いったいジェル状のソックスとはどのようなものか。まだ市場に存在していないために想像するしかなかったが、とにかく早く自分の目で確かめてみたかった、と村岡氏は振り返る。従来は、試作樹脂型(以下、簡易型)や試作品のオーダーを外注していたが、コストもかかるし、手元に届くまでの二週間近くは作業を進めることができない。
同社では、2年前から積層造形システムを利用したものづくりに取り組んでいる。積層造形システムは、3D CADデータをもとに造形材料を使って何層にも重ねて立体的に絵を描いていくようにデータを具現化していく。「3D CADで設計したデータを積層造形システムに送ってから退社すると、夜の間、システムが自動的に造形してくれます。翌朝、出社したときには試作品や簡易型ができている。まるで魔法みたいです(笑)。私たちは手を煩わすことなく、必要なときに試作品や簡易型をつくることができて、気になる点をすぐに確認し次のステップに移れます。効率化やクオリティ面で非常に大きなメリットがあります」(村岡氏)
同社では様々な商品の試作品、簡易型、治具※1の開発に積層造形システムを活用しているが、それは造形材料として耐熱性といった特長をもつエンジニアリングプラスチック(エンプラ)※2やスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)※3などが使用できたからだ。
ジェルソックスの場合、足の形をした簡易型をつくり、エラストマー※4という樹脂材料を使って試作品をつくった。2.5mmくらいの厚さで成形するためには、エラストマーを高温で簡易型に流し込む必要があり、簡易型の造形材料に200℃くらいまで耐熱性のあるPPSF樹脂※5を使用。射出成形機に簡易型をセットし、スイッチを入れたとき、果たしてできるのか、確信はなかったという。「できるだけ完成品に近づけたかったので、最終的には300℃くらいまで温度を上げ、圧力をかけてつくったのですが、大丈夫でした」と村岡氏は話す。エラストマーが簡易型の中に入っていく通り道となる部分を、簡易型本体と分けてつくることで圧力を逃し型の破損を防ぐ工夫も施した。
ジェルソックスの試作品を見たとき、そのインパクト、そして手にしたときのプルプルした感触が新しくて、これはヒットすると直感したという。試作品では心地よく履ける伸び率なども確認したという。
※1 治具(ジグ):工作物の固定など加工を補助する道具
※2 エンジニアリングプラスチック:合成樹脂の中で主に耐熱性を強化してあるもの。耐熱温度100℃以上
※3 スーパーエンジニアリングプラスチック:耐熱温度は150℃以上、長期間使用できる特性をもつ合成樹脂
※4 エラストマー: ゴムのような弾性をもつ材料の総称
※5 PPSF樹脂: Polyphenylsulfone(ポリフェニルサルフォン)の略。耐薬品性・高耐熱(約200℃)樹脂