1981年に日本人の死因第1位となって以来、現在までトップの座にあるガンだが、医療技術の急速な進歩により「不治の病」から「治療する病」へと変わってきた。1970年代に30%程度であったガン患者の5年生存率は、独立行政法人国立がん研究センターの調査によると2005年に68%と大きく改善している。その理由としては早期発見に加え、腹腔鏡手術や化学療法、放射線療法など治療技術の進歩が挙げられるだろう。
「私の祖母は食道ガンで放射線治療を行い、5年が経過した現在も元気いっぱいです。ガンの罹患率は年齢を経るごとに高まり60歳以降から急速に増加します。高齢化社会を迎える日本において急増する高齢ガン患者への対策は社会的な課題です。手術によって切除することなくガンを治療する放射線治療は体への負担が少なく高齢者にとって重要な治療の選択肢の1つとなります」とエレクタ ケア サポート センター センター長 稲葉守男氏は話す。
一般的な放射線治療に要する時間は治療室への入室から退出まで10分から20分程度、実際に放射線が照射されるのは数分間だ。ガンの治療は数か月、数年単位で続くケースが多く、QOL(Quality of Life:生活の質)を保ちながら通院して治療できる放射線治療のメリットは大きい。
細胞に影響を及ぼす放射線の特性を活かす放射線治療の最大の課題は、ターゲットへの正確な照射と周辺細胞に対する影響の極小化をいかに実現していくか。この課題を解決するターニングポイントとなった放射線治療装置が1968年に開発されたガンマナイフだ。開頭手術することなく放射線を使い脳腫瘍などの病変部をナイフのように切り取る。その革新的な手法は頭蓋内外科手術で用いられるメスに代わる手術法として外科手術が困難な病変部への治療を可能にするなど、脳腫瘍治療の可能性を劇的に広げた。
ガンマナイフの開発者であるスウェーデン・カロリンスカ大学脳神経外科の故ラース・レクセル教授は1972年にエレクタを創立。「ガンマナイフはエレクタの製品名ですが、その名称が1つの分野をあらわすほどスタンダードな存在となっています」
ガンマナイフの機械誤差0.2mm以下という高精度の鍵は装置内部の200個近いガンマ線源の配置にある。ターゲット位置を精密にコントロールし病変部にピンポイントで集中照射しターゲットへのインパクトを強める。一方、個々のガンマ線は細く弱いため病変部以外の影響を最小限に抑えることができる。ガンマナイフは現在、日本で53台が稼働しており、ワールドワイドでも大きなシェアを占めている。