食べると音の鳴るフォーク&スプーン。
「よく噛んで食べるのよ」「人参も食べてね」、小さな子供を言葉で説得するのは難しい。でも、食べ物や噛む回数によってフォークやスプーンが様々な音を奏でたらどうだろう。「次はどんな音が鳴るのかな」。好き嫌いの多い子供でも、食べるのが楽しくなるかもしれない。
この画期的な食器の名はEaTheremin(イーテルミン)。開発したのは、公立はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科 准教授 塚田浩二氏の研究チームだ。日用品にセンサやコンピュータを組み込んで暮らしをより豊かにするシステムの研究開発を行っている。
フックに洋服をかけると自動的に洋服の写真を撮影しデータベース化するタンス。投函された郵便物を自動撮影し重要度を判定した上でWeb上に通知する郵便箱。洗濯物の乾き具合を電気抵抗値により計測し乾いたことを知らせるハンガー。2012年には独立行政法人産業技術総合研究所 栗原一貴氏との共同作品「SpeechJammer(スピーチジャマー)」でイグ・ノーベル賞(Acoustics Prize:音響学賞)※1を受賞した。気遣いもなく話し続けるおしゃべりな人の邪魔をするユニークなスピーカー風装置だ。
日常生活に適したユーザ・インターフェースを探究し、次々とアイデアをかたちにしていく塚田氏だが、研究をさらに進める上で壁となったのが量産化だった。
「私はものをつくっていますが、研究者ですから製品の販売が目的ではありません。通常、研究成果は論文で発表し学会などで評価されます。しかしユーザ・インターフェースに関わるものづくりを行っているため、できるだけ多くの人に使ってもらって社会の判断やユーザの意見を取り入れて改善することも重要です」
しかし、量産化の道は険しい。研究のための量産化は、分析し判断のできる小ロットで十分であるが、それでも個人で量産し販売を行うには資金もノウハウもない。そのためこれまでは断念するしかなかったという。
ところが、ここ数年で状況は大きく変わった。小ロットで生産し販売する多品種少量生産時代の胎動が聞こえ始めた。その背景には、試作品の作成を容易にする3Dプリンター、Web上で資金を募るクラウドファンディング※2など、多品種少量生産を可能にする環境が整ってきたことがある。
塚田氏は、量産化とともにものづくりの新しい流れを創る一員となるべく、プロダクトに特化したクラウドファンディング「Cerevo DASH(セレボダッシュ)」にEaThereminを公開し支援者を募集することにした。
※1 イグ・ノーベル賞
1991年、雑誌編集者マーク・エイブラハムズが創設。「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられる賞。2006年から日本人の受賞は6年連続。
※2 クラウドファンディング
不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語。