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苦戦する数々の獣被害対策獣被害対策は大きく3つある。1つは「被害管理」と呼ばれるもので、もっとも多くおこなわれている方法だ。「『被害管理』は簡単にいうと柵を設けたり、追い払ったりすることです。2つ目が『生息地管理』というもので、動物が住める森をつくったり、人と動物の境界線に緩衝帯のようなものをつくる方法です。動物は森が突然開けていたりすると警戒してなかなか出ようとしない。そこで、木々を帯状に刈ってわざと開けた場所をつくるわけです。そして3つ目が『個体数管理』、すなわちハンティングです」 どれも有効に思えるが、それが一筋縄ではいかないという。 たとえば「被害管理」における柵の場合、小さな畑だけを囲うならいいが、そこだけ囲ってもほかの畑に侵入されてしまうため、地域全体で取り組む必要がある。また、柵はイノシシやシカには有効だが、サルは柵を登ってしまうため、電気柵を使うことになる。これは設置費用もかかる上、メンテナンスを怠るとすぐに雑草が茂り、漏電や効果減少といった事態をまねいてしまう。 「獣を追い払うことは、体力も必要で高齢者では無理。犬を使って追い払う方法もあるものの、その訓練に膨大な時間を費やさなければいけません。『生息地管理』で緩衝帯を設ける方法も手間がかかり、『個体数管理』でのハンティングも8人で山の中を1日中歩き回って1頭を獲るのが精一杯なため、決して効率がいいとはいえませんでした」 またサルは、下手に捕獲してしまうと、群れが分裂して四方から入ってくるようになり、逆に防がなければならない箇所が増えてしまうという問題もあった。 「いろいろな対策を同時におこなうことで多少なりとも効果が出るのですが、それでも被害は一向に減らない。何かいい方法はないかと思案していたとき、『これは』と思ったものがありました。『音』です」 |
気づいた「音」の可能性音。 |
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手ごたえを胸に、新たな対策を模索する竹田准教授が興味をもった遠距離音響スピーカー『エルラッド』は音の指向性が非常に高く、数百m先、機種によっては2km以上先まで届く大音響を発生させることが可能だ。「指向性が高いということは、近隣に迷惑をかけることなくピンポイントに音を動物に聞かせられるということを期待できます。また、遠くまで音が届くのも魅力的です。発情牛を呼び寄せる実験の際、ふつうのスピーカーだと100mほどしか届かず、音量を上げると音が割れてしまいます。これならば、1km先の牛も呼び寄せることができるかもしれない。またハンディタイプの商品もあると聞き、それなら高齢者の方でも扱うことができるだろうと考えています」 2009年初夏、竹田准教授はさっそく『エルラッド』のスピーカーを使い、簡単な実験をおこなった。キャンパス内で飼っている羊の群れに対し音を鳴らし、どういう行動をとるか試したのだ。羊の群れまでの距離は20~30mほど。スピーカーのスイッチを入れる。「ピーピーピー!」という警告音が流れる。羊たちにスピーカーを向ける。動かない。音量を上げる。動かない。さらに上げる。そのとき、羊の群れはおびえるように一斉に逃げていった。 「今回は“人が嫌がる警告音”を使いましたが、本来なら“動物が反応する音”を流さないといけません。どういう音を嫌がるのか、好むのか、そうした研究がこれからどんどん進んでいけば、より効果的にこちらが期待する行動をとらせることができるはずです。また、音とともに視覚やにおいなどもセットにして『動物に効く体験』を増幅させる工夫も必要だと思います」 竹田准教授は、動物に効く音について、こんな実験もしてみたいと話す。 「子牛の鳴き声を聞かせると、乳がよく出るホルモンが分泌されるという論文があるのです。搾乳の前に子牛の声を聞かせたら、生産性のアップにつながるかもしれませんね」 また、牧場に等身大のシカの模型を置いておびきよせる、という実験もしているが、そこでも音の効果を試してみたいと言う。 「最近おこなった実験では一度に40頭も捕獲できました。模型という『視覚』だけでこれだけ集まったので、『音』を加えればさらなる効果が期待できるはずです」 追い払うための音、おびき寄せるための音、そして生産性を上げるための音──。研究したいテーマが次々と出てくる。 「鹿から話が聞ければ、研究も楽なんでしょうが」 何とかしたい、人のために、そして鹿のために。やさしげな表情の中に、強い情熱を感じた一瞬だった。「音」という新たな力を手に、竹田准教授は人と動物の共生の道を探っている。 |
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