2003年、森脇社長は社員を前に「MotoGPに挑戦したい」と告げた。「二輪レースの世界最高峰で、私たちの蓄積してきた技術が世界で通用するのかを試してみたい。膨大な費用や時期についての不安はありましたが、チャレンジしたい気持ちの方が強かったですね」と今田氏は当時を振り返る。
MotoGP参戦にはホンダとの間でエピソードがあったという。事業とレースの両面で関わりの深かったホンダに、MotoGPに出場するために他社製エンジンを積むことになると、森脇社長は説明とお詫びに行った。モリワキは自社製シャーシを使ったレーシングマシンづくりにこだわりがあったが、ホンダは車体とエンジンの完成車しか貸し出していなかったからだ。そのとき、当時のホンダの社長は、モリワキのために前代未聞のエンジン単体の貸し出しを提案したという。
レースは大企業だけのものではない。技術と情熱と諦めない心があれば、憧れの舞台で世界と戦える。戦うことで世界との差を実感し、その差を埋める努力で技術も進歩していく。「世界の最新技術に触れることができるのはレースに参加する大きなメリットです。ライダーはもとより技術者も世界の舞台で頂点をめざし、しのぎを削ります。失敗しても成功しても次はこうやってみようと、モチベーションが高まるのがレースです」
「MotoGP」Moto2クラス※の2010年シーズン、モリワキはシャーシコンストラクター(車体を製作するメーカー)として参加。Moto2クラスはエンジンに手を加えることは許されない。走りを知り尽くした高度な技術力やノウハウが問われる。第2戦スペイングランプリ決勝でチェッカーフラッグをトップで駆け抜けたのは、モリワキの純レーシングマシンMORIWAKI MD600だった。
同シーズンはMD600で参戦したToni Eliasがライダーの総合チャンピオンを獲得。同じマシンを使ったレーシングチームの総ポイントで競われるコンストラクターチャンピオンシップでMD600は2位となった。「この2位はうれしかったですね。ものづくりの技術が世界最高峰のレースで証明されたわけですから」
他社よりも一歩先へ、技術の歩みを止めることはできない。レースは技術者の戦いの場でもあるからだ。
※「MotoGP」Moto2クラス : MotoGPはエンジンの排気量別に3つのクラスに分かれている。MotoGPクラスは4ストローク1000cc、Moto2クラスは4気筒4ストローク600cc(ホンダのワンメイク)、Moto3クラスは単気筒4ストロークの250ccエンジンを使用する。