製造ソリューション事業本部

TEL : 03-4243-4123

3Dプリンティング材料性能はどう評価する?掲載日:2021/03/23

先日Stratasys社FDM F123シリーズ用新材料ABS-CF10が発売されました。材料の種類が増えるのは良いことですが、多くから適した材料を選ぶためには材料性能を正しく理解して評価することが大事です。ではどう評価するのが良いかというと…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

今年度が終わり4月から新年度へ

公的機関、学校はもちろん、弊社も含め多くの企業の皆様も4月から新年度を迎えられることと思います。毎年新年度の最初のコラムに弊社近くの公園の桜の写真を載せてきましたが、今年は開花が早く、次回では遅くなりそうなので、今回載せることにしました。

来年の春はお花見に行けることを願うばかりです。

筆者は毎年この時期にもう一つ楽しみにしていることがあります。このコラムでも過去にお伝えしましたが、それは宣伝会議賞の受賞者発表と表彰式への出席です。それは2017年から毎年株式会社フジテックス様にお取次ぎいただいて、主要4賞の受賞者に3Dプリント製のトロフィーを製作させていただいているご縁があるからで、宣伝会議様の下記のウエブページでもご紹介を頂いています。(写真はサンプル)

 

 

 

 

 

 

 

 

https://mag.sendenkaigi.com/senden/201705/sendenkaigi-award/010455.php

しかし今年は表彰式がオンラインでの開催となってしまい、受賞された方が直接受け取られる姿を直接拝見できず残念でした。作品応募はプロアマ問わず出来ること、中高生部門もあり、いろいろな方の喜びの表情が見られるのも楽しみなので、来年はまた参加できることを楽しみにしたいと思います。

そのようないつもと違う年度末ですが、先日Stratasys社FDM F123シリーズ用新材料ABS-CF10発売のニュースを弊社からこちらでリリースしました。オフィスで使える静かさ、簡単さをもつF123プリンターで剛性や強度が求められる試作品や実用治工具、ロボットグリッパーなどが溶かせるサポート材で作れることで、3Dプリンティングの活用がさらに広がると期待しています。

 

材料の種類が増えるのは良いことですが、多くから適した材料を選ぶためには材料性能を正しく理解して評価することがますます大事になってきます。一般に工業規格に基づく試験片での試験結果による物性表で評価されることが多いですが、3Dプリンティング特有の作り方や、作るモノの使い方によって、材料物性表での比較のポイントが変わります。ではどのように評価するのが良いのでしょうか?

材料物性表による評価のポイント

まず、樹脂でも金属でも、現状一般に評価するのに使われるのが、3Dプリンティング以外の加工法、例えば切削加工、射出成形や鋳造などの賦形加工を対象に決められ使われているISOやJISに基づいた試験片と試験方法によるデータです。3Dプリンティングを対象にした工業規格は制定されたものもありますが不十分、また普及もこれからです。参考までに筆者も作成に関わった産業技術総合研究所様「加工技術データベース」内に国際標準の一覧表がありますが、3Dプリンティング品や装置の品質管理、もしくは3Dプリント品どうしの比較評価には適しますが、どうしても「既存品を3Dプリンティングに置き換える」「既存の設計工学で設計する」場合には既存の規格で評価することになります。

そこで問題になるのが「試験片」です。既存の加工法は一般に「物性と密度は均質である」という前提ですが、3Dプリンティングは工法や装置によっても違いますが、例えば材料吐出法の場合、「物性と密度は積層方向と吐出線構造により均質ではない」と言えます。Stratasys社から公表されている材料物性表の図を引用しますと、

 

 

 

 

 

試験片を作るのに3つの基本的な積層方向があり、一般に引張強さではXZ>XY>ZXとなり、基本はXZの数値を物性表に記載しています。また積層厚さや吐出線の太さ、埋め方の違いによっても数値が異なるのは物理的に見て当然です。また、ご存じの通り多くの3Dプリント品には縦壁面には積層による、水平面にも微小の山谷があり、これが破断の起点になるなどの影響があります。よって、例えばStratasys FDM材料どうしの比較評価としてStratasys社物性表の数値を使うのは、試験片の作り方が統一されている点で適当と言えますが、他の加工法、または他の3Dプリント品との比較評価では、傾向把握や参考程度に留めることが適当と考えます。

次に評価に適した物性値も樹脂の特性や評価ポイントにより異なります。これもStratasys社公表の資料から引用しますと、

 

 

 

 

 

ご存じの方も多い引張応力ひずみ線図ですが、横軸がひずみ、縦軸が荷重を断面積で割った応力で、例えばABS-M30では上図のBのようなカーブでB点がC点の引張破断応力値より大きく、Bを引張強さの値としていますが、新材料ABS-CF10ではAのようなカーブでA点の引張破断応力が最大となります。では実際に実用治工具を作る材料を選ぶため、BとAの数値を同列に比較しただけの評価は適切でしょうか?また「引張強さ」だけで「Xの樹脂はYの樹脂より強度が高い」と評価するのは正しいでしょうか?もちろん理解されている皆様にはそのようなことは無いのですが、特に3Dプリンティングの世界では「強度」とか「精度」が適切ではない物性値、試験、比較評価がされている場面が意外と多くみられ、それが3Dプリンティング活用の障害にもなっているのを筆者は残念に思っています。

上記の例の実用治工具では、まずAやBの応力や歪みに近い領域を使う設計は避けるべきですし、引張強さより剛性が評価ポイントになるのであれば曲げ弾性率、引張弾性率での比較が適切です。もしくはその治工具に何かぶつかる、床に落としてしまうなど衝撃荷重がかかる場合の壊れにくさを評価ポイントにするなら引張伸びやアイゾット衝撃値などでの比較も適します。ABS-CF10はABS-M30より曲げ弾性率の数値は高いですが、アイゾット衝撃値は低く、それは炭素短繊維により剛性が高いことが特性の材料だからです。もちろんそれだけではなく、温度や寸法精度、耐摩耗性、耐環境性など評価ポイントにより比較する物性値は異なりますし、「どちらの材料が優れるか」の評価が異なるのは、申し上げるまでもないことです。

一概には言えませんが金属の場合は樹脂よりもう一段複雑で、例えば原料成分は工業規格上同じであっても、相と呼ばれる組織や結晶の状態が違えば機械的な物性値の差が大きいことがあります。例えば弊社が販売するDesktop Metal社の場合、会社の考え方として実際の部品の幅広い使い方に適する「伸び」がある組織を作るため、ファーネス(電気炉)内で時間をかけてゆっくり冷やす設定にしています。そうすると反面引張弾性率や引張破断強さの数値は低くなる傾向にあり、それが良いかどうかの評価は目的により異なります。加えて後からの熱処理により目的の物性に変えることもできます。一方、試験片の表面粗さ、内部空孔の大きさなども初期または疲労強度に大きく影響するので、特に金属3Dプリンティングの場合、2次加工含め試験片の条件を把握理解した上で数値を比較することが重要なポイントになります。

ただし、樹脂金属どちらにも言えることは、特に3Dプリンティングの場合切削や型成形と違い「現物」を速く安く作りやすいので、機能と使う装置と材料に適した設計をした上で、「現物」で試験、比較評価した方が、試験片と規格試験をするより結局適切で、速く安く評価が出来る場合が多いこと、場合によっては材料物性値だけでは誤まった評価をしてしまう恐れがあることもポイントとして挙げておきます。

オンラインイベント、展示会出展のお知らせ

先回もお知らせしましたが、筆者も進行やパネルディスカッションで参加しているAMオンラインカンファレンスの第8回が開催されます。参加無料、当日申し込みでも間に合いますので是非ご参加ください。

第8回 AMオンラインカンファレンス
日時:2021年3月26日(金)14:00~18:00
プログラム、参加登録は下記サイトをご覧ください。
https://go.link3d.co/jamm8

次に丸紅情報システムズは、「第3回 名古屋 次世代3Dプリンタ展 」へ出展いたします。
当社ブースでは、製造業向けの3Dソリューションといたしまして、樹脂3Dプリンター(Stratasys社、MakerBot社)、金属3Dプリンター(Desktop Metal社)、3Dスキャナ(GOM社)、初出展のハンディー型3Dスキャナ(ZEISS社)、といった多彩な製品をご紹介いたします。各実機のデモンストレーションに加え、ものづくり分野での各製品活用事例もご紹介いたします。

日時:2021年04月07日(水) ~ 2021年04月09日(金) 10:00~17:00
場所:ポートメッセ名古屋 第1展示館(愛知県名古屋市港区金城ふ頭2丁目2)(MSYSブース番号:12-20)

筆者は4月9日(金)13:00-13:30 出展者セミナー「樹脂・金属3Dプリンター 活用事例の最新情報」の講演を行う予定です。8日、9日はブースにもいる予定なので、ぜひご来場ください。

3Dプリンターのことなら
お気軽に当社へ
お問い合わせください

TOP