3Dプリンター 導入事例
和歌山工業高校 様

Sep.2019

相次ぐ貴重な仏像盗難。
高校生らが3Dプリンターを使って
「お身代わり仏像」を作製

和歌山県立和歌山工業高校が最初にStratasys社製の3Dプリンター「Dimension SST 768」を導入したのは2009年。それから8年後の2017年には2台目の3Dプリンターとなる「Stratasys F270」を導入した。
「本格的な3Dプリンターを導入している高校は全国的にもまだ多くありませんが、今後は紙のプリンターと同じく当たり前のように高校にも3Dプリンターが導入されていくと思います」
和歌山工業高校で産業デザイン科を受け持つ児玉幸宗教諭はそう語る。
3Dプリンターを導入して以降、産業デザイン科では3Dプリンターを使って文化財を複製する珍しい取り組みが続けられている。
「扱っているのは、今から1千年ほど前の平安時代の題材です。地域の方々に大変喜ばれており、歴史を未来につなげる活動だと思っています」

Problem solving

課 題
  • できるだけ早く造形物を仕上げたい
  • 造形物の表面の細部をより精巧に表現したい
  • 3Dプリンターの動作、材料の有無など、造形中の様子を確認したい
解 決
  • 最新の3Dプリンター「F270」を導入することで、従来比1.5~2倍のスピードで造形できるようになった
  • 従来の小型FDM方式3Dプリンターの最小積層ピッチは0.1778mmだったが、「F270」では0.127mmを実現し、より精巧な仕上がりになった
  • Webカメラの標準搭載により、自宅にいながらにして造形中の様子をモニタリングすることができるようになった

01新設学科の目玉に導入した3Dプリンター

和歌山市内の西部に位置する校舎の一室。和歌山工業高校・産業デザイン科の実習室には2台の3Dプリンターが並ぶ。
「和歌山工業高校は1914年、(大正3年)に設立され、すでに100年以上の歴史があります。機械科、電気科、土木科、建築科などの既存の学科に加えて、創造技術科、化学技術科とともに新設されたのが産業デザイン科です。2007年に新たに誕生した産業デザイン科は、和歌山県内で唯一、デザインに関して幅広く学べる学科です。産業デザイン科の3本柱は、コンピュータデザイン、機械系の学習、3Dモデリングです。その基本は、ものづくりです。デザインだけで終わらせるのではなく、形にしていくことにあります。絵を描いたりデザインしたものを、実際にTシャツやパッケージにしたりしています」

金属加工もしており、旋盤・フライス盤・溶接等の実習や、コンピュータデザインによるレーザー加工なども行っているが、そのなかで新設学科の目玉として導入されたのが3Dプリンターだった。
「学科を新設するにあたって何か目玉となるものが必要だろうということになり、世の中に広まり始めたばかりの3Dプリンターに目をつけました。これなら3DCADで設計したものが形になるだろうと思ったわけです。導入したのは2009年ですが、この頃に高校で3Dプリンターを導入しているところはほとんどなかったと思います」

3Dプリンター導入は地元の大手企業の先をいっていた。県内有数の大手メーカーから、「自社で導入を検討しているが、その前に3Dプリンターがどういうものなのか実物を見せてほしい」という依頼が舞い込むほどだった。
「3Dプリンターを導入したものの、我々も初めてなので、どう活用していいか迷っているところがありました。そのような時に、2010年に入り和歌山西警察署からある依頼が舞い込んできました。それをきっかけに、一気に3Dプリンターの可能性が広がっていきました」

02地域から次々と舞い込む造形の依頼

「生活安全課の担当者から、お面をつくってもらえないかと依頼がきたのです」
当時、和歌山市内では自転車の盗難が問題になっていた。犯罪者は人がにらんだ目をこわがることから、目の鋭いお面をつくりそれを自転車置き場に置けば犯罪抑止力になると考え、3Dプリンターを導入したばかりの和歌山工業高校に作製を依頼してきたのだ。

「市内に和歌浦天満宮という神社があり、そこの祭りで使うお面に目が鋭いものがいくつかありました。そのなかでも特に『にらみ』が利いたお面を選んで3Dスキャナによって形状をデータ化し、3Dプリンターで造形して色をつけ、夜でも眼光の鋭さがわかるように目にLEDを仕込んで生徒が通学に使う駅などに並べました」

すると、このことが新聞などに取り上げられ、今度は和歌山県立博物館の学芸員から声がかかった。 「博物館に県立和歌山盲学校の生徒が見学に来るそうなのですが、学芸員が丁寧に展示品の形を説明しても、視覚に障害がある人にとっては、言葉ではなかなか伝わりにくく、どうしたら形がわかりやすく伝わるのかと悩んでいたそうです。そんなときにうちの高校の取り組みを知り、レプリカをつくり触ってもらえば伝わるのではないかと声をかけていただきました」

博物館の展示品をお面と同じように3Dスキャナで形をデータ化して3Dプリンターで造形。それを「さわれる文化財レプリカ」として、博物館に展示すると、言葉がなくても直感的に形が感じ取れると評判になり、その後も断続的に展示品のレプリカを造形していった。

また、博物館が和歌山盲学校の協力を得て作っている「さわって読む図録」は厚みのある用紙に文字と写真を印刷し、その印刷面上にUV硬化透明樹脂インクを用いて、点字やさわれる絵を盛り上げたもので、通常の印刷と透明な盛り上げ印刷を重ねており、視覚に障害がある人だけでなく、博物館に来館するすべての人が、ともに活用し、情報を共有することができる。

この「さわれる文化財レプリカ」と「さわって読む図録」を用いた展示を体験した和歌山盲学校の生徒からは、「ただ説明を聞いただけではわかりにくいが、触れることでよく理解できた。見えている人の中に入って一緒に楽しめるのがうれしい。」という感想を得ることができた。

この和歌山盲学校と県立博物館、和歌山工業高校が連携した博物館展示のユニバーサルデザイン化の取り組みは、「平成26年度 内閣府バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」で全国33件の応募のなかから最高賞の「内閣総理大臣表彰」を受賞する。
そしてその取り組みを始めた矢先、和歌山県内で仏像の大量盗難事件が発生し問題となった。

03本物と見まちがうほどの精巧な「お身代わり仏像」

和歌山県は高野山や熊野三山などがあるため、昔から集落ごとに住民が祈りを捧げる小規模なお寺があり、そこに平安時代や南北朝時代につくられた古い仏像などが安置されている。ところが、集落の過疎化や住民の高齢化に加え、お寺の無住化が進むなどの原因で管理が難しくなると、盗難が相次ぐようになった。
「ネットのオークションが広まったことも背景にあります。仏像をほしがる人たちによって高額で取り引きされるため、盗難はどんどん増えていきました。ある地域では盗難を防ぐために、公民館などにまとめて置いていたのですが、逆にそれがあだとなり一度に盗難の被害に遭ってしまい、年に60体ほどの仏像が盗まれたこともありました。祈りを捧げようにも捧げるべき仏像がなくなってしまったのです」

そこで案として出たのが「お身代わり仏像」だった。お寺にお身代わり仏像を置き、実物は博物館に保管してもらおうと考えたのだ。
「お身代わり仏像はいわばレプリカで、1千年ほど前につくられた本物ではありません。それに向かって拝んでご利益があるのかという住民感情が当然あります。抵抗感から住民の話し合いにより一度は取りやめたところもあったようですが、盗難が心配で夜も眠れず背に腹は代えられないということで、最終的には「お身代わり仏像」の依頼がきました」

仏像は県立博物館の学芸員によって和歌山工業高校まで運ばれ、3Dスキャナでデータ化されていった。そのなかでこだわったのが、「本物の仏像」と感じてもらうために、古さをそのまま表現しようとしたことだ。
「仏像によっては一部朽ちていたり欠けたりしている箇所もあります。そういった部分をあえて残すようにし、3Dスキャナでのデータ化が難しいところは実物の仏像を見たり、生徒がスマホで撮影した写真を何枚も見たりしながら、触感3Dモデリングソフトを使い、ペン型タブレットでデータを修正し、削ったり、盛り上げたりした後に、スムージングして実物と変わらないように仕上げていきました」
3Dプリンターで造形したあとは、和歌山大学教育学部美術専攻の学生が表面を着色し、本物と見間違うほどの完成度で精巧につくられていった。

仏像作製の依頼はその後も相次ぎ、仏像のサイズは全長15cmくらいのものから、大きいものでは110cmほどの高さに達するものもあった。
「大きい仏像は3Dプリンターで一度に造形できないので、いくつかに分割してつくることになります。当然造形時間もかかりますが、以前と比べると圧倒的に速くなりました。2台目の3Dプリンターを購入したからです」

04新機種導入で圧倒的に速くなった造形スピード

2017年8月、和歌山工業高校は1台目と同じくStratasys社製の3Dプリンターを導入する。造形材料にABS樹脂のほか耐候性に優れたASA樹脂も使え、最小積層ピッチ0.127mmを実現した「F270」だ。
「1台目の導入から8年も経っていたので設備更新を考えていました。他社製3Dプリンターの選択肢もありましたが、詳しく調べてみると性能面で物足りませんでした。Stratasys社製は性能が高く、さらに、1台目の3Dプリンターでの丸紅情報システムズのサポートに満足していたため、2台目も丸紅情報システムズから購入しました。困ったときに何度も足を運んでくれたり、技術面でも手厚くサポートしてくれたり、今回もぜひお願いしたいと思っていました」

F270を使ってみて最初に感じたのは、造形スピードの圧倒的な違いだった。 「初代と比べると1.5から2倍は早くなっていると思います。それでいて最小積層ピッチは従来の0.1778mmから0.127mmになったので、細かいところも再現できるようになりました。また、以前は造形材料のカートリッジが1つしか入らなかったのがF270には予備を入れられるのでカートリッジ交換の頻度が減り、造形中の材料切れも少なくなりました。定期的に必要だったヘッド掃除もいらなくなり、材料が詰まることもないので3Dプリンターを使うストレスは全くなくなりました」

F270にはWebカメラが標準搭載されており、離れた場所からも造形中の様子をモニタリングできるが、思いのほかこの機能もよかったという。 「造形中に心配なのは、材料がなくなっていないか、問題なく動いているかということですが、自宅にいながらスマートホンで様子を確認できるので、とても便利になりました」

05レプリカでも誠心誠意つくった心が伝わる

「お身代わりの仏像」作製は、本科3年生、「課題研究」(毎週金曜日午後)の授業で行っている。2012年からこれまでに和歌山県内8市町14カ所の社寺に30体が奉納された。県内の海沿いにあるお寺からは、津波の被害を想定して阿弥陀三尊像の身代わり仏像をつくってほしいという依頼もあった。

「奉納するときは必ず現地に生徒を連れて行き、相互理解を図るために、お寺の住職や住民の人たちとコミュニケーションをとるようにしています。生徒たちは仏像が住民から愛されていると知ることで、社会貢献につながっていることを肌身で感じ取れると思います。レプリカではありますが、高校生と大学生が真心を込めてつくったことも伝えています」

ある住職は、生徒たちの話を聞いてこう口にしたそうだ。
「確かに『身代わり仏像』ですが、本当に誠心誠意つくってくれた心が伝わってきます。信仰の対象としての心ある仏像です」

「お身代わり仏像」は住職によって御霊入れが行われ、本物の仏像と同じように拝まれている。
「古から受け継がれ守られてきた、仏像・神像は、信仰の対象であると共に、その集落の歴史を証明する大切な文化財です。大切な歴史を守り、その歴史をさらに未来に伝えるため、高校生がお身代わりを製作し、実物を博物館で大切に管理しています。その昔、仏像をつくった人たちは、まさか遠い未来に、若者たちが3Dプリンターを使ってレプリカをつくることになるとは夢にも思わなかったでしょう」

1千年もの時を経て3Dプリンターでつくられる仏像のレプリカ。
高校生が真心を込めてつくった仏像が、お寺、そして住民を見守っている。

Solution

F270について

F270の造形サイズは305(W)×254(D)×305(H)mm、汎用的なABS-M30材料に加え、これまで上位機種のみ使用可能だったASAを使うことができます。また、ゴム弾性に優れたエラストマー材料TPU 92Aや、安価でコンセプト検証向きのPLA材料も使えます。最小積層ピッチ0.127㎜を実現。オートキャリブレーション機能やWebカメラ搭載など、機能性にも優れています。

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