジェクトマネージャー古宇田光氏が、計算化学分野の自社ソフトウェア開発・販売を行うクロスアビリティを訪ねたことから始まる。

「電子雲のように、空間に分布する物理量を3Dプリンターで出力するというテーマに対し、クロスアビリティさんも関心を持っていただき、共同で技術開発に取り組むことになりました」と山崎氏は話す。具体的なプロセスについてクロスアビリティ 計算科学事業部 サイエンスプログラマ 長代新治氏はこう話す。

「コンピュータで計算した電子雲は空間の各点に対する単なる数値データであるため、3Dプリンターに必要な物体の形状情報を持ちません。今回開発したプログラムはこのような空間に広がる数値データを微小な粒子の分布に変換できます。さらに生成した粒子の形状と分布の情報をSTLファイルに変換することで3Dプリンターで造形できるようにしました。」


東大物性研スーパーコンピュータ



3Dプリンターで造形したモデル


電子雲の状態と分子構造の関連性への理解を深める

今回の共同開発で利用しているストラタシス社製インクジェット方式3DプリンターObjetシリーズは、カラーはもちろん不透明から透明までも表現が可能だ。さらに一回のプリントで複数の条件の組み合わせも一括で出力できることから、今回のようないわゆる水中花型の模型を造形するのに適している。

「フラーレン※という物質の電子密度分布を計算し3Dプリンターで描写してみました。電子雲を示すドットの密度が高いほど電子が存在する確率も上がります。8面体でも視覚的には球体として認識できることから、データ容量を抑えるために球体形状は8面体で表しました。また、ある一定量のサイズでないと3Dプリンターモデルとして見たときに認識しづらいこともわかりました」(山崎氏)

これまで電子雲を描写した分子模型の製作は、ガラスの中に高出力レーザーによりダメージを生じさせることで点描する技術が開発されていたが、その形状や色つけ、ガラスの中への棒状形成などに課題が残っていた。今回、開発した技術はそれらの課題を解決し、電子雲と同時に原子の配置も描写することを可能にした。

「電子雲を含む分子模型を教育ツールとして利用することにより、3D映像でモニタ上だけに表示することに比べ、電子雲の状態と分子構造の関連についての理解が深まります。また複雑な結晶構造をもつ永久磁石や超電導材料などの電子雲模型を造形し、より高い性能を持つ材料開発に活用していく予定です。今回、共同開発した技術は空間に分布する物理量を見える化できます。分子以外に雲、銀河、建物や車の周囲の気流、津波、気象など通常認知しづらいものも描写できるため、幅広い用途での応用が期待されます。“見える化”という観点では単に物理量を再現するのではなく、不要な情報を排除し、見やすく、面白くするといった工夫も必要です」。

※フラーレン(fullerene) :多数の炭素原子のみで構成されるクラスターの総称。サッカーボール状の構造を持つ。



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