確実なデータ保護と高速なリストアにより
ランサムウェア感染時も迅速な復旧を実現
自社の業務継続性向上とともに
国内大手自動車メーカーとの信頼関係を強化
杉浦製作所
山田 佳弘 氏
シューズの仕組みは、大きく分けてアッパー(足の甲~足首を覆う部分)とソール(靴の底の部分)に分けられる。それぞれを構成するパーツはシューズによって異なるが一般的なランニングシューズの場合で50~60パーツになるという。
まずはマーケティング・企画部門がターゲットや価格などからコンセプトを立案し、それを基に、開発・デザイン部門がデザインを作成。※カテゴリーによってはスポーツ工学研究所が構造や機能をふまえた開発を行う。
ラスト(靴の内部形状を決める足の木型)を元にして、アッパー、ソールが設計される。完成した設計データは、インターネットを通じて工場へ送られる。
二次元CADを使い全サイズの基となるモデルを設計。完成した基礎モデルを三次元データ化し、全サイズのデータに展開する。※ラストは木型が基本だが、量産用には樹脂が使われている。
二次元CADを使い全サイズの基となるハーフパターンを設計。完成したハーフパターンのフルモデルを基にフルパターンデータを作成。その後、完成したフルパターンデータを全サイズのデータに展開する。
二次元CADと三次元CADを併用し、全サイズの基となるソールを設計。完成したソールのデータを全サイズの二次元および三次元データに展開する。
※ラストやアッパーと違い、ソールには微妙な形状(厚みや曲線など)のものがあるため、二次元データも併用されている。
設計部門から送られてきた設計データを基に、ラスト作成およびアッパーとソールの素材(バラのパーツ)を作成。その後、素材をラストにつけて靴のカタチに成型する。最後にラストを抜いて完成。
三次元設計をフル活用しているアシックスで、MSOLが取扱うGom社の3次元デジタイザATOSとSTRATASYS社の3DプリンターDimensionが使われている。
・GOM社/ATOS
二個のCCDカメラで物体の形を読み取り、コンピュータ上に物体の正確な形を再現する。アシックスでは特殊なラストの原型をATOSで三次元データ化している。
・STRATASYS社/Dimension
コンピュータ上の三次元データを、ABS樹脂を材料に用いて自動的に造作するシステム。
コンピュータ上に表示されていものが、簡単に実物化できる。デザイナーとパーツのデザインを検討する際に使うそうだ。
1987年に入社。入社以来、スポーツ工学研究所においてバイオメカニクスに基づいたシューズの研究・開発・性能評価を行っている。
《BIOMORPHIC FIT》開発の基となったシューズフィッティング定量化へのアプローチは、国内外からの注目度はもちろん評価も高く、その研究成果は数多くの学会で発表されている。
戦争の爪痕が痛々しく残る1949年(昭和24年)。社会全体が暗く深い悲しみに包まれ、人々の心は荒み、年若い少年たちの犯罪も激増していた。そのよう な社会に強い危機感を抱いた鬼塚喜八郎氏(アシックス現会長)は、日本の将来を担う子供たちに「スポーツを通じて健全に育ってほしい」との願いを込め、ア シックスの前身であるオニツカ株式会社を創業。スポーツシューズというモノに対する知識や技術はもちろん、資金さえも乏しいなか、明石のタコの吸盤をヒン トにした吸着盤型ソール、足にマメのできにくいマラソンシューズなど、画期的なスポーツシューズを次々と開発・販売し、全国に《オニツカ・ブランド》の名 を広めていった。その後、1977年(昭和52年)にはオニツカ、ジィティオ、ジェレンクの3社が合併し、株式会社アシックスを設立。こうして世界中の多 くのトップアスリートに認められるトップブランドasicsが誕生したのである。
創業当時からアシックスの靴作りの原点は《人と科学の融合》にあるという。スポーツ工学・人間工学・運動力学などを 基に人間の足を徹底的に研究し、さらにはその時代の最先端のテクノロジーをいち早く取り入れることで、まったく新しいスポーツシューズを世に送り出してき たアシックス。アシックスが常に最先端のテクノロジーを取り入れてきた理由はどこにあるのだろう。
もともとスポーツシューズというモノは、その高い機能を実現するために、素人目には解らない非常に複雑な構造をしている。このように複雑な構造のスポーツ シューズを人間の手作業のみで製品化するには、設計から加工・成形までに莫大な労力と時間がかかるとともに、熟練した職人が必要不可欠である。
「私が入社した頃、新入社員はまず“包丁”と呼ばれる専用のカッターで型紙を切る練習をやらされたんです。スポーツシューズは直線だけではなく曲線もある ため、慣れるまでには相当の時間がかかりましたね。実をいうと当時すでに二次元CADが数台入っていたのですが、製作工程のなかで完全に使いこなすという ところまではいってなくて、ほとんどが手作業で行われていました。(嶋田氏)」とはいえ、嶋田氏の入社前の1980年代半ばには既に靴専用の二次元CAD を導入していたというのには驚きである。当時の価格でシステムで2億円以上はしたであろう靴専用二次元CADを導入していた企業など、アシックスのほかに は数えるほどしかなかったはずだ。「そういう意味でも他社に比べて柔軟性があるというか、少しでも将来的に有望であると思われるテクノロジーへの先行投資 は積極的に行われていました。入社した翌年の1989年には上司から『三次元CADを勉強してこい』と東京へ勉強に行かされたりもしたんですよ。(嶋田 氏)」
他社に先駆けて、世の中に三次元という考えが出はじめた頃から三次元CADの業務への応用を考えていたアシックス は、1991年、最先端のテクノロジーである三次元スキャナを導入。翌年には、この三次元スキャナをバルセロナ・オリンピックの会場に持ち込み、選手たち の足のデータを取るのに使ったのだそうだ。「『三次元スキャナで選手たちの足形を撮ったら面白いデータが取れるのではないか』という話しが持ち上がり、三 次元スキャナを会場に持って行くことになりました。バルセロナ・オリンピックではオフィシャル・サプライヤーとして約8万人のスタッフ用にシューズを提供 していましたので、ちょうど良い機会だということで。最終的には選手・スタッフを合わせて約300人分の足のデータを取ることができました。(嶋田氏)」 しかし、このデータが企画・開発に活用されることはなかったという。「協力してくれた選手たちにはプリントアウトした足形を無料で差し上げたりもしたので すが、“三次元データ”という試みがはじまったばかりであったこともあり、残念ながら蓄積されたデータをシューズ開発の現場で使いこなすまでには至らな かったんです。(嶋田氏)」
実際の業務で使えるのか使えないのかということがまったくの未知数であっても、少しでも可能性があれば他社の顔色を伺うことなく、即導入・実践というア シックスの精神は、常に前を見て力の限り走り続けるアスリート達の姿にも通じるものがある。この精神こそが、アシックスを世界のトップブランドに押しあげた原動力といえるのではないだろうか。
現在のアシックスでは、二次元CAD・三次元CAD・三次元計測器などの最先端のテクノロジーが、スポーツシューズ の開発から設計、製造までをサポートしている。これらのテクノロジー、特に三次元CADは、今やアシックスのシューズ開発には欠かせないものになっている という。「複雑な形状のパーツが多いソール開発現場では、三次元CADはなくてはならないものになってます。三次元設計したソールの試作物を見ながらデザ イナーと検討したり、中国の生産拠点とのやりとりにも重宝しています。以前は解りづらかった厚みや凹凸、曲線などのデザインも、三次元データを共有するこ とで、正確に伝えることができるようになりました。 (嶋田氏)」
吸盤型ソールをはじめ、足のマメをできにくくさせるマジックランナー、タイヤのグリップ力を応用したグリップソールなど、三次元技術を取り入れる前から画 期的なシューズを開発してきたアシックスだが、三次元設計が可能になったことで、さらに進化したシューズが続々と生まれているとのこと。
「従来の設計方法ではシューズの企画・開発に限界があったんです。どうしても二次元でしかモノを考えられませんでしたから。 しかし三次元でのシューズ作りが可能になったことで、シューズ開発の可能性が広がり、新たな発想にもつながっています。例えば、サッカーのベロン選手(アルゼンチン代表/MF)が使用している シューズのソール<右写真>には、非常に複雑な形状をした《ITソール》を搭載しているのですが、このようなカタチは二次元でしかモノを考えられなかった頃には、作ることはもちろん考えることもできませんでした。デジタル技術の進歩とともにシューズ作りも格段に進歩していくと思いますので、 今後も新たな発想で画期的なシューズを世に送り出したいと思っています。(嶋田氏)」
創業以来、一貫してスポーツシューズにこだわり続けてきたアシックス。
長年に渡って培われてきたスポーツシューズに関する知識と経験と最先端のテクノロジーから生み出される高機能・高性能のシューズの数々は、今後もプロ・アマを問わず、世界中のアスリート達に愛され続けることだろう。
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