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夏休みに学んだ「日本のものづくりの挑戦」は?掲載日:2023/08/23

筆者が夏休みの間、近くの公立図書館で見つけて読んだ、「日本のものづくりの挑戦例」である2冊の本から、日本のものづくりや3Dプリンティングについて考える機会を得ました。それはどのようなことかというと…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

夏休みに読んだ2冊の本と考えたこと

このコラムは毎月2回書いていますが、毎年8月は前半1回をお休みして、今回だけになります。今年の8月前半は、日本各地で台風による風雨と酷暑、交通機関の混乱、コロナ感染者の再急増、また円安やガソリン価格高騰が再び進むなど、「手放しで休めない夏休み」を過ごされた方も多かったと思います。筆者は先週1週間の夏休みをいただきましたが、元々遠出をすることなく、天気も荒れる予報だったので家の中や近くで平日にしか出来ないことをしようと計画していました。ありがたいことに横浜は予報より天気が荒れず、引きこもる覚悟だった日も外に出られたこともあり、会いたい人に会いに行ったり、子供が市立中学校で同級生だった選手が活躍した慶應義塾の野球の試合をテレビで応援したり、計画以上のことが出来ました。その中の一つで、日中の暑さをしのぐため久しぶりに近くの公立図書館で見つけて読んだ2冊の本から、日本のものづくりや3Dプリンティングについて考える良い機会を得ました。

「ホンダジェット 開発リーダーが語る30年の全軌跡」 前間孝則 著 新潮社

ホンダジェットとは何かや内容の説明は省きますが、現在Honda Aircraft Company,LLC取締役社長 藤野 道格(ふじの みちまさ)氏への長期間にわたるインタビューを核に、関わった創業者、経営者、技術者が何を想い、考え、動いたかが書かれています。ホンダジェットの例は自動車メーカーによる新事業・製品開発や異業種参入の話ではなく、「モビリティを提供する企業」として他社に販売できる前提の高効率ターボファンエンジンをゼロから研究開発し、それらをビジネスにするために機体製造販売と運航や整備で長く利益を得る「超軽量ジェット機製造販売事業開発」を決め、理想の性能を実現するため従来の航空機設計では非常識とされた主翼上面エンジン配置 自然層流翼と自然層流ノーズなどを採用した機体を多量のCAEと風洞実験から、欧米企業では考えられない少人数、短期間で開発した結果、2021年に累計200機目となる機体を納め、小型ジェット機部門売り上げで5年連続世界ナンバーワンとなり、2023年6月14日のニュースリリースでも新たな小型ビジネスジェット機の製品化を決定するなど、現在も進行発展していることも知るきっかけになりました。

「ホンダジェットは開発も製造もアメリカで行われ、エンジンもGE社との共同開発なので、国産ではない」とも聞いたことがあります。しかし実際は「国産かどうか、日本人が作ったかどうか」が観点ではなく「ホンダが自動車対米進出で学んだことから、「『需要のあるところで開発や生産をしなければならない』を実行に移してアメリカに進出した」「アメリカで認証を早く得るために経験の豊富なGEと組んだ」というグローバルでの最適、協働の観点との主旨が書かれていました。

残念ながら「3Dプリンティング」は本の中には一切出てこないのですが、これだけの短期間でエンジン、機体を開発された間にはほぼ間違いなく3Dプリンティングが使われたはずで、今後も部品改良開発、整備修理でも使われていくと思います。日本国内でも2018年に指定ディーラーとなった「HondaJet Japan」(丸紅エアロスペース社運営)が販売と国内アフターサポートを行い、77の国内空港が利用でき、2024年から訪日富裕層向け移動サービス開始も計画されているそうで、今後も何かの形で日本製の部品や3Dプリンティングが使われる可能性も広がるのではと考えています。

「はやぶさ2 最強ミッションの真実」 津田雄一 著 NHK出版新書

こちらも「はやぶさ2」とは何かの説明は省きますが、先代「はやぶさ」の奇跡の地球帰還と、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに2回の着陸に成功したり、採取した物質を収容したカプセルがオーストラリアで回収された2020年12月のニュースで多くの方がご存じだと思います。この本は記者会見で「100点満点で1000点。パーフェクトだった」と仰って注目された、はやぶさ2のプロジェクトマネジャー 津田雄一(つだ ゆういち)氏自身が書かれた本で、①と違い「当事者視点」であるのと同時に「想い」も入った、より「ひと」が見える内容でした。筆者には技術的な解説は飛行機以上に難しいかったですが、それでも分かりやすい図解もあり助かりました。

小惑星探査機は商品ではなく、極めて特殊なものづくりではありますが、こちらは打ち上げロケットも含めほぼ「国産」で、はやぶさで起きた問題を性能進化と、予測できない変化に強さに生かした、日本のハードウエア、ソフトウエア設計製造運用技術や宇宙工学が世界的にも優れていることがわかるだけでなく、世界でも前例がなく、高いプロジェクトの目標設定の仕方から、実際の準備、運用は多くの海外の施設や人々との協働で成り立っていたこともわかりました。

恥ずかしながら本を読むまで知らなかったのですが、はやぶさ2は本来の役目である地球へのカプセル投下を終えても、機体が十分正常に動き、燃料も使い切ることなく余裕があったことから、地球に帰らずそのまま地球と火星の間を回る小型の小惑星「1998KY26」の探査の「拡張ミッション」を続けることになり、今も2031年7月ごろの到着を目指して飛んでいるとのことで、今どこにいるかは下記サイトでわかります。

https://www.hayabusa2.jaxa.jp/

こちらも本には「3Dプリンティング」は出てきませんし、情報機密の高い案件なので実際にどうなのかはわかりませんが、研究試作含めておそらくどこかで3Dプリンティングは使われたと思いますし、このようなプロジェクトを通じて3Dプリンティングを含めたデジタルエンジニアリング活用技術を今後の日本のものづくりに拡げていくことも、役目のひとつではないかと思います。

日本のものづくりの挑戦例から学ぶこと

ご紹介した2冊の本に共通しているのは、 当初の目標は達成したことを含め「日本のものづくりの成功した挑戦例」として一般にも知られていて、「ハッピーエンド」が分かって読んだ本ですが、実はまだ現在進行形で、これからの日本のものづくりにもつながっていることが分かったことが挙げられます。その他に下記の点があると思います。

・出来るかはわからない「未知」であっても、まず組織または個人として「目指すべきところ」を作り、それに到達するために分解したステップを組織で共有して進めるが、当然予期せぬ障害や変化もあり、その時に大きな転換であっても最適な方向を早く決めて進み続けた。

・海外に進んでいる先行組織や技術や優れた人がいても、必要以上に「仰ぎ見る」ことはせず、また国内、組織内での「内弁慶」にならず、自分たちが正しいと考える技術は正しいと主張し、はじめは「そんなことが日本人にできるのか」と見られたとしても、国や組織に枠を作らず、最適な協働により解を求め、世界的にも認められる結果に到達した。

・開発中でも経営側はどうしても早く、確実な成果を得る目標や結果に進みたがり、技術者を含む現場はもう来ないかもしれない機会に最高の成果を得たがり、衝突するのは常だが、双方で十分話し合い、経営側の広く長期的な視点・決断と、現場の熱意と科学的な情報事実の提供が合わさり、高い方の目標を納得して設定できたことが、設定以上の成果を生むことにつながった。

よく一般論として、「日本では保守的、前例踏襲的、自前主義的な人や組織が多い」と聞かれますが、上記の例はそれらに当てはまらなかった日本人と日本の組織の実例で、組織の大きさや産業分野に関わらず参考になることが多く含まれていた本だと思います。今もこれからも日本で同じような「挑戦」が企画されたり進められたりしているはずです。先日テレビのビジネスニュースでも、日本の産学連携により開発された、椎間板ヘルニアや脊椎すべり症などの治療に用いる脊椎ケージは、骨と早く良く着くため、骨との接触面に金属3Dプリンターによる特殊な微細構造を持ち、実際の治療に広がり始めているとのことでした。このような挑戦が増え、3Dプリンティングが有効に使われていくことを期待しながら過ごした夏休みでした。

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