確実なデータ保護と高速なリストアにより
ランサムウェア感染時も迅速な復旧を実現
自社の業務継続性向上とともに
国内大手自動車メーカーとの信頼関係を強化
杉浦製作所
山田 佳弘 氏
光学式3次元デジタイザ「ATOS(エイトス)」は本体に取り付けられた2つのCCDカメラを用いて、人間の目と同じ両眼視差の方法で有形物の形状を取り込み、座標化して点群データを作成するシステムです。
ヘテロダイン・フリンジプロジェクションとよばれる縞模様のパターンを照射し、光の輝度(コントラスト)や屈折度などを三角測量の原理で測定。付属の専用パソコン上で高密度な点群データを作成します。1回の測定で最大419万点のデータを取得することが可能で、最短測定時間は0.8秒です。非接触型デジタイザのため、測定対象物の大きさや状態にかかわらず測定が行えます。また、小型の筐体により測定場所を選びません
「その波は大きな潮流となりつつあった。
今、製造業においてデータの3次元化の波が押し寄せている。年々短納期化が進むにつれ3次元化への対応は企業の命運を分けるとまでいわれてきている。
山形県東根市。ここに国内の製造業界の中において「最先端」ともいえる取り組みをおこなっている企業がある。山形カシオである。山形カシオはいち早く3次元化に着手し、今では押しも押されぬ優良企業として知られる存在になっている。だが、その道程は決して平坦なものではなかった。
「2000年にある程度まで3次元化が進んだのですが、それから思ったような成果が出なくなったのです」
山形カシオが夢描いた壮大なジグソーパズル。その最後のピースが埋まらなかったのだ。
最寄駅の名は「さくらんぼ東根」だった。
駅名が示すとおり山形県東根市はサクランボ栽培が盛んで、その生産量は日本一を誇る。市内にはあちこちにサクランボ畑が広がり一見のどかな印象があるが、そうした風景の中に国内の製造業界で「最先端」ともいわれる山形カシオがある。
カシオ計算機100%出資の子会社で1979年に設立。電卓と時計の生産から始まり、今ではデジタルカメラ、携帯電話なども製造している。その中で、プラスチック成形品の金型から成形品の製造までを担当しているのが部品事業部である。
「クライアントから製品データをいただき、それをもとに金型を製作し成形品の量産までおこないます」
高谷浩志氏。部品事業部技術部の次長を務め、部品事業部の立ち上げからかかわっており、部品事業部の歴史のすべてを知る人物だ。
「部品事業部ができたのは1984年ですが、当時はすべて紙の図面を使っての作業でした。図面では表現できない部分まで読み取らなければいけないため、ほとんど職人技の世界でした」
それが変わりだしたのは1989年だ。この年、部品事業部では同社はそれまで使ったことのないまったく未知なるものを導入する。
「年々商品のライフサイクルは短くなっていましたが、大きな契機となったのが携帯電話です。当社は97年からPHSの製造をスタートし、やがて携帯電話の生産も始めますが、いずれも商品のライフサイクルが非常に短い。そのため『開発リードタイムの短縮』が至上命題になってきました」
そしてもう1つの流れが『短期集中生産』である。技術革新の流れが速くなると、いかに他社に先駆けて付加価値の高い商品を提供できるかがカギとなるが、逆にそれは商品の陳腐化の速さにもつながっていた。悠長に売っていたのではすぐに売れ残ってしまうため、「一気に売る」必要が出てきたのだ。
「以前の量産期間は5、6か月ほどもありましたが、それが3、4か月になっていきました。スピーディに商品を開発し、量産体制に入ったら一気につくる。そのためにはこれまでのやり方を変える必要があったわけです」
山形カシオでは光学顕微鏡を使って測定をおこなっていた。クライアントから提供された製品図面に対して寸法通りにできているかを一箇所ずつ測定し、それが許容値内に収まっているかを確認していくという流れだ。一見、さほどの困難さはないように思える。ところがこれが容易ならざるものだという。
「測定は200箇所にもなります。それもXYテーブルに乗せて一箇所ずつキーをかけて測定していくので、1人で測定しても2日間もかかってしまう。そしてなにより、測定しようにも測定できない箇所があることです」
モックアップモデルと紙の図面しかないときは測定箇所は500にまで及んでいたが、それが200にまで減ったのは元データが3次元になったからだ。そのため以前は寸法が記されていた曲面形状は何も記されなくなった。
「寸法がないということはどう測定していいかがわからなくなってしまったわけです。たとえばコーナーRの内側の寸法はあっても外側の寸法がないと測定しようがない。部分的な測定はできても全体的な傾向はつかめない。つまり、自分たちが製造したにもかかわらず『実態把握』が100%できないということなのです」
デジタルネットワーク化という壮大なジグソーパズル。その最後のピースが埋まらなかった。
3次元化が進んだことによって実態把握が困難になってしまったという矛盾。これを解決するには測定も3次元化するしかない。そこで同社が検討したものが3次元測定器の導入である。部品事業部では購入可能な3次元測定器のほぼすべてをリストアップするが、ここからが長い道のりとなる。選定に加わった粟野氏はいう。
「販売先まで出向き実際にデモをしてもらいましたが、思ったような精度が出ないのです。当社はクライアントが求める許容値内に商品をつくらなければいけませんから、精度が低いと許容値内に収まっているかどうかが判定できない。精度は生命線なのです」
その『精度』を基準に、最終的にレーザ式、接触式、CTスキャン、光学式の4候補まで絞り込んでいく。
「許容値はミクロン単位ですから、検証もすべてミクロン単位でおこなっていきました。その中でもっとも精度が高かったもの、それが光学式のATOSでした」
導入は2005年。検討をスタートしてからすでに2年もの月日が流れていた。
現在、部品事業部でATOSを操作しているのは若木氏だ。
「光学顕微鏡は測定するときに厳密に位置を決める必要がありますが、ATOSの測定はポンと置いてカメラで撮影するだけなので非常に楽です。何より自由曲面など3次元形状がカラーマップによって一目瞭然なので、全体として形がどのように状態にあるのかがわかります。課題だった『実態把握』ができるようになったわけです」
高谷次長はいう。
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