10年あまりで開発期間6年から3年に短縮 「最新技術」を見つめ続け、高品質化と開発のスピード化を両立【アイシン・エィ・ダブリュ/伊藤勝浩/佐藤昭彦】

自動車はさまざまな部品から構成されているが、そのなかでも、
もっとも部品点数が多いといわれているのが、オートマチックトランスミッション(AT)、
すなわち自動変速機である。
全長60~70cm、直径30cmほどの大きさ。そこに約1000点もの部品がひしめき合い、
隙間らしい隙間はほとんどない。
そのATをつくっているのが、アイシン・エィ・ダブリュ(AW)だ。
「エンジンの開発は大変とよく言われますが、ATもそれに匹敵、
あるいはそれ以上に困難を要する部品だと思います」
要素技術部第2油圧制御グループの伊藤勝浩氏は、難易度の高いATの開発が抱える難しさを語る。
「2000年以前の開発期間は6年ほどでしたが、今は3年弱です──」
日々、猛烈な勢いで変革を続ける、アイシンAWの開発現場に入った。

左から「佐藤 昭彦 氏」「伊藤 勝浩 氏」

カーナビ、ATとも世界シェアNo.1

JR三河安城駅から車を南東に20分ほど走らせると、工場らしき大きな建物が見えてくる。「アイシン精機西尾工場」。そこからわずか数百メートル先にアイシンAWの本社がある。
アイシンAWはアイシン精機を中心に60社以上もあるアイシングループの中で中心的な役割を担う会社の1つで、2012年の売上高は、1兆円近く、従業員数は1万4千人近くに達する。
主力製品は、自動変速機であるAT / CVT / ハイブリッドトランスミッションとカーナビゲーション。自動変速機は世界ナンバーワンのシェアを誇る。音声案内機能を持つ画期的なボイスナビゲーションシステム(現在のカーナビの原型)を世界で初めて開発したのはアイシンAWだ。
「ATは主に4つの要素で構成されています。エンジンからの動力を増幅・伝達するトルクコンバーター、E/G回転によりオイルを汲み上げるオイルポンプ、トルクコンバーターから伝えられた動力を複数の遊星歯車とクラッチ・ブレーキで車の走行状況に合わせ、複数のギヤ比に構成仕分けるギヤトレーン、A/T全体の作動を制御する油圧制御装置です。私が所属している要素技術部はこのうちトルクコンバーターと油圧制御装置を開発しています」
伊藤勝浩氏。ATに携わる設計者だ。
アイシンAWのAT生産台数は、1969年の会社設立以来ほぼ右肩上がりを続けている。1987年には143万台であったが、1999年には325万台と10年間で2倍以上の成長を遂げた。
1990年代の終わり、自動車業界はある大きな課題に取り組むことになる。CO2排出量の削減だ。地球温暖化対策のために求められたものだった。

アイシン精機西尾工場

激しさを増す性能競争

2000年ごろから地球温暖化が顕在化し、対策としてCO2排出量削減すなわちエコが叫ばれるようになった。各自動車メーカーが燃費をはじめさまざまな環境性能を競い合うようになり、それは開発期間の短縮につながっていく。
「特に燃費規制のニーズは世界的に年々強まっており、自動車部品メーカーにとっても、CO2削減に寄与する燃費向上は大きな使命です。一方、変速時の応答性向上やショック低減といったドライバビリティー向上も至上命題であることに変わりありません。燃費向上とドライバビリティー向上の両立が求められています」
「燃費」というとエンジンにばかり目が向きがちだが、実はATが果たす役割も大きい。
「有効な方法として多段化があります。一昔前には3~4段変速のATが多くを占めていましたが、今では6速、8速のものも珍しくはありません。なぜ多段化してきたかというと、同じ加速をしても小刻みにギヤ段を上げることでエンジンの回転数を低減でき、燃料消費量を落とすことが燃費向上につながるからです。弊社では2006年にFR※用8速ATの商品化に世界で初めて成功しました」
この8速のATにて従来の6速ATに対して、燃費性能と加速性能の両面で飛躍的な向上を実現している。
また軽量化によっても燃費は改善されるため、1gでも軽くすべく、さまざまな設計上の工夫が施される。さらに、エンジンが出力した動力をロスなく出力軸(タイヤ)に伝える技術も重要となる。こうした燃費向上、性能アップと共に、開発期間までも短縮していると言うから驚きだ。アイシンAWでは、わずか10年あまりで開発期間を従来の半分ほどに短縮した。
そして2013年、アイシンAWはさらなる性能アップ、スピードアップのために、新たな領域へと一歩を踏み出す。それは、これまで国内の自動車業界ではどの企業も手をつけていない、未踏の領域でもあった。

※FR : 前方のエンジンから後輪に動力を伝える方式

伊藤 勝浩 氏

スピードと性能アップを阻んでいた測定機

アイシンAWが注目したものは、測定機だった。
「油圧制御装置はバルブボデーと呼ばれ、内部の迷路のような部分に油を流し、バルブなどで油の量を調節して油圧を変化させることで変速機を制御しています。そのため、少しでも油が漏れると油圧が変化してしまい、精密な制御ができなくなってしまいます」
バルブボデーはアルミで出来た上下別々のボデーを重ね合わせてつくる。重ね合わせる平面部に少しでも歪みがあると隙間が生まれ油漏れの可能性があるため、アイシンAWでは平面部を測定機で測り、歪みがないかを確認している。測定を担当しているのが、生技管理部計測管理グループの佐藤昭彦氏だ。
「ATはまず企画から始まり、その後、設計、試作と続きますが、必ずしも設計どおりに試作品ができるとは限りません。加工方法などの問題によって設計と違った形になることもあります。そこでまず、試作品が設計どおりにできているかを測定によって確認します。そうした測定作業のなかに、平面の測定も入ってきます」
計測管理グループでは主に接触式測定機を使っていたが、いくつかの問題点があった。1つは、測定する場所の数だ。どこを測定するか、1点1点の場所を人が決めていた。時間をかければ際限ない点数の測定ができるものの、開発スピードの問題もあり、バルブボデーの場合、多くても40点が限界で、得られた測定データを元に、設計者がCADなどを使って等高線を表現して全体の傾向をつかんでいた。ただ、この方法だと大まかな傾向はつかめても、点と点の間の正確な状態がわからず、『精度』の部分で不安があった。
精度だけを求めるなら、平面を一度に測ることができるレーザー顕微鏡タイプの測定機を使う方法もあるが、測定できる平面の大きさに制限があり、バルブボデーのような大きい製品に使うのは難しい。
もう1つ問題だったのは時間。設計者がどこをどう測定してほしいか、という測定依頼書をつくるのに1時間かかり、測定と等高線で見える化するのにそれぞれ2時間と、合計5時間はかかっていた。
精度を求めるには測定が欠かせない。しかし、高い精度を得ようとすると時間がかかってしまう。
そんなとき、ある解決方法にたどり着く。

佐藤 昭彦 氏

ワークサイズ280mm、かつ高精度の衝撃

出会ったのは「ShaPix(シェイピックス)」という名の非接触式測定システム。伊藤氏、佐藤氏とも心を大きく揺さぶられる。伊藤氏が驚いたのはその測定スピードだった。
「従来は時間の関係もあって40点ほどしか測定できなかったのに、これはわずか1分で400万点も調べてくれる。これだけたくさんの場所を測定できると、局部的にわずかに変形しているといった従来では見つけにくいものもすべて把握できるし、1分だったら複数計測し大まかなばらつきも把握することができると思いました」
佐藤氏が注目したのは、長年抱いていた課題をクリアしていたことだった。
「まず、一度に測定できる平面サイズが280mm×280mmと、大きいものが測定できることです。他社製品で大きい平面を測れるものもありますが、それはガラス面に置く必要があり、突起部分のある部品は測定できませんでした。ShaPixは突起部分に関係なく測定できます。また測定精度は1ミクロンと、平面を測る測定機としては非常に高精度です。」
これを機に伊藤氏曰く「猛烈に勉強」し、多くの測定機を徹底的に比較。検討を重ねた結果、ShaPixがもっとも「大きいモノを精度よく測定できる」との結論に達し、2013年3月に導入する。アイシンAWは国内でShaPixを導入した、もっとも早い企業となった。

3Dデータだからできること

「導入してみて感じたのは、問題の発見が早く簡単になったことです。従来の方式では多くの場所を測定することが難しく、調査に時間を要していました。ShaPixは非常に簡単に細かく測定できるため、問題点をすぐに把握することができる。間違いなく“高精度な見える化”ができていると感じています」(佐藤氏)
伊藤氏、佐藤氏とも強調するのが、3Dであることのメリットだ。
「2Dデータは数字だけを見る場合、想像を働かせて形を見なければいけなかった。ところがShaPixは3Dデータなので直感的にどこが歪んでいるのかがすぐにわかる。また、設計者と測定者で測定の目的や方法がかみ合わず、測定をやり直すということがたまにありましたが、3Dの測定データを渡すことで設計者は確認したい場所を調べたい角度や表現で見ることができる。設計者と測定者で測定内容をすり合わせる時間が短くなり、たまにあった測定の再依頼もほとんどなくなりました」(佐藤氏)
測定時間は以前の2時間からわずか1分と劇的に減少。以前は時間がかかると躊躇していた測定も、今では気軽に頼めるようになったという。
「測定点の数が格段に増えたことで、問題点の追及だけでなく性能向上のためにも利用できると思っています。たとえば、面を加工したときに製品が歪むことがありますが、測定結果を踏まえて、製品形状や加工条件の最適化といった検討ができるようになります」(伊藤氏)
測定を担当する佐藤氏のところには、アイシングループの分科会のメンバーや大学の教授らが、最新の測定システムShaPixを一目見ようとやって来るという。
日々変革が求められる自動車業界において、アイシンAW製のATの販売台数は、1999年の325万台から、13年後の2012年には626万台とほぼ倍増した。この数字は、常に最先端技術に目を向け、いつも時代の一歩先を歩んでいることを雄弁に物語っている 。

接触式測定機と非接触測定システム「ShaPix」の測定比較

接触式測定機と非接触測定システム「ShaPix」の測定比較

接触式測定機と非接触測定システム「ShaPix」の測定比較

平面度計測技術マップ

  • 平面度計測技術マップ

導入された製品情報

ShaPixについて

ShaPix(シェイピックス)は、精密にサーフェス全体を測定する高度な平面測定システムです。
1ショット(150mm×150mm、もしくは280mm×280mm)
を約1分の測定時間、また約1μmの精度で測定し、対象物表面の平面度、うねり、形状データを取得します。複数の測定データを貼り合わせる機能を備えており、1ショットの測定範囲を超える自動車部品のような大きな対象物でも測定することが可能です。加工後の測定や組付時の測定における変形確認、不具合品の原因究明にも有効です。センサーのみの提供が可能※で、お客様のニーズに合わせたカスタマイズにも対応します。 ※S1500のみ対応可能。

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