Infinite Ideas(ユーザ事例)

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MSYS(丸紅情報システムズ)

三菱重工業 導入事例

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歴史を語るモニュメント

三菱が刻印された正門を抜けると、そこには甲子園球場が28個も入る、広大な敷地が広がっている。「Blade Shop」というサインを掲げた古風な造りの建物を背景に望みながら、構内道路を横切り緑豊かな歩道を進む。巨大な「糸巻き」を思わせるモニュメントが歩道に並行して飾られ、来訪者を迎える。なかでも一番大きなものは全長15m、高さ5mはある。これは、美浜原子力発電所1号機で稼動していた実物の蒸気タービンだ。1970年に行われた大阪万博に日本で最初の原子力の灯を燈し、それ以降、日本の経済成長を支える重要な役割を担ってきた。そして今、役目を終え記念碑として雨露に打たれても、未だにその羽々は深い光沢を帯びている。昔から変わらぬ高砂製作所の高い技術の証として、また更なる高みを目指す高砂製作所社員の誇りとして変わらぬ存在感を示している。


STRATASYS社 Dimension

3次元CADなどのデザインデータを、自動的に立体造形するシステム。ABS樹脂を造形材として使用し、その特性を活かしてさまざまな機能テストにも対応します。 コンパクトな筐体でオフィス環境でも利用できる60dB以下の静寂性を備え、デザイナーや設計者がネットワークプリンタを利用する感覚で、3次元モデルをデスクサイドでも出力できる3Dプリンターです。

Dimension
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三菱重工 高砂製作所の概要

三菱重工業株式会社高砂製作所の主力事業は発電に用いられるガスタービン、蒸気タービン、原子力タービンが製造されている。世界的にみて高効率・低環境負荷のエネルギー需要が高まっており、受注は追い風、製造能力も拡大される一方である。より高い性能を持つ新型タービンが3~4年の期間を掛けて順次開発されており、100万平方メートルもある広大な敷地の中には新たに開発したタービンを用いて実際に発電を行う実証プラントまで設置されており、発電電気は電力会社へ売却されているというから驚きだ。併設された港では、社員が手塩にかけて製造したタービンが巨大なクレーンによって船に積み込まれていく


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ブレード・燃焼器製造部 川合 渉部長

燃焼エネルギーから運動エネルギーへ

高砂製作所の生産高比率の61%を占めているガスタービンとは、天然ガスなどを燃料にして、発電機を回す原動機のことである。燃料になるガスと圧縮された空気が燃焼器の中で、猛烈な勢いで燃焼反応を起こす。そうして生まれた爆発に近い勢いを持つ燃焼ガスは、タービンの羽に当たり運動エネルギーを生み出す。G型と呼ばれる最新シリーズのタービン1台が33万4千キロワット、およそ11万世帯28万人(*1)をカバーする電力を供給可能である。最近ではGTCC(*2)と呼ばれる、ガスタービンでの発電後に残った余熱を利用して蒸気タービンを回す複合発電設備が、その高い熱効率性と低環境負荷性能の両面から注目されている。
ブレード・燃焼器製造部の川合 渉部長によると、よりクリーンなエネルギー資源へニーズが高まる中、タービンの開発は世界的な性能競争のまっただ中にさらされている。
「基本的には少ない天然ガスで効率よく発電したいという要望が強くなっています。燃料コストが上がっているということと化石燃料を使わないエネルギーへの需要が増えているためです。加えて、天然ガスも燃えるとNOx、SOx(*3)が出ますが、それを出さないで発電してほしいというお客様の要求が顕著になっています。そのようなところで、まだまだガスタービンの技術は成熟しているとは言えず、海外メーカーも含めて開発競争は激化しています。より高温で高効率、より安価で高品質なタービンを求める市場のニーズは、まだまだ高まっていくことが予想されます」


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設計担当 荒瀬 謙一氏

性能を支える2つのイノベーション

1962年10月に神戸造船所のタービン専門工場として操業を開始して以来、高砂製作所では半世紀近くにわたり、より効率の高いタービンの開発に力を注いできた。燃焼ガスの温度が高ければ、燃焼効率は向上する。20年前、NOxの発生を劇的に抑える新たな燃焼方式の開発に成功。現在到達した燃焼ガスの温度は1,500℃と世界的最高水準の燃焼効率を示している。また、高砂製作所のGTCC方式による発電効率は、業界トップの60%をマークしている。設計を担当する荒瀬 謙一氏は、高熱の中でタービンの羽を高温より守る高度な冷却技術が、ガスタービンの性能を決めるポイントだと語る。
「1,500℃といえば、タービンの素材となっているニッケルを含んだ耐熱超合金があっという間に溶けてしまうほどの高温です。そのため、熱から羽などを守るために、中を空洞にして空気を通しています。しかし、多くの空気を通せば、せっかく上昇した燃焼温度を羽を冷やすための空気によって下げてしまい、逆に効率を低下させてしまいかねません。そういったトレードオフの関係が設計上、大変難しいところです」
設計に加えてもう1つ、違った意味で重要な技術がある。設計からの要求が、より複雑化する一方で、仕様通りの製品を短期間で安価に仕上げる高度な加工技術である。精緻な設計と複雑な加工を大きなスケールで実現する苦労は、高砂製作所ならではの悩みと言える。


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製造現場に流れる思想の変化

製造現場に流れる思想の変化

高砂製作所の社員は、大きく3種類の役割を担当している。設計担当、製造技術担当、そして実際に生産現場で機械を動かす作業担当。市場のニーズである高効率、低公害、低価格。それら全てを高いレベルで実現するには、一連の開発・製造に携わる社員の連携がとても重要視される。歴史のある会社ゆえに、頑固な人々が多いだろうという先入観に反して、高砂製作所のものづくりは時代に合わせる柔軟性を持っている。ブレード・燃焼器製造部の川合部長が製造現場に流れる思想の変化について語ってくれた。
「社員の意識は変わってきています。私は製造出身ですが、何年か前は、設計側からとても複雑で作りにくい仕様が届いても、その要求に答えることが使命だと皆が考えていた時代もありました。しかし、難しい要求に盲目的に応えることによって、製造コストは上がり、さらに精度のばらつきも出て品質が安定しないという問題につながる場合もあります。今は、まず品質が厳しく問われます。それから市場のニーズに応える性能、そしてコストと安定性が要求されています。造りやすくて性能が悪いものは論外ですが、性能を確保しながら造りやすさも考慮して製造コストを抑えるという思想に変わってきました」
そのためには、プロセスイノベーションとプロダクトイノベーションの両輪を巧みに噛み合わせなければならない。その架け橋となる部門が必要だった。設計部門の要求を果たすだけでは、品質やコストに支障が出る懸念がある。かといって、製造側の要求を設計に反映するだけでは、市場が求める性能を満足させられるかどうかは疑問。バランスをもってお互いが協力しなければ良い物が作れないという強い意志を具体化する必要に迫られていた。そして、「フロントローディング(*4) 」や「コンカレント・エンジニアリング(*5) 」といった、新しい設計・製造へのアプローチが検討され始めた。


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ブレード・燃焼器製造部 原口 英剛氏

プロジェクト発足

TMDI(*6)チームが発足したのは、6年ほど前のことになる。コストを多くかけずに、よりよい性能・品質を実現するためには、社員全員の作業効率化をバランスよく考える必要がある。三次元設計のデジタルデータを活用して、複数の部門や段階に分割された製造業務の効率化を図ることが有効だと判断された。たとえば、タービンに取り付けられる燃焼器や翼へ、耐熱のため行われるセラミックコーティングも3D CAD(から半自動生成される)データと制御プログラムに基づいて、ロボットアームが行う。その他にもNCプログラム(*7)の性能をPC上でシミュレートしたり、検査装置メーカーと協力して、タービンの羽のような自由曲面で構成された部品の三次元計測を可能にしたりと、有効なツールの検証と導入を重ねてきた。そういった取り組みの一環として、3Dプリンターの導入が検討されたのが2年程前の話だった。
複数の機種との比較検討の結果、「Dimension 3D Printer」の導入を決めた。使い方としては主に、新たに設計されるタービン部品の「加工検証」がメインになる。高砂製作所では「加工検証」という言葉をよく使う。これは、設計の側から見る「デザインレビュー」を指し、造形したモデルを使い、各部品の削り方や鋳型の作成方法、実際の加工に必要な段取りの検証を行うことを意味している。


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三次元モデリングの可能性を求めて

三次元モデリングの可能性を求めて

三次元モデルの活用はTMDIチームの取り組みに先駆けて、10年ほど前から行われていた。特に各種タービンの羽は形状が複雑で、設計のデザインレビューのために、二次元の図面をベースに光造形方式による外注試作に出していた。もちろん納期は何週間もかかりコストも高い。その頃に比べると、今では、圧倒的に時間が短縮されている。たとえば夕方、設計から依頼が入り、簡単な構造だと10分程度で3Dプリンターにデータをセットして翌朝にはモデルを引き渡すことが可能になった。更に、社内で3Dモデルの造形を行うメリットは単に納期やコストの面だけではなく、重要機密である製品情報管理の安全面からも有効である。設計が導入しているCADのデータ管理システムを併用し、社内ネットワークを通じて直接Dimension へデータ送信が可能なため、使用者のストレスも少ない。
現在は2台のプリンタがフル回転している。稼働率でいえば、製作所内の他の設備と比べてもトップクラスに入る勢いだ。また加工検証やデザインレビューのみならず、社員の教育や営業ツールとして、造形された3Dモデルが活用される機会も多い。廊下に面したオフィスの棚には、貸し出し用に加工検証で使われたモデルを並べておくスペースが設けられている。組み立て前の打ち合わせや、クライアントへの説明に営業担当者が持参するといったケースにも対応できるようになっている。また、高砂製作所へは海外から多くの技術者がトレーニングに来る。そういうときには、10分の1のサイズで作られた精密な3D試作モデルが言葉の壁を越える有効な手助けとなっている。


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ブレード・燃焼器製造部 原口 英剛氏

造り手の喜び、いろいろ

TMDIチームの原口 英剛氏は入社して14年目になる。キャリアの最初は長崎造船所でボイラの設計を行っていた。高砂製作所に移って半年後、チームの発足と同時にプロジェクトに参画する。実際にDimensionの導入を中心となって推進したのは原口氏だ。
最初に造形したモデルは新設計の蒸気タービンに用いられる羽の部分であった。加工を担当する社員の中でも年配方の一人にそれを見せた。寡黙な職人気質のベテランから帰ってきた言葉は「これは良い。また持ってきてくれないか。他のも見せて欲しい」だった。それから頻繁に3Dモデルの試作に関しての要望をもらうことになる。加工側からの要望はすでに設計が完成しているものが多い。しかし、原口氏は、優先的に新設計のものを選んで3Dプリンターを動かしている。「実際、いろいろな所から声がかかるので順番待ちができるほどの忙しさです。休日も含めて装置の稼働率は軽く7割を超えます」と苦笑いしている。造り手の喜び、いろいろ
そんな忙しい日々を過ごし、Dimensionに慣れ親しんでいるうちに、設計・製造の効率化の面で効果が目に見えるようになり、技術者としてのやりがいが生まれてきたという。「試作の依頼はますます増える傾向にあります。データを処理して機械にインプットするだけの作業でも時間が足りないと感じることもありますが、それもあまり苦にならないです」
その理由のひとつは、新たに設計したものを実物に近いイメージで一番初めに手にできるからだ。CADデータで送られてくる新たに設計されたガスタービンや蒸気タービンの部品の3Dモデルを造形し組み合わせて、サイズは小さいが出来上がった製品を誰よりも先に確認できる。設計側と製造側の両方の苦労を知るがゆえに、樹脂で作られた手元の3Dモデルに重みを感じるのだろう。
「ガスタービンは世界の大手数社がその性能を競い合って、技術競争を繰り広げています。その中でもトップレベルの我が社の技術を使って、製品を作り出せる。その喜びはとても大きいです」と言う荒瀬氏のコメントが印象に残る。


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モニュメントからトロフィーへ

モニュメントからトロフィーへ

高砂製作所ではデジタルモデリングの手法が100%効果的に使われているレベルにまで現時点では到達していないとの評価だ。設計担当が造形したモデルで加工検証や事前検討を行い、その次に必要な治工具が作られ、同じモデルを使って加工のプログラムや最終的な計測・評価のプログラムも作られる。このように設計から製造までの各ステージを一貫して同じ3Dデータが使われたら、製品の品質も上がり、製造からフィードバックされた情報をベースに技術の成熟度も加速する。しかし、今はようやく設計と製造との間がつながり始めたことを実感しているところだと言う。それでも、高砂製作所の「ものづくり」を加速させるタービンは着実に回り始めている。製作所内の廊下に面した棚には貸し出し用の3Dモデルが並んでいる。レンタル中のものには、3つ4つと『貸し出し中』の看板が掲げられ、社員は新しそうなモデルをチェックしながら前を通り過ぎる。並べられた3Dモデルは、構内の緑の一画に並べられたモニュメントと異なり、新たな役目を与えられている。小さいながらもタービンの設計・製造・開発に誇りを持つ技術者達のトロフィーとして、また、多くの工程に跨がる高砂製作所社員をつなぐパイプ役としての重責を担っている。


(*1)1世帯の電力使用量を最大3kWとした場合。平均世帯人員数2.55人(平成17年国勢調査)
(*2)GTCC: Gas Turbine Combined Cycle ガスタービンコンバインドサイクル発電
(*3)NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物):それぞれ大気汚染や酸性雨の原因となる有害物質
(*4)製品開発における課題を、デジタルモデリングやシミュレーションの技法を用いて早期に洗い出し、品質向上や工期短縮を実現すること。
(*5)製品開発の異なる段階を担当する各部署が3次元設計データ等をもとに同時並行的に作業を進め開発効率を向上させること。
(*6)Turbine Manufacturing Digital Innovation:タービン・マニュファクチャリング・デジタル・イノベーションの略
(*7)Numerical Control:「数値入力によって機器を制御する」の意。研磨機や旋盤といった工作機械の制御プログラム

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