日本の大動脈を止めるな!頭を悩ませてきた雪との戦いに挑む【中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京 小林 浩氏/小山 靖二氏】

日本中に張り巡らされている高速道路。
その総延長は実に9,145.9 km。まさに日本の大動脈だ。それが止まることは人々の生活や経済に大打撃を与えてしまうことを意味する。
「路面、非常電話、トンネル、橋、ETCシステムなど、点検しなければいけない箇所は山のようにあります。それらを日々点検し、問題があれば修繕するなどしているのが我々の主な仕事です」
そう語るのは、高速道路の保全管理を行う会社の一つである中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京の小林浩氏だ。
多くのスタッフによって日々行われている保全管理。だがときに、思わぬことによって大動脈が止まってしまうことがある。
不測の事態をどのようにして未然に防げばいいのか──。
日本の大動脈を守るために奔走する人々を追った。

小林 浩氏/小山 靖二氏

837kmもの区間を保全点検・管理

「NEXCO(ネクスコ)」。
その名前は誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。「Nippon Expressway Company Limited」の略。2005年に日本道路公団が民営化されて生まれた3つの高速道路会社の愛称だ。
北海道や東北、北関東などを管轄するのが東日本高速道路(NEXCO東日本)、主に大阪から西を管轄しているのが西日本高速道路(NEXCO西日本)。中部地方のほか、神奈川や東京などを管轄しているのが中日本高速道路(NEXCO中日本)。そのNEXCO中日本のグループ会社が中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京である。
「社員は約800名、有線マルチコプターを用いた構造物点検システムなどの技術開発、高速道路の電気・通信設備に関するコンサルティング・調査・分析事業などがありますが、もっとも大きな比重を占めているのが高速道路の保全管理です」
同社が管轄しているのは、東名高速道路の東京~豊川間、新東名高速道路の御殿場JCT~新城、中央自動車道の高井戸~河口湖、大月JCT~伊北、長野自動車道の岡谷JCT~安曇野、その他にも圏央道、西湘バイパス、小田原・厚木道路などの合計837kmの区間。国道1号線の東京~大阪間が約800kmなので、ほぼそれに匹敵する長さの高速道路を管理していることになる。
同社管轄内には15の現場事務所があり、そこから出動して点検・管理などを行っているが、点検で使う専用車両の代表的なものの一つに「路面性状測定車」がある。黄色い車体から「ロードタイガー」の愛称で呼ばれており、時速100kmのスピードで走りながら前方では路面にレーザーを照射することで「わだち掘れ」※1を見つけ、後ろからは道路にライトを当て、微妙な影をカメラで撮影することでひびわれを見つけるというものだ。
「保全点検・管理する箇所は道路だけでなく、照明、トンネル内の設備、道路情報板、ETC設備、料金所、非常電話、休憩施設など非常に広い範囲が対象になります。設備も、電気、通信、建築、機械、水質と多岐にわたるため、1級土木施工管理技士が200名あまり、第一級電気施工管理技士が40名など、それぞれの専門的な知識と、20種類もの資格をもったエンジニアが対応しています」
起こる問題もさまざまだ。路面のわだち掘れやひびわれだけでなく、車からの落下物、道路周辺の植栽の影響、動物の侵入、「切土のり面」※2の劣化など、多くの問題が生じる。そうした日々の保全点検・管理の仕事を行うなかで、エンジニアたちをずっと悩ませてきたものがある。雪である。

※1 わだち掘れ:道路の走行部分において、連続して縦断方向に生じた凹凸状態
※2 切土のり面:切土により作られた人工的な斜面」

小林 浩氏

雪対策の基本は「人海戦術」

「弊社は北海道や東北地方とは違い、それほど雪深い地域を管轄しているわけではありませんが、それでも北は長野県の安曇野や安房峠道路まで管轄しているため、一部の寒冷地も含まれます。また、ときどき首都圏などでも大雪が降るときがあり、そうしたときにも大きな問題を抱えることがありました」
雪が降ることによる影響は甚大だ。道路上があまりに堆雪すると車が走行不能になり、道路標識板や料金所トールゲート上屋の積雪は雪の塊の落下に繋がり、走行中の車に直撃する危険性がある。
「トンネル内の入口付近には『持込雪』という検討課題があります。持込雪は風の力でトンネル内に持ち込まれる場合と、除雪車によって持ち込まれる場合があり、これによってトンネル坑口から約50m付近の「監査路」※3が雪に埋まり、人が歩けない状態になってしまいます。ここはとても重要な場所で、緊急時の非常電話ボックスや消火栓・消火器などの設備があり、その扉が堆雪や凍結で開かないと事故や火災など緊急時の対応ができずに被害を拡大させてしまうことにも繋がります」
こうした事態を防ぐために行われる対策は、基本的には「人海戦術」だ。
雪が降りそうになればタンクに凍結防止剤を積み込んだ薬剤散布車が動き、道路に散布する。これにより融雪のほか凍結防止を図る。
また、雪に埋まった路上非常電話機は現場まで出向き、スコップによって手作業で雪をかき出していく。また、本線上の道路標識板は高所作業車を使って雪を落としたり、料金所トールゲートの屋根に積もった雪もスタッフの手作業で雪を落とす。当然ながら一度で済むものではなく、雪が降りそうになったり雪が積もるたびに出動しなければならない。
「毎年、雪対策には莫大なコストを費やしています」と小林氏は語る。
そして積雪は、社会的な影響を及ぼすこともある。
中央自動車道など都市近郊の寒冷地以外でも料金所に複数設置されているETCレーンのゲートバーが開かなくなり、大渋滞が発生した。原因はまれな都会に降った大雪だった。
「ETCレーンの車両検知器には光センサーが内蔵され、レーンを挟んでお互いに投・受光部となっています。通常なら問題なく光を受信できるのですが、雪によってセンサー部分が埋まって光が遮られ、誤作動を起こしバーが上がらなくなってしまったのです。それによって車が通行できず、大渋滞が発生してしまい道路利用者のお客様からお叱りを受けることになりました」
除雪にかかる膨大なコストと人、そして図らずも発生してしまう社会的な問題。この状況を少しでも変えるにはどうしたらいいのか。
そんなとき、小林氏の目にあるものがとまった。

※3 監査路(かんさろ):トンネル内部に設けられた点検や避難用の通路

小山 靖二氏

度重なる実験で得た「使い物になる」という自信

東北のイベント会場で偶然会った1人の技術マンを通じて目にしたのは、ある素材でつくられた面状発熱ヒーターだった。
「ヒーターと言えば従来からのニクロム線を使ったものが主流でした。ニクロム線は線状発熱なので線があるところは温かいものの、そうでないところは冷たく温まり方にムラがあります。温度ムラは融雪にはとても非効率なのです。また、ニクロム線は一定の温度に達するのに30分程度かかるなど効率がよくありませんでした」
ところが、目にした素材はニクロム線とはまったく異なっていた。
「面状に均一発熱し、わずか数分で温まるので省エネにもなる。素材も柔らかく、折り畳んで持ち運べたり、円状のものに巻きつけたりもできる。そのうえ断線しにくく、仮に断線してもその周辺が発熱されないだけで、ほかの部分はずっと温かい。これまで見たことのない素材でした。これまでの雪問題の解消に試しに使ってみようかということになりました。面状発熱体に使われている素材は、カーボンナノチューブをコーティングした糸で織られた導電繊維というものでした。後で知ったことですが日本の研究者によりカーボンナノチューブが発見されてから25年余りが経ち、現在まで融雪用途での活用がされていなかったことでした」
2013年5月と2014年5月、小林氏らは2年続けて山形県新庄市に足を運ぶ。出向いたのは防災科学技術研究所の雪氷防災研究センター。知る人ぞ知る世界的にも非常に優れた人工降雪施設で実験を行うためだ。
標識支柱などの落雪実験や、舗道のインターロッキングや舗装道路の融雪検証などを実施。そして2014年2月にはフィールド実験として、豪雪の土地で知られる新潟県湯沢町にある湯沢インターチェンジ内の人が立入らないスペースに、2~3畳ほどの大きさの融雪マットを敷き、融雪試験検証を実施した。
「湯沢の積雪は一晩に1.6mも積もる時もありました。その真ん中に融雪マットを置き、ネットワークカメラにより弊社から監視していたのですが、ワンシーズン通して上々の融雪効果が得られ、。すごい自信につながりました。」
そして、懸念事項だったETC検知器の融雪も検証。結果は想像以上だった。
「雪が付着しセンサー誤作動の原因となっていた箇所に雪がまったくつきませんでした」
そして、こう確信することになる。
『使い物になる』──。

融雪ナノマット

融雪ナノマット

高速道路だけでなく、雪国での活用も視野に

2015年、中央自動車道の料金所を皮切りにETC検知器が設置されたレーンに、多くの融雪マットを導入する。マットには丸紅情報システムズが国内販売代理店として取り扱うCnano社製のカーボンナノチューブをコーティングした導電繊維が使われており、このカーボンナノチューブが10億分の1m(ナノ単位)の極小チューブであることから『融雪ナノマット』と名付けた。
「実は北海道や東北ではETC検知器が寒冷地仕様になっており、ニクロム線の融雪ヒーターが使われています。ところが受注生産品で半年以上の納期とコスト高でした。一方で融雪ナノマットはわずか1~2週間ででき、コストも従来品より安い。早期に導入できたのはナノマットだからといえます」
融雪ナノマットは玄関用、階段用が一般の方にも販売されている。高速道路施設の玄関や階段にも導入済だ。
今後は路上非常電話機、トンネル内、料金所上屋庇、道路情報板など、あらゆるところで用途が見込まれる予定だが、堆雪、落雪対策だけでなく、高架橋の路面上排水管やトンネル導水プレートなどの凍結抑制で使っていきたいという。
「雪国に出向いて『困っていることはなんですか?』と訊くと、一番多いのは家の雪下ろしなのです。村落は高齢者が多く、体力的に雪下ろしが大きな負担になっており、場合によっては屋根から落下してしまう人もいます。空き家も増えて雪下ろし作業ができず、雪の重みで家もつぶれることがあるそうです。また雪国では、歩道に積もった雪を下水用のマンホールの中に流し込む慣例があるそうです。毎年のように蓋の空いたマンホールに子供が落ちて亡くなるという不幸な事故の話も聞きました。この融雪ナノマットをさらに改良して、こうした困っている人たちの手助けができないかなと思っています」
日本の大動脈を守るべく生まれた融雪ナノマット。
小林氏と小山氏らはその用途をさらに広げ、雪国の生活を大きく変える救世主になる可能性がある、と活用を模索し始めている。

融雪ナノマット

融雪ナノマット

  • 階段での敷設例

    階段での敷設例

  • 氷雪防災センターでの実験風景

    氷雪防災センターでの実験風景

  • トンネル内の持込雪で埋まった非常電話

    トンネル内の持込雪で埋まった非常電話

  • トンネル監査路上の漏水凍結

    トンネル監査路上の漏水凍結

導入された製品情報

カーボンナノチューブ(CNT)とは

中空円筒の構造をした炭素の結晶で、直径0.7~70nm(1nmは1mmの百万分の1)と髪の毛の約数万分の一、長さが数十µm(1µmは1mmの1000分の1)以下のチューブ形状の物質。高いアスペクト比(長さと直径の比率)から、1グラムあたり100~1000㎡とされる広大な表面積が大きな特徴とされています。

カーボンナノチューブフューチャー
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