株式会社安藤・間(呼称:安藤ハザマ)様

3Dプリンターで土木現場の模型を造形。スキルの異なる関係者間での情報共有を実現。現場での創意工夫で活用シーンが広がる

国内外で社会基盤を担う建設事業に携わる安藤ハザマ。同社は、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、土木現場の業務改善を図るべく、MSYSが提供するFDM方式(熱溶解積層方式)3DプリンターF370を導入した。製品選定では、オフィス設置に適した静粛性とコンパクトサイズが基本条件となった。本社のCIM推進グループが現場の業務改善に役立てるため、3Dプリンターを使って現場の模型を造形するためだ。現場では、発注者、作業者、技術者など職種やスキルが異なる多くの人が関わるため、情報共有が難しい。これを解決するべく、模型を使って説明や意見交換を行うことで、迅速な合意形成と施工手順の最適化を実現。現場の創意工夫により模型活用シーンが広がっている。

  • 土木現場においてスキルの異なる関係者間での情報共有を実現したい
  • 3Dプリンターをオフィスに設置しコピー機のように利用したい
  • 初心者でも3Dプリンターを活用し現場に貢献したい

01[導入の背景]
建設DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進
多くの関係者が関わる現場の情報共有が課題に

黒部ダム(富山県)、青函トンネル吉岡工区(北海道)、東京都葛西臨海水族園(東京都)、東京ビッグサイト(東京都)、ペトロナスツインタワー(マレーシア)、津軽ダム(青森県)、名古屋城本丸御殿復元(愛知県)など、国内外で社会基盤を担う事業や、ランドマークとなる建築物、市民に愛される有名スポットを建設してきた安藤ハザマ。同社は、2013年4月に、建築に強みを持つ安藤建設と土木に定評のある間組が合併し誕生した。前身企業の創業以来100年以上にわたり、日本初の施工や工法の採用、国内外最高水準の技術に挑戦するDNAは今も息づき、互いの強みを活かした相乗効果により躍進を続ける。 記事掲載工事:北多摩二号水再生センター新ポンプ棟建設工事(東京都)、境川金森調整池工事その2(東京都)

社会基盤を支える企業である同社は、SDGs(持続可能な開発目標)に対する取り組みにも積極的だ。長期ビジョン「安藤ハザマVISION2030」では、新たな価値を創造するイノベーションを加速し、生活環境の向上と持続可能性(サステナビリティ)の両立を目指す。長期ビジョン実現に向けて基盤づくりを行う中期経営計画(2021-2023)の重要なテーマの1つが、労働力不足の解消、作業現場の生産性・品質・安全性の向上を図る「建設DXの推進」である。

建設DXのベースとなるのは、計画、調査、設計段階から施工、維持管理まで3次元モデルを活用し建設業務プロセスの変革を図るBIM(Building Information Modeling/Management)/ CIM(Construction Information Modeling/Management)だ。BIMは建築領域、CIMは土木領域、それぞれ対象が違うことから扱う情報も異なる。しかし、建築も土木も多くの関係者が関わるため、3Dモデルで情報共有を行うことでコミュニケーションの質とスピードを高めていくという目的は同じだ。さらに建築事業では、模型により完成形状を具現化し、形状確認や住民説明などへの利用も進んでいる。一方で、土木事業では模型の活用は進んでいない。「建築と異なり、土木現場には精緻な模型をつくる文化がありません」と同社 建設本部 土木技術統括部 土木設計部 CIM推進グループ長 石濱裕幸氏は話し、こう続ける。「工事対象物の幅が広く専門性の低い人が関与することもある土木現場において、2次元図面ではなく、目で見て直感的に理解できる模型の活用は、生産性・安全性の面で有効性が高いと考えています」

02[導入のポイント]
3Dプリンター導入の基本条件はオフィスに設置できる静粛性とコンパクトサイズ

同社が土木現場において3Dプリンターによる模型の活用に取り組んだのは、2014年まで遡る。「若い技術者に対し、現場の状況や複雑な形状などを説明するのに、技術力のある人が図面を使って工夫して話しても、正しく伝わっていないケースがありました。3Dモデルを出力し模型化することで、若い技術者の理解の助けになるのではないかと、安価な3Dプリンターを導入しました」(石濱氏)

しかし、安価な3Dプリンターは上手く出力できず、出力できてもすぐに壊れてしまい、現場での実用に耐えうる品質ではなかったという。2016年に、あるイベントで3Dプリンターを扱うMSYSと出会う。「現状を相談したところ、高品質3Dプリンターのレンタル機で試用評価を行うことになりました」(石濱氏)

土木現場における情報共有の課題解決に3Dプリンターによる模型は役立つと石濱氏は話す。「ベテラン技術者、若い技術者、作業員、所長など、職種もスキルも異なる関係者が共通理解を形成するためには、実際にモノを見ながら指を差すなど実感を伴う確認が大切です。また3Dプリンターは、従来の紙やスチレンボードなどを加工した模型製作に比べて製作時間を大幅に短縮できる点も大きなメリットです」

3Dプリンターの試用評価では、実際に現場の“困りごと”の解決に利用したという。「発電所の現場で、複雑な形状のコンクリートの型枠を作成するのにイメージが掴めないという課題に対し、3Dプリンターで模型を作成することでスムーズに作業が進みました」(石濱氏)

試用評価の中で、3Dプリンターによる模型の活用が現場改革につながることを確信したと石濱氏。懸念されたのは、本社オフィス内に設置するため、3Dプリンターが発する騒音と大きさだ。「オフィス内で手軽に使えるコピー機のように、3Dプリンターを活用したいというのが、製品選定の基本条件でした。そうしたニーズに応える3Dプリンターがリリースされたと、MSYSから情報の提供がありました。FDM方式(熱溶解積層方式)3DプリンターF370は、高品質、効率性、操作のしやすさに加え、オフィス設置に適した静粛性とコンパクトサイズを実現しており、まさに求めていた製品でした」

同社は、2017年6月にF370を導入、主に操作を担当したのはCIM推進グループの山岸真理氏だ。「3Dモデルの操作経験はありましたが、3Dプリンターに触れるのは初めてでした。3Dドライバソフトウェアを含め3Dプリンターの操作に関して、MSYSに迅速かつ丁寧にサポートしてもらいました」(山岸氏)

03[活用シーン]
現場のアイデアと創意工夫が3Dプリンターによる模型の活用シーンを広げる

3Dプリンターによる模型は、現場でどう活用されているのだろうか。「建設の仕事は、発注者の希望をかなえることがベースです。建設前に、発注者との間で模型を使って共有のイメージを形成しておくことは、建設開始後の発注者との齟齬を最小化できます。実際に、模型の活用は発注者に好評だったという声を現場から聞いています。また、二次元図面から3Dモデルをつくり、3Dプリンターにより3Dモデルを模型化することで図面の課題も説明しやすくなります」(山岸氏)

CIM推進グループは、CIMを活用している現場に対して3Dプリンターで模型を造形し提供。模型活用のアイデアは現場で生まれるという。「現場の所長を中心にスタッフが模型を見ながら“こう使えるのではないか”と、自分たちでアイデアを出し合いながら改善活動に役立てています。例えば、仮設道路の計画を立てる際に、周囲の地形を模型化することにより関係者で模型を見ながら最適な手法を導き出すといった使い方をする現場もありました」(石濱氏)

アンカー模型写真(左)、現地写真(右)

模型だけでなく創意工夫を施す現場も多いと石濱氏は付け加える。「ドローンで撮影した現場写真の上に模型を配置し、全体を俯瞰して見ながら重機の経路確認や、新規入場者への事前教育、日々の作業内容の確認、施工中の安全確保の支援などに活用しているケースもありました。また、模型に仮設部材を印刷したフィルムを乗せて搬出できるかを動かしながら確認する、模型の階段や手すりを着色して見やすくするなど、小さな工夫が模型の活用シーンを広げています」

2021年9月、土木学会全国大会の学術講演会において、山岸氏は「3Dプリンタ模型を使用した施工検討手法」と題する発表を行った。「発表対象となった現場では、時間と土砂搬出車両の台数に制限がある中で効率的に土を掘り進めるために、土の搬出に関してさまざまな検討が必要でした。また、施工は周辺土砂の崩壊を防止する土留アンカーを配備しながら掘削を進めなければなりませんでした」と山岸氏は話し説明を加える。
「本社と現場の担当者、施工する関連業者の三者で打ち合わせを行う際に、技術力に差があり、情報共有しきれない面がありました。知育用の砂を入れた、3Dプリンターで造形した縮尺模型を囲みながら、みんなで砂を触って動かしながら話し合うことで、迅速な合意形成と施行手順の最適化が図れました。模型の造形ではMSYSにも相談にのってもらいました」

MSYSのサポートについて、CIM推進グループは高く評価する。「MSYSは3Dプリンターに関するノウハウや技術力が高く、私たちが思いもつかない視点からアドバイスしてくれます。例えば、3Dモデルを縮小してそのまま出力するといった発想しかなかったのですが、模型という観点では正確さだけでなく、縮小比を少しデフォルメして見る人にわかりやすいように見栄えを良くすることも大切になると教えてもらいました」(山岸氏)

施工ステップ
施工ステップ確認
知育用の砂を入れた模型による掘削手法の検討

04[今後の展望]
現場での3Dプリンターの活用拡大へ
「公共事業にBIM/CIM原則適用」方針が追い風に

2019年にMSYSの支援のもと、CIM推進グループは関連部署を含めて3Dプリンターのワークフローの説明やデモなどハンズオンを、MSYS本社ショールームで実施。「今では、CIM推進グループのスタッフはもとより他部署のスタッフも3Dプリンターを利用しています。当初は、他部署からの依頼を受けていましたが、他部署の担当者を指導し自分たちで出力するかたちにシフトし始めています」(石濱氏)

CIM推進グループにおいて、3Dプリンターによる模型を活用した社内事例は4年間で30件に及ぶ。「大事なのは、現場で模型をどう活用し課題を解決したか、現場で生まれたノウハウの共有です。模型活用の事例を収集し整理して情報を社内公開しています」(山岸氏)。

今後の展望について石濱氏はこう話す。「CIM推進グループでは模型以外にも、新技術開発における特殊な治具の造形に3Dプリンターを活用しています。コピー機のように、社内のいろいろな人に3Dプリンターを使ってほしいと思います。そのために、周知拡大や啓蒙も今後の課題です。また、国土交通省は2023年までに小規模工事を除くすべての直轄事業にBIM/CIMを原則適用するとしています。3Dモデルから3Dプリンターで模型を造形し、現場業務の改善を行う流れは今後拡大していくと考えています。MSYSにはこれからも変わらぬサポートと、当社の視点に立った先進的なアドバイスをお願いします」

持続可能な社会の実現に貢献する安藤ハザマ。MSYSは、3Dプリンターの活用を通じて、社会基盤を担う同社の取り組みを支援していく。

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