「自分の感情が入り込む余地のない単位にまで自分を解体すること」を目ざしてたどり着いた概念「セル」。「細胞、小部屋」などの意味があるが、世界を構成する最小単位であり、その組み合わせによって世界ができていく、という思いも込められている。
この概念から、表面をガラスビーズで覆ったシカの剥製の『BEADS(ビーズ)』、モチーフを虚像にしてセルの中に閉じ込めた『PRISM(プリズム)』などいくつかのシリーズに発展していく。
名和作品には、シリコーンオイル、発泡スチロール、発泡ウレタンなどの素材が使われている。また『Dot-Movie(ドット・ムービー)』という映像を使った作品、発光させた無色透明のシリコーンオイルに泡を発生させる『LIQUID(リキッド)』など、旧来の「造形する」という彫刻の概念からは、かけ離れた作品も数多く存在する。
そして『シンセシス』展で新たな作品を加えるにあたり、名和氏はさらに斬新な表現方法を思いつく。「3Dデータを彫刻する」という試みだ。
「現代に生きる人間にとっての脅威(モンスターのような存在)を表現した」という『MANIFOLD(マニホールド)』という作品は、当初、油粘土を使って試作品をつくっていた。ところが、名和氏は「このやり方は古い」と感じてしまう。
そこでペン型の触感デバイスを使用し、画面の中のデータであるにも関わらず、実際に触れているかのような感覚で造形する3Dモデリングにチャレンジする。そして模型の実体化には3Dプリンターを選択。これはデジタル作品を評してよく言われる、血の通っていない作品などというものではなく、アナログである自分のフィジカルな感覚をも盛り込める新しい手法と言えるだろう。「学校で教わる彫刻は、つくり方や素材に一定のやり方があります。でも、世の中にはもっといろいろなものが溢れている。自分の表現したい内容に合わせて、その都度自分にフィットした方法、素材を選んでもいいと思っています」
『シンセシス』展は、開催されるとともに人気を呼び、休日には入場制限が行われるほどの来場者を集めた。多くの人たちが、確実に自分以外の何かとつながり、何かを「体験」できる彼の作品に、次々と魅せられているに違いない。