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太陽誘電 導入事例

太陽誘電(株) 原亨氏

地球上のあらゆる生物が必要とする酸素。
しかし「メモリ」や「CPU(*1)」といった半導体デバイスの製造工程においては、限りなく排除したい物質の一つに挙げられることがある。
例えば、材料であるシリコン基板の表面に酸素が吸着すると、電気が流れやすい性質が、酸化により流れにくい性質へと変化してしまう。
極めて少ない酸素でも、これからの携帯電話やパソコンの限界性能を低下させてしまうのだ。
しかし現在、半導体デバイスの工場で、配管中の極めて少ない残留酸素を計測できるセンサはどこにも見あたらない------。
MEMS技術(*2)を活用する一人の誘電体技術者の頭の中を除いては。


Coventor Wareについて

Coventor Wareは、世界で最も有名なMEMS専用設計解析システム。MEMSデバイスを生成、モデリング、解析、インテグレーションを実行する4つの製品、 Architect・Designer・Analyzer・Integratorから構成されています。1995年に設立された開発元のCoventor 社では、マサチューセッツ工科大学(米国ボストン)との共同でマイクロマシンの解析シミュレーションを開発し、世界に先駆けてマイクロマシン解析ソフトウ エアを商品化しました。Coventor WareはワールドワイドでMEMSとMicro Fluidicsのトップメーカー10社を含む150社以上の企業・研究機関で使われています。また注目すべきは、大学・教育機関で1700ライセンス以 上使われていることです。

姫路商工会議所 西井健滋氏

食品産業から医療現場まで!?超高感度ガスセンサの可能性

太陽誘電株式会社と聞けば、電気街の店先に並ぶ「That’s」のロゴがデザインされたCD-RやDVD-Rといった各種メディア商品を多くの人が思い浮かべるだろう。太陽誘電はこの他にも、携帯電話やノートパソコンに搭載される「セラミックコンデンサ」や「インダクタ」と呼ばれる電子部品を取り扱っている。加え2007年10月に幕張メッセで開催された電気・電子産業における大規模な展示会、CETEC JAPAN 2007の人でにぎわう太陽誘電ブースの中で、新たに人々の関心を集めている所があった。「超高感度ガスセンサ」の名でパネルに掲示されたMEMS デバイスのシミュレーション結果である。
展示会前にマスコミに取り上げられたこともあり、多くの人が、興味深げに超高感度ガスセンサのパネル前に集まった。「手を加えれば、様々な分野のガスセンサとして活躍しそうだ」食品倉庫に取り付けて鮮度モニタとして使ったり、人間が吐き出す息から健康状態をチェックしたりと、食品産業や医療現場での応用について話が弾む。しかし、開発者は状況を冷静に観察していた。「まず既存のセンサではできないところで使ってほしい」
目を付けていたのは、要求は厳しいが新しい技術を積極的に評価してくれる半導体産業だ。

「安い、小さい、すごい」を目指して

開発したのは太陽誘電株式会社の技術者、原亨(ハラトオル)氏(以下 敬称略)。新型ガスセンサは1ppb単位の極めて低い酸素濃度の測定を可能にする。「ppb」(*3)とは、10億分の1を示す単位で、50メートルプールの水に砂糖ひとつまみ(約1.5g)が混ざった状態(*4)が1ppbの砂糖濃度である。このセンサの特長は、超高感度な上、MEMS技術を活用し小さく安く作れること。大きさは、モジュール化しても数センチ角の立方体に収まり、価格も最終的には1個当り数万円をめざす。既存の半導体プロセス用残留酸素計測システムは数十万円~数千万円と高く、そもそもの仕組みから極低濃度の酸素を日常的に測る事に向いていない。

センサに凝らされた仕掛けと工夫

原が考案した酸素センサの仕組みを簡単に説明すると、その形はセンサ部分とヒーター部分が上下に組み合わされている。まず、センサ部分に酸素が吸着した状態での電気抵抗値を測定し、次に下からセンサをヒーターで加熱することで、表面に吸着した酸素を一度剥離させる。下部のヒーターは、センサ表面への酸素の吸着性をオン/オフするスイッチの役割を担っており、加熱を止めると酸素が再び吸着し始める。その間、抵抗値が最初の状態に戻るまでの時間を計ることで酸素濃度を導き出すことができる。つまり、周りの酸素が多いほど、最初に測定した抵抗値に戻る時間は短くなり、逆に少なければ、時間は長くなる。またセンサ部分には、開発者ならではのアイデアが凝縮されており、従来のものに比べて酸素着脱の制御が容易となっている。


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開発に至る経緯

開発に至る経緯

2003年太陽誘電に中途入社した原は、豊かな誘電体材料の知見を応用し、新たな市場を開拓することをミッションに商品開発本部に配属される。上司は、CD-Rの発明と製品化で2000年に全国発明表彰科学技術長官賞(*5)を受賞していた石黒隆氏(以下敬称略)である。常に市場のことを意識して技術開発に取り組んできた石黒に原は共感した。「自分で開発して、売り込みもして・・・というのが石黒スタイル。(私は)あそこまではできないと思います。しかし、(開発に際して)市場を強く意識するべきだという考え方は似ていると思います」ミッションを受け、原は、持ち前の軽いフットワークで情報収集を始める。ヒントは意外と近い所にあった。


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「そんなセンサがあったらうちも欲しい」

「―と言ってもらったのがきっかけの一つでした」原は振り返る。長年親しんだ誘電体材料を使って何ができるか、温めてきた多くのアイデアについて、ある半導体エンジニアと議論していた時の言葉だった。これにより、LSI(*6)や半導体デバイスの製造工程で、プロセス機器や配管中の微少な残留酸素を計測するために「より信頼性のある高感な酸素センサが必要とされている」ことを認識する。「ここに新たな市場を開拓できるのではないか」半導体メーカーや、社内外のエンジニアからヒアリングを行うと、原の思いは確信に変わる。「超高感度ガスセンサ」に詰まった原のアイデア、それは専門である誘電体の薄膜をセンサ部に使うことにあった。


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誘電体の技術者としての原点

原の技術者としての方向性は、学生時代に既に決まっていた。大学での専攻は、目に見えない物理的、化学的な現象に心惹かれて化学を選んだ。興味のベクトルはエレクトロニクスに向いていたが、見つめる先は回路図で描かれる世界ではなく、デバイスの中の小さくて目に見えない世界だった。しかし、多くの学生がそうであるように、量子力学や量子化学といった授業を受けてもイマイチ実感が湧かなかった。教科書で習う数式で描かれる量子の世界には「最初は『何だこれは』と相当ストレスがありました」と振り返る。そんな学生時代に、技術者としての専門性を意識する一番初めのきっかけとなったのは、ある誘電体材料との出会いだった。
「学生のときに遷移金属錯体という分子化合物を研究していたのですが、そのときに読んだ本の中に1ページだけチタン酸ストロンチウムという誘電体に関する記述がありました。量子常誘電性に関する記述だったのですが、面白かったのでこれを仕事にしようと思いました。チタン酸ストロンチウムは今回のナノドメイン・ガスセンサの機能材料として使っています」


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プロのエンジニア観

修士課程を修了すると、原はプロのエンジニアとして経験を積んでいく。地元で誘電体材料の開発技術者として就職。最初に取り組んだことは、セラミックコンデンサの信頼性解析だった。その後、別の会社で薄膜コンデンサやリチウム電池用の材料開発に従事。原は期待された成果を次々に形にしてきた。与えられた役目を果たす事は、プロのエンジニアとして当り前。それ以上に、「会社にとってのメリットを的確に判断することが重要」と考える。仕事に対する自己評価は厳しい。その理由は、「本来、会社にとって技術者や研究者とは、『お荷物』だと認識しています。(研究開発には)お金がかかりますからね」原は、プロの技術者ならば自身の力で市場を切り開くべきだと考えている。


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ネットワーク活用術

ネットワーク活用術

新たな市場を開拓することの難しさは、本人も自覚している。原は、ネットワークを通じて技術者としての目的「新たな市場を切り開く事」を形にしてきた。
「硬直したネットワークだと、どうしてもシーズ・オリエンテッドな研究になりがちになると私は思います。それはそれで必要なことですが、全く新しいことに取り組む場合、自分にとって未知で必要な機能を与えてくれる力が必要です。
目的をもって探し回りながら、築くネットワークが広がらなければ、新しいものはできないと思っています」
組織の枠に捕らわれず、技術者としての経験を積んできた原は、社外の有能なリソースを開拓することに長けている。新たに人と人とをダイナミックに繋げて築くネットワークの中で、自身が必要とする「情報」や「機能」を最小コストで手に入れることができるのだ。


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研究開発の先に見えるもの

ネットワークの広がりが功を奏し、経済産業省の地域新規産業創造技術開発費補助事業に選定され、製品化に向けた7年間のプロジェクトが決まった。そして2007年度から本格的に開発をスタート、1年目を終えようとしている。今はまだ、頭の中にあったアイデアを確認する時期だという。しかし広報活動やネットワーク作りも欠かさない。「すでに開発に携わっていただいている方々が潜在的な顧客でもあり、これからまた新たな顧客も開拓していかなければならないのですが、今後も、広く巻き込みながら展開していきたい」と語る。組織の垣根を越えた人と人との繋がりの先には、新たな市場と科学技術の果てしない可能性が見えてくる。


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エピローグ

誘電体研究の歴史は古く、第二次世界大戦中に遡る。以降は電子機器用のコンデンサ材料として深く研究されてきた。その中でもチタン酸ストロンチウムの存在は1960年代に集中的に研究されている。しかし、50年近くたった今、紫外線を照射することによって生まれる強誘電効果(*9)が新たに発見されたり、常温での青色発光が確認されたり(*10)と学会を賑わせている。この物質に関して解っていることは少なく、その秘めたる可能性は未知数だ。チタン酸ストロンチウムが持つ可能性の一つを具現化すべく、一人の技術者が、東京工業大学(*11)大岡山キャンパスの一室で、実験装置を操っていた。手元からは一本の見えない糸が冬の澄み切った青空の彼方へとのびている。人と人とのネットワークから紡がれたその糸は、新たな市場を手繰り寄せ、人類の「未来」を縫い上げていく。


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(*1) Core Processing Unit:中央処理装置
(*2) Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム、および、半導体製造技術を応用した微小の構造体やMEMSの製造技術
(*3) parts per billion
(*4) 50mmプールの容積を1500m3(50*20*1.5)と仮定した場合、およそ1.5gの砂糖が1ppbの水溶液を作る。
(*5) その他、第17回(2001年)櫻井健次郎記念賞、第1回(2003)中島平太郎賞
(*6) Large Scale Integration: 大規模集積回路
(*7) センサ部分に用いられる誘電体薄膜の特性に基づいて名付けられた。
(*8) MemETherm(電圧及び電流によるジュール熱効果解析) や、ReactSim(流動、熱伝導、拡散、動電解析用モジュール)で提供されるコベンターウェアの解析機能の一つ
(*9) T. Hasegawa, et. al:J.Phy.Soc.,vol.72 (2003) pp41-44
(*10) Y. Shimakawa, et. al: Nature Materials, 4, 816 (2005)
(*11) 篠崎研究室「超高感度ガスセンサ」の共同研究を行っている

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