放射線装置というメスでガンに挑む― 放射線治療を支えるクラウド ―【エレクタ/稲葉 守男】

日本人の2人に1人がガンにかかり、
3人に1人がガンで亡くなると言われている。
ガンはいまも死に至る病ではあるが、
その治療方法は日進月歩で進化している。
ガンの放射線治療は切開手術に比べ体への負担が少ないため
日々の暮らしを送りながら通院して治療することができる。
放射線をガン細胞に集中照射し周辺細胞への影響を極小化する
高精度な放射線治療装置のパイオニアがエレクタである。
放射線治療装置は技術とノウハウの積み重ねが必要となることから
メーカーは世界でも数社に限られるという。
ガン治療の最前線で今日も放射線治療医は
放射線治療装置というメスを手にガンと闘っている。

メスに変わる手術法として治療の可能性を広げる放射線療法

1981年に日本人の死因第1位となって以来、現在までトップの座にあるガンだが、医療技術の急速な進歩により「不治の病」から「治療する病」へと変わってきた。1970年代に30%程度であったガン患者の5年生存率は、独立行政法人国立がん研究センターの調査によると2005年に68%と大きく改善している。その理由としては早期発見に加え、腹腔鏡手術や化学療法、放射線療法など治療技術の進歩が挙げられるだろう。
「私の祖母は食道ガンで放射線治療を行い、5年が経過した現在も元気いっぱいです。ガンの罹患率は年齢を経るごとに高まり60歳以降から急速に増加します。高齢化社会を迎える日本において急増する高齢ガン患者への対策は社会的な課題です。手術によって切除することなくガンを治療する放射線治療は体への負担が少なく高齢者にとって重要な治療の選択肢の1つとなります」とエレクタ ケア サポート センター センター長 稲葉守男氏は話す。
一般的な放射線治療に要する時間は治療室への入室から退出まで10分から20分程度、実際に放射線が照射されるのは数分間だ。ガンの治療は数か月、数年単位で続くケースが多く、QOL(Quality of Life:生活の質)を保ちながら通院して治療できる放射線治療のメリットは大きい。
細胞に影響を及ぼす放射線の特性を活かす放射線治療の最大の課題は、ターゲットへの正確な照射と周辺細胞に対する影響の極小化をいかに実現していくか。この課題を解決するターニングポイントとなった放射線治療装置が1968年に開発されたガンマナイフだ。開頭手術することなく放射線を使い脳腫瘍などの病変部をナイフのように切り取る。その革新的な手法は頭蓋内外科手術で用いられるメスに代わる手術法として外科手術が困難な病変部への治療を可能にするなど、脳腫瘍治療の可能性を劇的に広げた。
ガンマナイフの開発者であるスウェーデン・カロリンスカ大学脳神経外科の故ラース・レクセル教授は1972年にエレクタを創立。「ガンマナイフはエレクタの製品名ですが、その名称が1つの分野をあらわすほどスタンダードな存在となっています」
ガンマナイフの機械誤差0.2mm以下という高精度の鍵は装置内部の200個近いガンマ線源の配置にある。ターゲット位置を精密にコントロールし病変部にピンポイントで集中照射しターゲットへのインパクトを強める。一方、個々のガンマ線は細く弱いため病変部以外の影響を最小限に抑えることができる。ガンマナイフは現在、日本で53台が稼働しており、ワールドワイドでも大きなシェアを占めている。

稲葉 守男氏

ガン細胞の形状に自在に合わせて放射線を照射

2013年の部位別ガン死亡率は、男性が肺、胃、大腸の順、女性が大腸、肺、胃の順(厚生労働省「人口動態統計」2013)。体中のあらゆる領域で発症するガンに対し汎用的に治療できる放射線治療装置は一般的にリニアックと呼ばれている。
リニアックはベッドに横になっている人に向けて放射線をあてる。ベッドが自由に動くことで体中のどこでも治療が可能だ。CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影法)やMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)の利用イメージに近い。
CTのように病巣を撮影するのではなく、病巣を取り除くリニアックは様々な形状のガン病変部に対しどのようにして正確に照射するのだろうか。「リニアックはビーム整形デバイスを使って腫瘍の形に合わせて照射します」と稲葉氏は話しながらメモ用紙に仕組みを書き始める。
「放射線が照射されるアームの出口部分に、マルチリーフコリメータと呼ばれる5mm厚の金属板が並んでいます。放射線を遮蔽する金属板の特徴を活かし、リーフが前後することで自在に照射部分の形を変えながらビームを整形してガンの形状に合わせます。エレクタのリニアックのリーフ数は80対160枚です。光はレンズで集光できますが、X線は絞り込むことが性質的にできないためリーフがレンズの代わりをしていると言えるでしょう」と稲葉氏の説明はわかりやすい。マルチリーフコリメータを高速で動かすことにより、腫瘍の形状に正確に適合した高度精密な照射を短時間で行う事を実現している。
「技術の進歩によりビームが安定して照射できるようになり、病変部を面ではなく立体として扱えるようになってきました。現在は患者さんのまわりをアームが回転しながら照射する方法が主流です。また照射中にCT画像を同時に収集し治療計画通りに照射が行えているかどうかを確認するといった安全性向上のための技術革新も進んでいます」
放射線治療装置は技術やノウハウを積み上げていく歴史が必要な分野であり新規参入の障壁は高い、と稲葉氏は話す。リニアックのメーカーはエレクタと他1社に集約されつつあり、現在、エレクタのリニアックは日本国内の180の病院で導入され国内シェアは50%を占めているという。
エレクタの製品には、ガンマナイフとリニアックに加え、ソフトウェアの治療計画装置がある。「外科の手術と違って放射線による治療は本当に何が起きているかは見えません。治療計画システムはCT画像などを見ながら病巣に対する放射線の照射方法を検討し、適切な線量が処方できているかを確認するためのシミュレーターです。治療計画に基づき決定した照射方法は放射線治療装置にデータ転送されます」
放射線治療は装置を安定して動かすことが重要であり、そのためのサポート体制が果たす役割は大きい。2014年11月、放射線治療装置から治療計画装置までエレクタ製品全般の修理、取り扱いに関する問い合わせ窓口を一本化した「エレクタ ケア サポート センター」がスタートした。同センターはサポートのスピードを非常に重視している。迅速なサポートが患者の治療計画のスムーズな実施につながるからだ。

ガン組織の形状に合わせた照射を可能にするマルチリーフコリメータ

ガン組織の形状に合わせた照射を可能にするマルチリーフコリメータ
(エレクタ株式会社提供)

放射線治療医からの問い合わせに直接エンジニアが対応

放射線治療は患者への負担と治療効果のバランスを考えたうえで治療回数が決められており継続して行われなければならない。万が一、装置にトラブルが起きて治療が延期になれば治療効果を損なうリスクが生じる。「当センターの使命は装置のトラブルや操作に関するお問い合わせに対し確実かつ迅速に応えることです」と稲葉氏は話す。
同センターを支えるシステムは、オンプレミス(自社運用)ではなくクラウドサービスを利用している。クラウドサービスのメリットは資産を所有する必要がないため投資の最適化が図れたり、運用負荷を軽減できたりすることだ。だが同社がクラウドサービスの選択でこだわったのはサポートのスピードと質に関わる2つのポイントだった。
「1つめのポイントはお客様が電話をかけてきたとき、取り次ぎが入ることなく当社のエンジニアに直接かつ簡単につながることです。お客様が事情のわからない人に説明したり、何度も入力しないとつながらなかったりすることで、患者さんの治療に取り組むお客様の貴重な時間を無駄にすることはできません」
2つめのポイントは同社内のシステムと連携しお客様の情報を参照できることだ。「お客様から電話があったときにお客様の名前はもとより、今日何回目のお電話なのか、前回のお問い合わせ内容は何かなど、画面に表示されたお客様情報を見ながら対応できれば会話もスムーズに進みます。また前回と同じスタッフが電話で対応できるとは限らないためスタッフ間での情報共有は必要です」
同社の2つのポイントに応えることができたのが、丸紅情報システムズのクラウド型コンタクトセンターサービス「V-TAG」だった。「当社が求めた2つのポイントは標準サービスの範囲外でしたが、丸紅情報システムズは当社の立場に立って短期間で解決策を提示してくれました。サービス内容に加え、サポート力や技術力も採用のポイントになりました」
同センターがサービスを開始してから半年以上が経過した。治療計画装置は使い方をサポートすることにより95%は電話で課題を解決しているという。また放射線治療装置もリモートサポート機能を活用することで30%は電話でその日のうちに対応が可能となった。

エレクタリニアックの最高機種であるVersa HD

エレクタリニアックの最高機種であるVersa HD
(エレクタ株式会社提供)

クラウドを活用し時間外のサポート強化を検討

放射線治療は、放射線科専門医認定試験を合格した放射線治療医と、放射線治療医とともに最適な照射方法を決める医学物理士、放射線治療医の指示のもとで実際に照射を行う放射線技師などがチームで行う。
同センターに対する医学物理士や放射線技師からのお問い合わせは装置を立ち上げる朝から午前中が多く、放射線治療医からの電話は診療や治療が終わった夕方に集中するという。現在、同センターの運用は午前8時から午後7時までとなっており、時間外の対応は外部に委託している。
「センターの運用時間帯について朝はもっと早く、夜はもっと遅くしてほしいというお客様のニーズがあります。そうした声に応えるためにV-TAGを活用し時間外でも当社のスタッフでサポートが行えるようになればと考えています」
従来型のコールセンターなど自社で構築し運用を行う仕組みでは、システムのある場所に担当者が行かなければ電話でのサポートはできなかった。パブリッククラウドをITインフラにコールセンター機能をサービスとして提供する「V-TAG」はインターネット回線とPC、ヘッドセットさえあれば北海道や九州のスタッフでも電話によるサポートが可能だ。
午後5時を過ぎたころ、同センター内ではモニター画面を前に3人のエンジニアが真剣な表情で話し合う姿が見られた。「お客様が当センターに電話をかけてきたとき、隣の席にいるエンジニアに話しかけているかのように相談しやすい雰囲気にしたい。そのためにはお客様をよく知ることが大切です」と稲葉氏は話す。
放射線医療の現場と同センターを結ぶホットラインは、患者の生命を支える力となっている。

導入された製品情報

MSYSクラウド型コンタクトセンター 「V-TAG」

コンタクトセンター/コールセンター業界は、再編やサービスの多様化など大きな変革期を迎えており投資の最適化は重要な課題です。「V-TAG」(*1) はパブリッククラウドをインフラ基盤に、インバウンド・アウトバウンド機能を提供するグリッドコンピューティング型クラウドコンタクトセンターソリューションです。従来のコンタクトセンター/コールセンターシステムは、コンタクトセンター運営事業者が自社運用で構築・所有していましたが、「V-TAG」はPCとヘッドセット以外に機材を資産化することなくクラウドサービスとして利用することが可能です。案件に応じて必要な席数・機能を柔軟かつ効率的に配置し投資の最適化を実現します。

(*1)米スリーシーロジック(3CLogic.Incメリーランド州ロックビル、CEO:ラジ・シャルマ/Raj Sharma、設立:2007年)製クラウドコンタクトセンターアプリケーション

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