独立行政法人国立高等専門学校機構 都城工業高等専門学校様

高品質、安全性を重視し金属3Dプリンターを導入塑性加工で最先端のものづくりの研究・教育を実現。

多くの人材を輩出し、地域との連携にも力を注ぐ都城工業高等専門学校(以下、都城高専)。同校の機械工学科では、最先端のものづくりの研究・教育環境整備の一環として、丸紅情報システムズ(以下、MSYS)が提供する金属3Dプリンター「Studio システム+」を導入した。有資格者の配置を必要とする有機溶剤を使う「脱脂」と、消防法への対応が求められる「焼結」の2つの工程を、MSYSのサービスとして提供を受けることも採用の後押しとなった。 同校では、塑性加工において金属3Dプリンターによる金型の造形と、造形した金型を使った加工の実用性や可能性について研究・教育を進めている。

  • 金属3Dプリンターで造形した金型の実用性について、研究・教育を行いたい
  • 金属3Dプリンターの学校内への導入において、安全性とスペースの課題を解決したい
  • 要望や問い合わせに対して、迅速なサポートの提供を受けたい

金属3Dプリンターの実用性と可能性を塑性加工学の研究テーマに

南九州の産業、経済、教育などの中心的役割を担う宮崎県都城市。同市に1964年に設立された都城高専は、現在、機械工学科、電気情報工学科、物質工学科、建築学科を有しており、県内外から集まった802名の学生(そのうち女子学生231名)※1が学んでいる。学科以外にもロボットコンテスト、プログラミングコンテスト、ディープラーニングコンテストなどへの参加も積極的だ。

同校の教育理念「優れた人格を備え国際社会に貢献できる創造性豊かな実践的技術者の育成」のもと、世に送り出し、地域やグローバルで活躍する人材は7,000名に及ぶ。また同校の地域連携テクノセンターが中心となり、産学官連携プロジェクトや、技術により農業変革に寄与する農工連携などを進め、地域社会の発展に貢献している。

同校は、工業技術者育成のために各種実験・実習設備など学習環境の整備にも力を注ぐ。デジタル化が進む中、同校機械工学科准教授 瀬川裕二氏は、新たな研究に取り組むべく、2019年に金属3Dプリンター導入に向けた申請書を提出した。その理由について、同氏はこう話す。

「私の専門分野は塑性加工学です。塑性加工とは、金属をはじめとする物質が、一定の力によって変形すると元に戻らない性質(塑性)を利用した加工法です。塑性加工の1つであるプレス加工は、身近な日用品から自動車、医療機器、飛行機まで様々な工業製品の大量生産に欠かせません。金属の板に金型(金属の型)を押し付けて成形するプレス加工は、金型の製作に高い技術やノウハウが必要です。そのため、多くのコストと時間がかかることが課題となっていました。金属3Dプリンターで金型を造形することで、コストや時間の課題を解決することが可能です。実際に金型としての強度や品質を実現できるのかなど、塑性加工における金属3Dプリンターの実用性や可能性の追求を新しい研究テーマとしました」

2020年1月に、塑性加工学の研究で活用する金属3Dプリンターの導入申請が採択された。瀬川准教授は金属3Dプリンター選定のために、複数ベンダーから直接話を聞くことにした。

※1:2021年4月1日現在

MSYSの柔軟な提案が導入を後押し

従来、金属3Dプリンターの主流だったPBF(パウダーベッド)方式は、材料となる金属粉末を一層ずつ敷き詰めてレーザービームを照射し、金属粉末を溶融し層を重ねることで造形する。金属粉末を使うPBF方式は、作業者の健康被害を防ぐ防塵対策や、粉塵爆発のリスクを回避する防爆対応が必要となる。高額なコストや大きな装置サイズも導入時の課題となった。PBF方式の様々な課題を解決し、金属3Dプリンター普及の推進力となったものが、3Dプリンターの造形方式の1つであるBMD(Bound Metal Deposition)方式を活用したものだった。

BMD方式による金属3Dプリンターは、熱でやわらかくなる熱可塑性樹脂と金属粉末を配合した材料をノズルで押し出し、積み重ねて造形する。金属粉が混入した樹脂を材料とするため、粉塵による健康被害や粉塵爆発のリスクを回避できる。また低コストで、なおかつコンパクトなサイズにより、オフィスや学校内への導入も容易だ。「BMD方式による金属3Dプリンターが登場したことで、本校でも導入できると思いました」と瀬川氏は話す。

製品選定において、MSYSが提案する「Studio システム+」と他社製の2つの製品に絞り込んだ段階で、同校が導入する上で課題に直面したという。「本校では教育・研究目的での導入となるため、既存環境を変えることなく導入しやすいという点が重要でした。BMD方式による金属3Dプリンターは、3Dプリンターによる造形後に、熱可塑性樹脂を取り除く脱脂と、炉に入れる焼結の2つの工程が入ります。有機溶剤を使う脱脂では、有資格者の配置や換気設備などが必要です。また焼結における焼却炉の設置に際して、消防法で求めるスペースの確保が設置予定の実験室では難しいこともわかりました」

同校におけるBMD方式の金属3Dプリンターの導入課題に関して、瀬川氏が丸紅情報システムズに相談したところ、解決策の提案があったという。「3Dプリンターのみを導入し、脱脂と焼却の工程をMSYSのサービスとして提供を受けるという提案は採用の後押しとなりました。 また『Studio システム+』は、細長い糸状の素材ではなく、スティック状の素材を利用するために充填度が高く、品質の向上につながる点もポイントとなりました」

従来2週間を要していた金型製作が2時間で完了
試行錯誤を繰り返す時間を創出

2020年11月、一般競争入札により丸紅情報システムズの採用が決定された。「Studio システム+」は、操作が簡単で使いやすいと瀬川氏は話す。「3D CADデータを専用ソフトに読み込ませ、プリンター本体にデータを転送後、プリンターのタッチパネルでデータを選択するだけで造形が開始されます。手順が非常にシンプルで、学生もとまどうことなくスムーズに利用しています」

金属3Dプリンターは必要なときに必要なものをすぐに造形できる点が大きなメリットとなる。「Studio システム+を利用することで、プレス用金型製造メーカーに依頼する場合と比べて圧倒的なスピードアップが図れます。小さいものなら2時間、大きなものでも20時間で造形は完了します。通常、メーカーに依頼すると、同じ小さなサイズでも二週間程度はかかると思います。金属3Dプリンターにより短時間で金型を製作し、すぐに加工の工程に入る。このスピード感は、作業効率の大幅な向上や試行錯誤を繰り返す時間を創出し、リードタイムの短縮につながります。また研究の観点では、金属3Dプリンターで造形した金型が実際にどのように活用できるのかなど、試作しやすいためアイデアを具現化し検証していきたいと思います」

「Studio システム+」導入による教育効果について瀬川氏は言及する。「学生の卒業研究のテーマとして“金属3Dプリンターの活用”を設定しました。学生には今使い方を勉強してもらっている段階で、これから簡単なものを造形し加工していくことになります。学生にとって大事なのは、最先端技術によるものづくりを体験することです。これまで旋盤で切削していたものづくりとは全く違うアプローチで、複雑な形状のものが短時間でできてしまう。技術革新を目にしたときの驚きは一瞬ですが、ものづくりの楽しさや醍醐味につながってくれれば、教育効果は高いと考えています」

2021年のオープンキャンパスで「Studio システム+」による実演を行ったところ、来校した学生の注目を集めたという。「オープンキャンパス直前に『Studio システム+』に対する問い合わせをMSYSにしたところ、迅速にサポートしてくれました。 また、脱脂と焼結が終了した造形物をオープンキャンパスで展示したいとの要望にも速やかに対応してもらいました。MSYSの迅速かつ親身になったサポートには感謝しています」

同校の地域連携テクノセンターを中心とする農工連携にも、金属3Dプリンターは新たな価値をもたらすと瀬川氏は話す。「これまで本校では、農工連携の一環として農作業を楽にする治具などを旋盤で切削してつくっていました。切削での製作は形状に限界があります。金属3Dプリンターを利用することで、ボルトを使って組み立てる形状なども一体化して造形できるため、ものづくりの自由度が高くなり、学生のアイデアも具現化できるチャンスが広がります」

金属3Dプリンターは、ものづくりをどう改革していくのだろうか。「これまで鋳型をつくってそこに金属を流し込んでつくっていたものが、金属3Dプリンターにより鋳型をつくることなく効率的かつ短時間での造形が可能です。ただ、現状では大きさが限られるため、小さな部品が主流になると考えています。今後、部品に強度をもたらす塑性加工と金型製作が手軽にできる金属3Dプリンターを組み合わせたものづくりの可能性について研究を進めていきます」

Studio システムの最新機種である「Studio システム 2」では、有機溶剤を使用した脱脂工程をなくした。造形と焼結の2段階プロセスによるシンプルな構成で、金属3Dプリンターの活用シーンを拡大する。丸紅情報システムズは、「Studio システム 2」の提供を通じて日本のものづくり改革に貢献していく。

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