自動車・二輪分野 3Dプリンター活用事例
東京都内でカーオーディオ事業を専門とするビジネスを展開するAudio Factory SOUND Pro.。市販のカーナビゲーションの取付けから、カーラジオ、スピーカー等の音響機器販売やその取付けサービスを提供する。店舗の内外には、オーナーのこだわりが一眼で感じられる車両たちがずらりと並ぶ。
「日本全国のディーラーでも施工が困難だという相談も入ってきます。」と、代表の竹原氏は難易度の高い施工技術が必要とされる加工取付けは得意分野だという。比較的小規模な同社ながら、ここまで顧客からの信頼を得て各地から相談が寄せられるようになったのはなぜだろうか。
2014年末からメイカーズムーブメントと呼ばれる3Dプリンターブーム。この頃を機に3Dプリンターの認知度がアップし各所で使用が広がっていった。まずは新しいツールとして活用の可能性があるのか?代表の竹原氏は同様の小型3Dプリンターを試しに1年ほど使ってみたという。その中で、3Dプリンターを活用するメリットも多くあるものの、このグレードのシステムでは実現できないことが見えてきた。積層のみで再現できるシンプルな形状は手軽に作成ができるが、特に樹脂部品などで必要とされるオーバーハングやスナップフィットの爪のような形状は再現が難しい。
もっと様々な形状を強度の高い材質で再現できる方法はないか?色々とリサーチを重ねるうち、丸紅情報システムズ(以下MSYS)が取り扱うプロフェッショナル向けFDM 3Dプリンターの存在を知る。とはいえプロフェッショナル向けの3Dプリントシステムをいきなり導入することは大きな投資であり、躊躇もあった。そこでMSYSが提案するレンタルサービスをまずは利用することにした。
東京都豊島区に拠点を置くAudio Factory SOUND Pro.。工場内外に、全国各地から施工を待つ車両がずらりと並ぶ。
代表の竹原氏とF370 3Dプリンター。樹脂製のエンドユースパーツ作成に適したシステムを模索し、F370の導入を決めた
そんな中、社内で同じく使用を始めた3DCADと合わせF370というツールが揃ったことで、元来同社が提供していたカーオーディオ等の取り付けサービスがさらに拡充していく。
同社のビジネスの対象となる車両の多くは、いわゆる大衆車ではなく、生産台数も比較的少なく車両価格も高い車種である。故に、オーナーはその車両を長期間保有し、カスタマイズなどアフターサービスに投資をすることも多い。
「元来、私たちのような業界や板金加工を行う企業は、手作業による部品製作は得意とするところです。しかし課題もある。」と、竹原氏は語る。NC旋盤や既存部品などを組み合わせて、オーナーが希望する部品に近いものを作成することはできます。しかし部品点数が多ければそれだけ工数も時間もかかる。最終的に部品が完成できたとしても、破損の場合や別の顧客からの「もう一個欲しい」というニーズがあっても同じものは作成できない。
顧客からの要望で誕生した一例がこのシーリング用制御パネルの外装カバーである。それまで板材と既存の樹脂製部品の複数パーツの組み合わせで作成していたが、3Dプリンター導入後はカスタムで設計した部品を強度が高く耐候性に優れたASA材料で一体造形している。内側の細かなリブ形状やスナップフィットの爪も再現されており、外側の意匠面は量産部品と同様の仕上げを施すことで一見すると3Dプリント部品とはわからない。
オーディオ機器などの取り付けは、機能性を損なわず如何に自然に必要なシステムを車両に取り付けられるかが鍵となる。ニーズに細やかに応えるカスタム部品作成を可能にし、さらに複数部品を統合することで作業効率をアップ。失敗のない安定したシステムにより無人で夜間造形を行うことで、従来3日かかっていた工程をたった1日まで削減することができた。こうして実現した複雑な外装パネルも、データがあれば必要な時に同じものを手軽に作成できるため、再販を可能にした。
3Dプリンターで実際に作成したシーリング用制御パネルの外装カバー。
3Dプリントによるカスタムメイド部品は、高い機能性を備えかつインテリアに馴染む意匠性も備えている。
これまで3Dプリンターでつくった数々のカスタムパーツ。
市販のスマートフォンホルダーの取付け用アダプタ。アダプタを3Dプリントすることで一般的なアクセサリを車両にぴったりと取付けることができる。
3Dプリンターによる小ロットのカスタム部品作成が可能になったことで、意匠部品以外にもAudio Factory SOUND Pro.社のサービスの幅を拡げていった。小さな、しかしオーナーにとっては重要な小型部品のキット販売である。スマートフォン用のスタンドやオーディオスピーカーなどの市販の取付け用アクセサリの多くはより一般的な車種に対応するようデザインされている。つまり、その他のモデル:特に価格帯の高い国産車や海外メーカーの車両に取付けるには形状が合わない場合が多い。このような場合のアダプターを3Dプリントすることで、既存製品を活用しつつ様々な車両にも違和感なく取付けをすることができる。
最近では、そのオーナーのニーズに細やかに対応するサービスがクチコミで広がり、同じサービスを希望される方や、「こんなカスタマイズができないか」という問い合わせも増えている。
「私たちは3Dプリントカスタム部品自体が大きな利益になっているというわけではないが、確実に仕事の一環として重要な要素となっています。これらの部品はほんの一部。3Dプリンターの特性や材料を理解したからこそ、今後実現したいことがまだまだあります。」竹原氏は眼を輝かせて語る。従来工法と3Dプリンターという最新ツールも使いこなすことで、Audio Factory SOUND Pro.社はそのきめ細やかなサービスをさらに拡げていく。