「全国平均24.4%、北海道11.8%」という現実
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「デザインワークショップ2005」は、短い夏に合わせるように行われた。
2005年8月、スケートリンクで有名な札幌市真駒内の近くにある札幌市立高等専門学校。ここに9名の学生が集っていた。札幌市立高等専門学校から7名、オランダのデルフト工科大学から2名。日蘭連合チームである。
「この数か月前、ある商社からデジタル通話録音装置のデザイン依頼がきました。『アメリカで開発された装置を日本で販売しているがデザインが今一歩。お金をかけずにデザインだけ変えられないか』と。これはワークショップにもってこいの課題だと、学生たちにデザインを考えてもらうことにしたのです。実はこれも『札幌ITカロッツェリア』の取り組みの1つです」
『札幌ITカロッツェリア』──。
これは、文部科学省が進めている『知的クラスター創成事業』である。この事業は「国際的な競争力のある技術革新のための集積(知的クラスター)の創成」を目的としたもので、その事業に城間教授のグループが立候補したのだ。
「札幌は『サッポロバレー』などと呼ばれているように、東京の大手ソフトウェアメーカーや製造業から主にソフト開発だけを請けて発展してきました。その後、基盤設計や制御プログラムなども手がけられるようになり、いっそのこと札幌でコンピュータや周辺機器も製造できるようにしたらどうかと、知的クラスター創成事業に応募することになりました。そう考えたのも、北海道にはある切実な問題があったからです」
こんな数字がある。
『全国平均24.4%、北海道11.8%』(2000年)
これは、産業別総生産の製造業が占める割合だ。全国平均が全産業の4分の1を製造業が占めているのに対し、北海道は10分の1程度しかない。
「こうした状況は何十年と変わっていません。これではいけない。北海道になんとか製造業を根付かせようと思案しました。そこで生まれた、目に見えないソフトウェアから目に見えるIT機器までを、一貫して札幌でつくるプロジェクト、それが『ITカロッツェリア』だったのです」
ソフトウェア会社などの「産業界」、北海道庁・札幌市役所などの「官界」、そして北海道大学などの「学界」が参加し、2002年、『札幌ITカロッツェリア』はスタートする。 そしてこの日、プロジェクトの一貫として「デザインワークショップ2005」を開催、日本・オランダの学生計9名が集まっていたのだ。
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次々と開発される商品
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「北海道に製造業を根付かせる」
この使命のもと、2002年に『札幌ITカロッツェリア』がスタートするが、すでにさまざまなIT機器が開発されている。2005年に開発されたのは次のようなものだ。
「『プレゼンスBOX』といって、人やもののプレゼンス(存在感)を認識して、部屋の中に人がいるかどうかを知らせる装置です。たとえば社長室と秘書室が分かれている場合、秘書が電話をつなごうと思ったときに、その装置を見れば社長が不在かどうかランプで一目でわかります。監視カメラだといかにも『見られている』という感じでイヤですが、これは赤外線センサで存在を感知するだけなので意識しないでいられるわけです。LANでつなぐことで1対1だけでなく、1対多数も可能です」
そして、2005年にもう1つのプロジェクトとして進行していたのが冒頭のデジタル通話録音装置『MY LOGGER』のデザインである。これは米国の音声ボード開発企業(コネティカット)とジェイドによって共同開発された録音装置で、電話線でつないだこの装置を、USBでパソコンにつなぐと、音声がそのままデジタルデータとしてパソコンに取り込めるというものだ。
「取り込んだデータの録音中にコメントやキーワードを入れることができるので、キーワード検索が可能となり、一発頭出しができます。コールセンターやホテル、デパート、弁護士事務所など、電話での応対や相談が多いところや、電話トラブルの防止・監視にも使えます」
デザイン依頼に関するワークショップは8月中旬の7日間で行われ、この装置を使うターゲット、そこからイメージできる形、形は直線的か丸みを出すのかなど、議論に議論を重ね、最終的に2つのデザインが採用された。
だが、『MY LOGGER』のワークショップを行いながら、城間教授はあるもどかしさを感じていた。それは『札幌ITカロッツェリア』が立ち上がって以来、実は城間教授がずっと抱えていた問題意識であった。
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ものづくりに欠かせない3次元造形機
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「ものをデザインして実際に形にする場合、機能チェックや取付確認などが必要です。そのためには3次元造形機があると、大変便利なことは明らか。ところが、『札幌ITカロッツェリア』がスタートした当時、我々研究グループは3次元造形機をもっていなかったのです」
城間教授のグループでは北海道立工業試験場にある光造形機を使って試作モデルをつくっていた。形はきれいに再現されていたのだが、いざ試作品を展示してみると思わぬことが起こってしまう。
「我々開発者側は光造形機でつくったものは、慎重に扱わないといけないということはわかっています。しかし、展示会に来る人たちは、それを知りませんから、来場者が実際の製品を扱うように力をかけてしまい、試作品が壊れることがあったのです。試作品と説明しても、印象の悪さは拭えません。強度のある材料でモデルをつくりたいと思いました」
城間教授は販売代理店から勧められたプラスチック(ABS樹脂)で立体モデルを造形する3次元造形装置「Dimension 3Dプリンタ」に目を付け、導入を「札幌ITカロッツェリア」の本部に申請したが、2005年のワークショップに間に合わせることができなかった。
「そのため、工業試験場の光造形機で再度試作モデルを造形しました。3次元CADのSTLデータのやりとりや、完成したモデルの配送などで時間をとられてしまうこともあり、やはり手元で試作モデルを造形できる環境がほしいという思いは強かったですね」
結果、学生のデザインを2つ採用したが、他にも優れたデザインがあったという。
そして、2006年4月からは、城間教授が勤務していた札幌市立高等専門学校が『札幌市立大学』として生まれ変わることが決まっていた。
札幌市立大学は、札幌市立高等専門学校と札幌市立高等看護学院を基盤とし、デザイン学部と看護学部の2学部の大学として開学した。「私はデザイン学部に所属し、3次元CADやCAMの授業などを担当することになったので、学生にデザインを実感させる意味で3次元造形機は欠かせないと考えていました。もちろんそれを『札幌ITカロッツェリア』でも使うことができます」
当初は「Dimension 3Dプリンタ」を導入するつもりだったが、「より高速・高精度で用途が広いものを」と最終的に選んだのは、同じABS樹脂の造形機で、上位機種のVantageシステムだった。
そして新大学が設立された2006年4月、無事Vantageも納入されることになる。
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「サッポロバレー」に続け
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実は城間教授は光造形機の導入を以前検討したこともあるが、その際は結局見送っている。
「最大の理由はメンテナンスの手間とそれに付随するコストです。光造形機は精密なモデルを造形することができますが、レーザーや、特殊な造形材料を使用するため、専門の技術員がいないと運用は難しいと思いました。大学では、装置に専任スタッフを用意することは、コストや人材の面だけ考えても不可能です。Vantageはメンテナンスの手間も少なく、誰でも気軽に使うことができる。学生が使うものなので、その手軽さは魅力でした」
また、Vantageは造形する際に、実モデル部分を支えるサポート材をアルカリ水溶液で溶かし、除去することができるため、造形後の後処理が簡単なことも気に入った理由だという。
「そして、造形したモデルはABS樹脂なので、多少乱暴に触られても強度面において心配が少ない。これでようやく安心して展示することもできるようになるかなと」
Vantageは今後3次元CADの授業などに使われることになるが、城間教授が将来視野に入れているものがある。「産学連携」だ。
「札幌市立大学は『産学連携』を特長の1つに掲げています。企業との連携を実現するためには、企業に当大学のデザイン力をアピールする必要がある。その際にVantageで造形したものが大きな武器になると期待しているのです」
そしてVantage導入によって『札幌ITカロッツェリア』も大きく変わりそうな気配だ。今年も去年と同じようにワークショップを開催する予定だが、造形にはVantageが使われる。
「造形機が手元にあることで、時間に余裕が生まれるので、今年はもっと多くの案を採用することができると思います」
2005年に開発された『プレゼンスBOX』はすでに2006年3月に北海道大学創成科学共同研究機構に導入。デザインワークショップ2005で新たなデザインに生まれ変わった『MY LOGGER』もその後さらに改良が加えられ、2006年10月には発売される予定だ。
札幌市にIT産業が誕生したといわれるのは1970年代半ば。それから30年あまりを経た現在、札幌はベンチャー企業の集積地となり「サッポロバレー」とまで呼ばれるようになった。
「ものづくり王国・北海道」──。
その黎明期の姿を、我々は今見ているのかもしれない。 |