| 望月教授: |
確かに一見しただけではあまり関係ないようにも思えますが、実はこれが深い関係にあるのです。
たとえば、管の中に燃料やオイル、冷却材などの液体を流すことを考えてみましょう。これは通常、ポンプで動かすことになりますよね。ところが、管に液体を流すというのはけっこうたいへんなことなのです。ストローで飲料を吸い上げる時のことを考えてみてください。長いストローと短いストローでは長い方が吸いにくいですし、細いストローと太いストローでは細い方が吸いにくいでしょう。これは、細くて長い管ほど大きな抵抗が生じるからなのです。当然、抵抗が大きくなればポンプも大きくなってきます。
この課題の解決のために注目しているのが、生体の持つ機能です。たとえば人体の毛細血管は、ほんの数ミクロンという細い管で、これが全身にくまなく張り巡らされているわけですね。一方、ポンプに当たる心臓は、わずか1ワット程度の出力しか持っていません。にもかかわらず、きちんと全身に血液を送ることができているのです。
あるいは植物もそうです。メタセコイアなどは100メートルもの高さに達することがありますが、これなどポンプすらないのに水を送ることができています。
こうしたことから考えると、生体というのは管におけるかなりの抵抗軽減デバイスを持っていると推測されます。現在の工学屋の技術よりもはるかにすごい技術ですよね。ですから、生物に見習って、その運動や機能を模倣していこうと。これは「バイオミメティクス」というのですが、機能ロボティクスでは、このバイオミメティクスも重要な位置を占めているのです。私の場合は流体力学からのアプローチになりますが、他にもさまざまなアプローチがあります。たとえば外骨格などでしたら材料工学へと応用が利きますし、多足生物の運動を段差のある場所で移動できる特殊車両へと応用することもできます。細胞の浸透圧や群体行動※1なども重要になってきますし、生体と物理学、機能ロボティクスとは切っても切れない関係にあるのです。
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※1 |
群体行動:虫や魚などの群れにおいて、多数の個体が集まってあたかもひとつの個体であるかのように振る舞う行動。統率する意志がないにもかかわらず成立しており、その仕組みは群ロボットに応用できると考えられている。 |
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望月先生はご自身の研究にもMEMSを活用されていますよね。
実際にどのような形で活用されているのか、お聞かせください。
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| 望月教授: |
私自身とMEMSとの関わりは、最初は航空力学における翼の失速制御の研究が始まりでした。翼が飛ぶためには揚力が必要ですよね。そして、揚力が発生するためには、空気の流れが翼に沿っていなくてはなりません。ところが離着陸時などのように迎え角※1が大きくなると、この流れが翼から剥離する現象が起きてしまいます。当然、揚力は低下しますし、そのまま失速、悪くすれば墜落ということにもなりかねません。そこで、翼に沿う流れを制御したいときにはフラップ(高揚力装置)を使ってコントロールしているのですが、実はそのコントロールのための装置自体が非常に大きくて重量もあるものなのです。したがって、余計に揚力を稼がなくてはいけませんし、燃費は悪くなるしで、なかなか厄介なんですよね。
そこで我々は「高揚力装置を外してしまおう」と考えたわけです。要は剥離が起きなければそれでいいのですから、そのための装置は小さくても可能ではないかと。これにMEMSを用いているわけですね。流れを検出するセンサーや制御アクチュエータなどのマイクロマシンで剥離制御を行っているのです。 この流れの乱れというものは非常にスケールが小さいので、小さなデバイスで制御するというのは理にかなったことなのです。こうして、私自身は「流れを制御する」という視点からMEMSをやっていました。
また、先ほどの管の話でも実はMEMSが活躍するんですよ。抵抗が大きくなる原因には、管の中で生じる乱流というものもあります。つまり、非常にスケールの小さな渦がたくさんある状態なわけですね。これをMEMSによって制御すれば、抵抗を軽減することができます。抵抗が減ればポンプも小さくなります。長い管を使って液体を流すような装置としては、たとえば地域暖房※2などがありますよね。こうした装置において、流れの抵抗を小さくできるということは大きなメリットがあるのです。
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実現を目指して先生が研究中のロボットについて教えていただけますか?
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| 望月教授: |
現在は微小飛翔体の研究を進めています。ようするに、蚊やハエみたいな小型の飛翔ロボットです。観測のためのセンサーを搭載すれば、災害の調査や気象観測にも使えます。高空での気象データを大量に取得できれば、それだけ気象予報も正確に行えるようになりますしね。
ところが、観測機として使うためには、安く大量に作らなくてはなりません。そのためには、機能を減らして燃料を減らして、大量のものを頻繁に飛ばす必要が出てきます。群ロボットとしての連携も考えなくてはいけないですよね。さらには、回収の費用を考えたら使い捨てにせざるを得ませんから、自然分解の素材のみで作らなくてはならないでしょう。課題はたくさんあるのです。
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※3 |
迎え角:機体の進行方向と翼弦線がなす角のこと。機体の仰角ではない。
地域暖房:清掃工場のゴミ焼却廃熱などの未利用エネルギーを活用して温熱を集中製造。地域内のビルや住宅に配管を通じて熱を供給するシステム。
成層圏:対流圏の上の層。高度約11~50キロメートル。 |
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機能ロボティクス学科では、CoventorWareを学生の教育にも活用されているのでしょうか?
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| 望月教授: |
こうした製品のいいところは、実際にモノを作らなくても、アイデアを形にできるというところにあります。学生にはどんどん使わせて、実際の設計をやらせていきたいですね。
また、企業との連携にも活用していければと考えています。企業の一研究室のように捉えていただいて、ここで生み出された製品を実際の商品にしていただくのもいいかと。
あるいは、これからは大学もある意味、企業のような側面を持たなくてはならないでしょう。CoventorWareでアイデアを設計レベルまで持って行き、それを知の財産として売買するということも考えられます。
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それでは最後に、研究者としてのモットーをお聞かせください。
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| 望月教授: |
工学は愛、ということでしょうか。つまり、他人が喜ぶ何かを作り出すこと、ひいては人に生きる希望を与えること、それが工学だという考えのもとに研究を進めています。
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