原子力研究開発の国際協力と輸出規制の両立 ポイントは輸出管理のシステム化【日本原子力研究開発機構・及川 哲邦/笹島 栄夫】

国際社会の平和と安全を維持するために軍事転用可能な民生用の製品、技術などの
輸出の規制を行う安全保障貿易管理。
日本では外国為替および外国貿易法(外為法)等に基づき実施している。
経済の国際化、国際的な人的交流の活発化に伴い、年々規制も強化されており、
企業はもとより大学・研究機関においても安全保障貿易管理(輸出管理)の取り組みは
重要な課題となっている。
これまで不正輸出や安全保障を身近に感じることがなかった職員や研究者の意識改革も
必要となるが、輸出される物や提供される技術の該非判定を行うのは容易ではなく
作業負担も大きい。
法令遵守の徹底と作業負担の軽減という相反する課題を解決するべく、
日本原子力研究開発機構は輸出管理システムの導入を進めている。
追求しているのは、研究者にとって使いやすいシステムだ。

左から及川 哲邦 氏・笹島 栄夫 氏

国際協力が欠かせない原子力に関する研究開発

2005年、日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)は旧日本原子力研究所と旧核燃料サイクル開発機構との統合により設立された。民間では難しい原子力の基礎研究や大規模なプロジェクトに取り組んでいる点が特徴だ。
高速増殖炉サイクル技術、高レベル放射性廃棄物の処分技術、核融合研究開発など研究分野も幅広い。最先端の施設と優れた研究内容は世界からも注目を集め、海外の研究機関との協力や交流も活発に行われている。量子ビームを利用した最先端研究が行えるJ-PARC(大強度陽子加速器施設)には年間二千人が訪れるという。
現在、JAEAが総力を結集した取り組みを開始しているのは、福島第一原子力発電所における事故の対処に係る研究開発である。
「国内唯一の原子力に関する総合的な研究開発機関として、事故からの復旧・復興に貢献するための研究開発を進めています。周辺地域等の環境汚染に係る研究開発に取り組むとともに、福島支援本部を設立し協力・支援体制のさらなる強化を図り、事故を起こした炉の廃止措置等に向けた研究開発など、中・長期にわたる技術的課題に取り組むための体制を整えています。日本の原子力研究開発機関としての使命と責任のもと、福島県民の皆様はじめ国民の期待に応えるべく全力を尽くしています」と国際部 次長 及川哲邦氏は話す。
事故の対処に係る研究開発においても国際的な協力を進めており、今後、協力体制のさらなる強化が期待されている。
原子力に関する研究開発を効率的に進めるためには国際協力が欠かせない。JAEAが行う幅広い国際協力・交流を支援している国際部の果たす役割は大きい。

日本原子力研究開発機構

協定の締結、人的支援、輸出管理など国際部の業務は多岐にわたる

原子力の平和利用の推進と安全に寄与するために、世界各国が協力しあう中で国際部は活動している。協定の締結から情報収集、海外出張してこられる研究者の支援まで多岐にわたる業務は、国際協力課、国際交流課の2つの課と海外事務所が連携して担っている。
外国の機関や国際機関との間で協定や共同研究契約などの締結を行っているのが国際協力課だ。また日本、欧州、米国、中国などが参加するITER(国際熱核融合実験炉)計画をはじめ多国間プロジェクトに関する研究協力の支援も行っている。
一方の国際交流課は、国際協力の実施に必要な職員の派遣や海外から訪れる研究者のサポートなど人的な国際交流の支援が中心だ。アジア諸国や開発途上国への講師派遣や研修生の受け入れなど人材育成の支援のための窓口にもなっている。
海外事務所は米国のワシントン、ITER機構の本部があるフランスのパリ、IAEAの事務局があるオーストリアのウィーンの3ヵ所において国際協力・交流をサポートしている。海外事務所は日本から出張した職員や研究者にとって頼れる存在だ。
「海外で仕事を行うことは海外生活の不安と常に隣り合わせです。医療の問題や、家族と一緒に赴任する場合は教育、文化の違いも考慮しなければなりません。国際部では職員はもとより国際的なプロジェクトに携わるメーカーの技術者に対し、ご家族も含めて生活面の支援のための情報提供を可能な限り行っています」と及川氏は話す。
また、JAEAの研究所に海外から派遣されてくる研究者のサポートも、国際部の重要な役割だ。海外研究者の支援に加え、国際化に対応するために設置された国際拠点化推進委員会の事務局として、著名な国際研究機関の訪問調査や、国際拠点に必要な要素の調査や現状の課題分析なども行っている。
国際拠点化の進展に伴い、研究所を訪問する海外の研究者との交流の増加により、研究開発の効率性は向上し新たな可能性も広がる。その一方でセキュリティのリスク拡大への対応も求められる。なかでも安全保障貿易管理に対する取り組みの強化は重要な課題だ。
国際社会の平和を脅かす国家やテロリストに軍事転用可能な製品や技術が渡らないようにするための安全保障貿易管理は、日本において外為法等により実施されている。グローバル時代を生きる企業や研究機関にとって国際協力・交流と安全保障貿易管理は一体で捉えることが大切になる。JAEAでも輸出管理を担っているのは国際活動を支える国際部だ。

左から笹島 栄夫 氏・及川 哲邦 氏

研究機関が輸出規制に対応することの難しさ

核兵器の拡散防止に関してはNPT(核不拡散条約)など国際的な取り決めに基づき、IAEA(国際原子力機関)が監視し査察を実施している。JAEAでは核物質の管理は特別な部門が行っており、国際部が担当するのは外為法による輸出管理に関する領域だ。
JAEAの研究範囲は幅広く、国際的な人的交流も活発に行われているため、管理項目も複雑となり作業負荷も大きい。
輸出管理の対応に関し、民間の企業に比べて研究機関には難しい面があるという。研究者の意識も課題の1つだ。「原子力の未来を切り拓き、人類社会の福祉に貢献する」JAEAのミッションにもあるように、研究者は人類の未来に貢献するために研究を行っている。「大量破壊兵器の開発につながるかもしれない」といった輸出管理の視点は、ついつい忘れがちになる。JAEAでも、規制が厳しくなる以前から核燃料物質などを取り扱ってきた部門ではこのようなことはないが、基礎研究分野ではあり得る。また貨物を輸出する場合、規制の対象はある程度決まっているため管理しやすい面がある。しかし技術の提供では、どのような目的で技術を活用するかによって規制項目も変わる。そのため複数の規制項目を細かくチェックする必要が生じ、該非判定の難度も高くなる。加えて、技術の提供は目に見える部分だけではない。海外の研究者と話すだけでも規制対象になる可能性があるという。及川氏は国際部の輸出管理に関する業務について例をあげて説明する。
「例えばITERのプロジェクトでは、各国が何をするか分担がすべて決まっています。現時点は建設に着手した段階なので、輸出管理の観点からは技術の提供が中心です。国内の研究所で海外出張されてきた研究者とディスカッションすることも輸出管理の対象となる可能性があるため、会合の内容、参加者、使用する資料などを細かくチェックし、必要なら該非判定書の提出をお願いします。」
研究者の輸出管理に関する作業負担を軽減し、安心して研究開発に集中できる環境をいかに実現していくか。国際部が選択した解決策が輸出管理システムの導入だった。

及川 哲邦 氏

業務の効率化とノウハウの共有を実現する輸出管理基盤の確立

法律を読み込むのは、法律関係者以外ではなかなか難しい。外為法も同様である。一般職員や研究者が本来の業務をこなしながら、法律の隅々まで理解し該非判定を行うのは大変な負担を伴う作業になるという。的確な該非判定を効率的に行うためのポイントとなるのがノウハウの共有だ。そのためには輸出管理業務のシステム化によるデータの一元管理が必要となる。
「該非判定書などの作成や承認などのやりとりは個人のノウハウに依存していて、他部門の人が該非判定を行うときに参考にしたいと思っても有効活用はできません。データの一元管理によりノウハウの共有を実現する。JAEAにおける輸出管理の基盤を確立したいというのがシステム化の大きな目的です」(及川氏)
また研究所が全国に広がっているため、作成や承認業務の効率化面で課題もあった。
「PDFベースで作成や承認を行っていると、改訂の指示などのやりとりも煩雑化し、押印作業も遅れがちとなり、拠点で該非判定書が止まってしまうこともあります。また紙文書で行う場合は承認がでるまでに数日かかってしまいます。ワークフロー化し業務の効率化を図ることも今回の目的の1つでした」と国際部 国際交流課 研究副主幹 笹島栄夫氏は話す。
国際部では、輸出管理の基盤を支える製品として、機能、コストパフォーマンス、信頼性、サポート力などを総合的に判断し、丸紅情報システムズの安全保障貿易管理パッケージを採用した。輸出管理業務が多い複数の研究所に対してパイロット運用を行い、JAEAのワークフローに合わせ、ユーザの声を反映したうえで、全国の研究所への展開を計画している。
「安全保障貿易管理パッケージ」を中核に輸出管理の基盤を確立することは、研究者の意識改革にもつながるという。「研究者が該非判定書を作成していて、提供する技術が規制対象にあたるのかあたらないのか、判断が難しいときに画面上で過去の該非判定の実績を検索し参考にすることができます。ノウハウの共有により他の研究者の輸出管理に対する取り組みを知ることは、研究者の意識改革のきっかけになると考えています。また国際部が該非判定書をチェックした後、もっと細かく書いてほしいといった要望を出す場合も、参考となる過去の実績を提示することで指示が出しやすくなります」(及川氏)
輸出管理業務の効率化面でのメリットも大きい。外為法等の改訂への対応も丸紅のノウハウを活用し「安全保障貿易管理パッケージ」側で迅速かつ的確に行われるため、保守の手間やコストの抑制が可能だ。またワークフロー化により申請から承認まで業務の迅速化が図れる。さらに、包括制度に対応するためにも輸出管理基盤の確立は重要なポイントになるという。包括制度は一括して許可を得ることで、経済産業省に個別に許可申請することなく自主管理に基づき輸出を行えるものだ。
国際協力・交流が活発になるのに伴い、技術の内容を詳細に知っている研究者が輸出管理の観点を持つことの重要性は高まる。しかし研究者はなによりも研究に集中したいものだ。及川、笹島の両氏も研究者だった。それだけに研究者の思いがよくわかる。「研究者に使ってもらえることがいちばん重要なことです」と及川氏は何度も繰り返した。

笹島 栄夫 氏

導入された製品情報

安全保障貿易管理パッケージについて

安全保障貿易管理パッケージは、安全保障貿易に対応した輸出業務を行う際に必要となる機能をサポートしたワークフロー・テンプレートです。安全保障貿易に求められる複雑な該非判定(リスト規制・キャッチオール規制)、上長・輸出管理担当者等への回付・承認、経済産業省へのE/L申請業務等について、各種機能をテンプレート化、最小限の設定で業務に適用が可能です。 複雑でリスクが高い安全保障貿易業務において求められる、正確で効率的な管理体制の確立に貢献します。

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