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宇宙航空研究開発機構(JAXA) 導入事例

JAXA 宇宙航空研究開発機構

1962年8月30日。名古屋空港(現名古屋飛行場)で1機の飛行機が初飛行のため飛び立った。
「YS-11」。戦後、日本が初めて独自開発した国産旅客機である。
YS-11は1965年に初就航し輸出も開始されたものの、国際間競争に破れ1973年3月をもって生産中止となった。
それ以後、日本国内で開発された旅客機はない。
それから30年経った2003年、官民一体となった「民間航空機基盤技術プログラム」が発足、YS-11以来となる国産旅客機の開発がスタートすることとなった。
しかし世界中の旅客機メーカーは今もって熾烈な競争を繰り広げており、その牙城を崩すのは容易ではないはずだ。
開発チームは1つのものを手にしていた。それは、新たに開発されることとなった国産旅客機の行く末を左右する素材だった。
「これです」
黒い板が、鈍い光を放った。


アラミスについて

非接触型光学式3次元デジタイザATOSは、本体に取付けられた2個のCCDカメラと1個のプロジェクターにより、測定対象物の素材や大きさにとらわれることなく、有形物の形状を取り込むシステムです。小型の匡体は測定場所を選ばず、写真を撮る感覚で素早く、正確に座標化し、形状データを作成します。検査、デザイン、研究開発、品質管理、解析などの多分野で、微細部品から携帯電話、家電、自動車、航空機、タービンなどの数多くの実績があります。

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JAXA 宇宙航空研究開発機構

共同研究機関、JAXA

東京西部に位置する宇宙航空研究開発機構の「調布航空宇宙センター」。ここで強度試験が行われていた。B4ほどの大きさで厚さわずか1mmのその素材は、自動車2台分に匹敵する10tの重さにも耐える。その素材こそが、国産旅客機の将来を占うことになるという。
東京都西部の、三鷹市、調布市、府中市が隣接し合う地域は、「東京」とは思えない光景が広がる。鬱蒼とした木々が生い茂る国立天文台、40haもある都立野川公園など、住宅が密集する東京郊外においてこの場所だけが大規模な開発から逃れ、昔ながらの面影を残す。調布飛行場の隣に位置する「調布航空宇宙センター」もそうした環境の中にある。
宇宙航空研究開発機構は「JAXA」と呼ばれ、2003年10月1日に「宇宙科学研究所」「航空宇宙技術研究所」「宇宙開発事業団」の3つが統合された独立行政法人である。宇宙航空の開発・研究を、日本で唯一行う機関であり、月周回衛星「かぐや」や国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」もJAXAの手によるものだ。
JAXAはいくつかの事業部があるが、基礎技術を研究する研究開発本部と、国産旅客機や超音速機の研究開発をおこなう航空プログラムグループが置かれているのが「調布航空宇宙センター」である。ここで材料力学や航空機構造などの研究を進めているのが岩堀豊氏だ。
「国産旅客機の計画は官民一体となって取り組んでおり、JAXAは共同研究機関として参加しています。JAXAで研究開発した技術を民間に移転し、より競争力の高い旅客機をめざすことが目的です」
現在、JAXAが国産旅客機に向けて行っている研究は数多くある。1つは空力設計技術の向上だ。より効率的な揚力を得るために主翼やフラップなどの最適な形状を研究し、より短時間・短距離で離発着できる研究だ。また、騒音発生のメカニズムを解明し騒音低減のための技術開発や、不時着時などでも乗客を守る客室構造の安全性の向上、高性能操縦システムの研究も進行中だ。
「JAXAでは旅客機に関するあらゆる研究をしています。その中で私が関わっているものの1つが素材の研究です。旅客機というと、エンジンや空力設計といったことばかりに目を奪われがちですが、実は素材の開発は、国産旅客機が世界のマーケットに受け入れられるかどうかの大きなカギを握っているのです」


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アラミスによる測定画面

めざすは、強くて軽い素材「CFRP」の低コスト化

現在、旅客機に使われている素材は、アルミニウムに銅やマグネシウムなどを加えたアルミ合金が多い。その理由は強さと軽さにある。飛行機は重たくなると離陸に時間がかかり、重たい機体で飛び続けると燃費も悪くなる。かといって弱い素材では機体が壊れてしまう危険性がある。そこで強さと軽さの両方を備えたアルミ合金が使われていたのだ。しかし、時代が流れ技術が進歩するにつれ、アルミ合金よりさらに軽い素材が注目されるようになる。複合材だ。2つ以上の異なる素材を組み合わせた材料のことで、その多くは、単一素材からなる材料より軽くて強いという特長をもっている。そして、航空機業界で注目されている複合材が炭素繊維複合材(CFRP)である。
「CFRPとはプラスチックの中に炭素(カーボン)繊維を入れることで高強度と軽量を両立したもので、これにより省燃費の旅客機を生産できるようになりました。現在運行中の旅客機の10~15%の機体にCFRPが使われており、開発中の旅客機に限ると約50%はCFRPが使われています。最近開発されたボーイング787も構造重量の50%がCFRPです」
このように旅客機の素材はアルミ合金からCFRPへと急速に移行しているが、CFRPそのものは実は1970年代には存在していた。機体への採用が遅れていたのには訳がある。
「最大の問題はコストです。CFRPは従来のアルミ合金と比べると1.5~2倍ものコストがかかるため、民間企業にとっては採用しにくい。それでもCFRPが採用されつつあるのは、環境保全や省エネルギーの気運の高まりがあるからです。しかし航空会社とすれば、従来よりコストが安ければそれに越したことはありません。そこで我々が新たなCFRPを研究・開発するに当たって掲げた目標が、従来のCFRPより20%コストを削減することでした」
CFRPがコスト高になる理由は、その製造方法にある。これまでの製造方法は、まず炭素繊維に溶かした樹脂をまぶして半乾きにする。このシートをプリプレグと呼ぶ。このプリプレグを30~40枚、箇所によっては100枚ほど重ねる。加工前のプリプレグは空気中に出すと3日ほどで使えなくなってしまうため、-10~-20℃の冷凍庫で保管する必要がある。プリプレグを積み重ねた後は、オートクレーブと呼ばれる加圧炉で120~180℃まで加熱し、4~6気圧の圧力をかけて成形するという工程を経る。
「この方法は組立工数が多いだけでなく、冷凍庫や加圧炉などに莫大な設備投資が必要となり、コスト高につながっていました。そこで、冷蔵庫や加圧炉を使わないで成形できる方法はないかと試行錯誤の末に我々が辿りついたのが、『バータム法』という製造法です」


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試行錯誤の末に辿り着いた「バータム法」

バータム法は、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)のことで、日本語にすると「真空樹脂含浸製造法」となる。
「この製造法は、まず炭素繊維を薄いフィルムで覆い、フィルム内の空気を抜くことによって1気圧程度まで圧縮します。掃除機の吸引力を利用した家庭用の布団圧縮袋と同じ原理です。その真空圧を利用して樹脂を呼び込み、比較的低い温度で成形します。この方法ならばプリプレグのような中間素材だけでなく、高価な加圧炉も冷蔵庫も必要ない。つまり製造費を大幅に削減できるわけです」
しかし、当初のバータム法にはある欠点があった。1気圧という小さな圧力しか加えられないため、樹脂が炭素繊維に均一に染み渡らないのである。
「付着が弱いということは強度が落ちてしまうということです。製造コストを抑えることができても強度が弱い材料では意味がない。そこで、樹脂の注入口や注入順序を変えたり、さらに中に詰め物をしてみたりとトライ&エラーを繰り返し改良に改良を重ねてきました。その結果、ようやくベストな方法を見つけることに成功したのです」
念願だった低コストの製造法の確立。従来のCFRPに比べ圧倒的に優位な材料ができたわけだが、実はここまでは序章に過ぎない。厳格な安全性を問われる旅客機ではいくつもの試験をクリアしてはじめて実用化となる。
「基本となるのは、現在旅客機で使われているプリプレグを用いたCFPRと同等レベルの強度と剛性を得ることです。バータム法で成形したCFRPの一部を取り出し、圧をかけたり引っ張ったりすることで強度試験を繰り返していったわけですが、その試験である困難を抱えていました」
素材の強度や剛性は主に「面内」と「面外」の検査がある。金属は見た目の変化と内部の変化に大きな差はないが、CFRPなどの複合材は、外部から見て異常がなくとも内部が損傷し、そこを起点として大きな破壊につながることがあるため、面内と面外の両方の検査が必要になる。
「面内検査(2次元/平面方向)は主に『ひずみゲージ』と呼ばれる手法で測定しています。素材にセンサを取り付けて電気抵抗の変化を読み取って測定する方法です。問題は面外の検査でした。これまで『モアレ』という縞模様の干渉の変異を見るという方法で検査していましたが、セットが大変なだけではなく、縞の個数を数えることに、大変な労力を必要としていたのです」
そんなとき岩堀氏はたまたま出向いたアメリカの研究施設で見慣れないある装置を目にする。
「質問したところ『面外測定(3次元/XYZ空間)にベストな装置』だと言われました。実はその前年にイギリスに視察に行ったときにレーザーで測定する装置を目にしていたのですが、それは小さなものしか測れなかった。それが帰国して調べてみるとアメリカで見た装置は2m四方のものを測定できると。gom社の『ARAMIS(アラミス)』でした」


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旅客機だけでなく他産業にも広げたい

旅客機だけでなく他産業にも広げたい

2008年4月、JAXAの調布航空宇宙センターで強度試験がおこなわれていた。厚さわずか1mmのB4ほどの大きさの黒い板。それはJAXAが開発したバータム法でできた低コストのCFRPだった。
黒い板には白いスプレーでまだら模様が加えられ、2t、3t、4tと圧が加えられ、その都度2台のARAMISで板を撮影し、最終的に10tまで圧がかけられた。板はわずかに歪んだものの破壊されることなく耐えていた。データはカラーマップに変換され、時系列に並べることで素材が歪んでいく様子がわかる。
「強度が足りなければさらに成形方法を工夫するなどして、現在ではプリプレグで成形したものとほぼ同等の強度が出るようになりました。ただCFRPのような複合材の場合、場所によって強度などにバラつきが出ることがあるため、どの場所でも同じ値を出すことがとても重要です。多少強度が落ちたとしても均一の素材ならば、設計の工夫によって強度不足を補え、実用化できるわけです」
JAXAではベンチャー企業とのコラボレーションにより、すでに6m級の実物大の主翼を完成させ、いくつかの強度試験もおこなわれている。製造した主翼はすでに3本というから、ミッションも佳境に入りつつある。
YS-11が初飛行した1962年8月30日。名古屋空港には200人以上ものマスコミが集まり、戦後初の国産旅客機の飛行に酔いしれた。同じような光景が見られるのは、5、6年先になりそうだという。
「航空機を製造するメーカーでもバータム法を改良して素材開発に着手しているため、我々の開発した製造法が採用されるかはまだ未知数です。この製造法は大がかりな設備がいらないので中小企業でも容易に導入できる。自動車は重量が半分になれば燃費も半分になるといわれ、風力発電も羽根が軽くなれば発電容量を増やすことができる。活用できる用途の裾野はとても広いのです」
旅客機産業だけでなく、日本の産業の未来につながる1つの素材。
その研究が、今日もJAXAで続いている。


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