株式会社セガホールディングス様

「感動体験を創造し続ける」ゲーム開発のための時間を創り出す

世界のゲーム市場の規模は8兆円以上といわれており現在も成長が続いている。グローバルで競争が激化する中で、いかに勝ち抜いていくか。世界初、業界初の製品やサービスを提供してきたセガ。2015年、エンタテインメント業界を取り巻く環境の変化にスピーディーに応えるために持株会社のセガホールディングスを中心にエンタテインメントコンテンツというカテゴリーで総合力を発揮するべく 新生セガグループが誕生した。

まず取り組んだのは自分たちの存在意義と方向性を明確にすること。「感動体験を創造し続ける」(Mission)と「Be a Game Changer〜革新者たれ〜」(Vision)を定め、ゲーム、業界、世の中を変えるチャレンジを開始した。革新者に求められるのはアイデアと、それをかたちにするスピードだ。ゲーム開発の最前線を支えるITインフラを取材した。

「Be a Game Changer〜革新者たれ〜」新生セガグループの挑戦

2015年のパッケージゲームとデジタル配信ゲーム※1を合わせた世界ゲームコンテンツ市場は、前年比25%増加し8兆2667億円と推定される※2。そのうち約8割を占めるのがアジアを中心に拡大したデジタル配信ゲームだ。その中で前年比27%増の1兆3591億円と過去最高記録を達成した日本国内のゲーム市場※3はゲームアプリが牽引している。

巨大化するゲーム市場で誰が勝者となるのか。ゲームビジネスを取り巻く環境は混沌としている。パラダイムシフトとなったのは2008年頃から急速に進展したスマートフォンの普及だろう。利便性とポピュラリティ(大衆性)が高く、いつでもどこでも画面を見ながら、ゲームをしたり映画を見たり様々なアプリを楽しめる。エンタテインメントを持ち歩く時代の到来だ。遊び方は多様化し、業界の垣根を超えた競争が激しさを増している。

大きな変化を味方につけて新しい時代をどう築いていくか。総合エンタテインメント企業グループのセガサミーグループは、2014年から変化のスピードに対応するために構造改革を進めている。その一環として2015年に持株会社のセガホールディングスを設立しセガグループを再編した。

セガホールディングスは戦略のグランドデザインと、知的資本(知財:IP)、人的資本(人財)、財務資本、ITインフラの整備など経営資源の最適配分を担う。分社化した各事業会社は、大幅な権限移譲を通じて意思決定の迅速化とともに経営責任の明確化を図ることで事業を自己完結できる。

新生セガグループは、コンシューマやアーケードなどのゲームコンテンツから玩具、映像、アミューズメント施設運営まで、ゲームの枠を超えてコンシューマエンタテインメントというカテゴリーで総合力を発揮できる体制となった。だが、体制という器だけでは一体感は生まれない。そこで内外に対し新生セガグループの目指す方向性を明示した。

グループが大切にすべき価値観を「創造は生命」(Group Value)という言葉に込めた。 “「遊び」を通じて社会に貢献し、文化形成に寄与する”、1951年設立以来、セガの根底に流れる精神をあらわしたものだ。またグループの使命は「感動体験を創造し続ける」(Mission)こととした。大切なことは製品やサービスそのものではなく、世界中の人々に驚きやワクワクを届けることにあるからだ。「Be a Game Changer〜革新者たれ〜」(Vision)のもと新生セガグループはゲーム、業界、世の中を変えるチャレンジを開始した。

※1 デジタル配信ゲーム:モバイルゲーム、PC配信ゲーム、家庭用ゲームデジタル配信

※2 出所「ファミ通ゲーム白書2016」

※3 日本国内のゲーム市場:家庭用ゲーム市場(ハード・ソフト、オンライン含む)とオンラインプラットフォーム市場(ゲームアプリ、フィーチャーフォン、PC)

加速度的に増え続けるデータ量への対応が大きなテーマに

新生セガグループにおいてデジタルゲーム分野を担うセガゲームスは、約2,000名の開発人財を有する業界トップクラスのリソースを誇る。国内外のセガグループと協力会社の常時2桁以上のスタジオが開発と運営ラインを平行して走らせている。また海外事業展開では現地開発体制の拡充も図っている。

セガゲームスはスマートデバイス向けゲームとパッケージゲームの両輪でビジネスを展開している。2015年4月にリリースした正統派RPG(ロールプレイングゲーム)「オルタンシア・サーガ −蒼の騎士団−」は1日10万人近いユーザーが参加するGvG(Guild vs Guild、多くのプレイヤーが集団で戦うゲームシステム)タイトルに成長した。また同年5月にリリースした新時代ハンティングアクションRPG「モンスターギア」は1ケ月弱で200万ダウンロードを達成しその後も伸び続けている。またパッケージ分野では「ペルソナ」や「龍が如く」など人気シリーズを中心に新作を投入していく。

セガグループの開発部門では他社のゲームも含めて自由にゲームで遊べるスペースが設けられているという。「昼休みにゲーム機に向かって熱中している社員の姿を見ると、本当にゲームが好きなんだなと改めて思います。私はIT本部で開発を支援することで、多くの人々が夢中になるゲームの誕生に関われることにやりがいを感じています。セガのゲームで私が好きなのは『龍が如く』シリーズです。臨場感が凄いしキャラクターがユニークですよね」とセガホールディングス IT本部 インフラシステム部 インフラ企画チーム 芳田圭太郎氏は笑顔で話す。

セガホールディングスはグループ全社で利用するネットワークやサーバ基盤、グループウェアなどITインフラの整備・提供を行っている。ITインフラを統合的に管理することによりグループ全体の観点からコスト削減や業務の効率化を図っていく。開発を含めグループ全体の業務を支えるITインフラで大きな課題となっているのが増え続けるデータ量への対応だ。

「コンシューマ向けゲームでは、CD-ROMが700MB、DVDが4.7GB、ブルーレイディスクが一層25GB/二層50GBとメディアの容量は加速度的に増大しています。容量が増えることでこれまでできなかった表現や技法を使用できるため、開発現場で扱うデータ量も増え続けています。スマートデバイス向けのゲームも高精度で奥深い世界観へと、アプリのハイエンド化が進行中です」(芳田氏)

ゲームビジネスでは質とともに開発スピードが求められる。高速かつ安全に大容量データのやりとりを行うことは、セガグループの生命線に関わる重要なテーマだ。

回線の“空き”を自動的に検知、速度を調整し他の通信を遮らない

ゲーム開発では1ファイルで100ギガバイトを超えるデータのやりとりも珍しくないという。「開発側でデータをアップロードし、それを協力会社がダウンロードして編集後にアップロード、それを開発側が確認し修正する。日々、その繰り返しです。100ギガバイトのデータをFTPで転送したら1日以上はかかってしまいます。ダウンロードやアップロードの時間を短縮し開発に使う時間を創出するために高速ファイル転送システムを導入したのですが、運用上の問題から性能を活かしきることができませんでした」とIT本部 インフラシステム部 インフラ構築チーム 加藤知史氏は話す。

運用上の問題とは、同一回線上で高速ファイル転送システムだけでなく他システムの通信も行っており、利用状況によってトラフィックが逼迫するリスクがあったことだ。既存の高速ファイル転送システムではトラフィックを常に意識し、帯域をたくさん使用しているユーザに対し電話をかけて一時的に使用を止めてもらうようにお願いしていたという。

トラフィックを意識することなく性能の向上を図ることはできないだろうか。同社の悩みを解決したのが高速データ伝送ソフトウェアSilverBulletだった。「SilverBulletは静的に速度の上限を設定できるだけでなく、ソフトウェア側で他の通信が行われていることを把握します。そのうえで回線の“空き”を自動的に検知し動的に速度を自動調整することにより他の通信を遮りません。また静的と動的の2つの制御により速度制限の上限を上げることも可能です」(加藤氏)

文系大学出身の加藤氏はゲーム好きだったこととSE(システムエンジニア)になりたくてセガグループに入社し、現在ユーザヘルプデスクも担当している。グループ全社の業務でも利用するため、高度な暗号化技術によりセキュアなデータ転送を実現できることはもとより、使い慣れたFTPライクである点もSilverBulletの高評価につながった。「ファイル転送は日常的に利用するものですから、何も考えなくても直感的に利用できる使いやすさは重要です」またコストの観点では、同社が求めている要件をすべて満たしておりカスタマイズなど追加コストがかからないことも採用のポイントとなった。

今回、セガホールディングスはSilverBulletと合わせ、高速ファイル転送システムのストレージとしてNetAppも丸紅情報システムズから購入し構築の支援を受けた。「高速ファイル転送システムの場合、元データは発信元にあるわけですが、利用頻度の高いビジネスのデータのやりとりもしています。サーバがダウンしてハードウェアのデータがすべて消失するようなことになれば、大きな混乱を招きます。今回、バックアップによる信頼性向上は重要な課題でした。NetAppの優れたバックアップ機能に加え、どんどんアップロードされる大容量データに対応できるclustered Data ONTAP(CDOT)による高い拡張性も評価しました。また丸紅情報システムズの構築支援を受けたことでスムーズに導入することができました。今後、ハードウェア、ソフトウェアの両面でのトータルサポートにも期待しています」(加藤氏)

転送速度が4倍に向上、回線増強によりさらなるスピードアップへ

2016年6月、セガホールディングスはグループ全社に対しSilverBulletによる高速ファイル転送システムのサービス提供を開始。ユーザが実感できる導入効果として転送速度が4倍に向上した。「転送速度は、FTPを利用していたときは最大10Mbps程度、既存システムで最大75Mbps、今回SilverBulletの導入により、現在使用しているログを実際に見たところ最大300Mbpsはでています」(加藤氏)

回線増強することで最大300Mbpsの上限をさらに上げることも可能だ。契約しているライセンスでは最大1Gbpsまで転送速度を向上できる。SilverBulletの動的な速度調整により、常にトラフィックを意識することもなくなりユーザに利用中止の電話を入れる手間やストレスもなくなったという。

「当社とイギリスのグループ会社との間で事前に性能を検証した結果、300Mbps以上の転送速度を確認しています。今後、グローバル開発で海外の開発拠点とデータのやりとりが行われるようになると、長距離や低回線品質でも高速転送を実現するSilverBulletの特長が活きてきます。将来的には高速ファイル転送の標準ツールとしてSilverBulletをグループ会社に展開できたらと考えています」(芳田氏)

誰にとっても1日は24時間。いかに有効に活用していくかは、ゲーム開発の命題といえるだろう。時間は増やすことはできない。だが効率化により時間を創り出すことはできる。

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