株式会社KADOKAWA様

新生KADOKAWAの挑戦を支えるワークスタイル変革

日本の漫画やアニメ、ゲームなどのポップカルチャー(大衆文化)は“クール・ジャパン”として海外でも人気を博している。2013年10月、コンテンツ産業におけるグローバル市場を見据え、連結子会社9社と合併し新生KADOKAWAが誕生した。メガコンテンツ・パブリッシャーとしての進化とともに、2014年10月にはドワンゴとの経営統合を行い、デジタル化をさらに加速させている。イノベーションを起こし、コンテンツ産業をリードしていく、KADOKAWAの新たな挑戦が始まった。

連結子会社9社と合併し新生KADOKAWAが誕生

〈Changing Time, Changing Publishing〉、時代は変わって、出版も変わる。角川歴彦氏(現在、株式会社KADOKAWA取締役会長)は、1993年に電撃文庫創刊の辞で記したこの言葉をいまも社員に向けてよく話すという。電撃文庫はライトノベルレーベルの草分けとして若者文化を牽引してきた。ライトノベルは表紙や挿絵に魅力的なイラストを起用した日本生まれの小説ジャンルだ。

KADOKAWAの歴史は、新たな価値や文化を創造する挑戦の歴史でもある。1945年、戦後の日本文化の再建を志して興した出版社が同社の出発点だ。1970年代には日本の出版社として初めて映画分野に参入し、文庫と映画の連動によるメディアミックスという新たなビジネスモデルを打ちたてた。KADOKAWAが培ってきたメディアミックスのノウハウは、ライトノベル分野で圧倒的なシェアをもつ電撃文庫作品のアニメ化、コミック化、ゲーム化などでいかんなく発揮されている。

21世紀に入り家電、自動車、放送、映画など分野を問わず社会のデジタル化が加速する中、KADOKAWAはどこに向かっていくのだろうか。その大きな一歩が、2013年10月の連結子会社9社との合併だ。漫画やアニメ、ゲームなど日本のポップカルチャーはクール・ジャパンとして海外でも人気が高い。200兆円ともいわれる世界のコンテンツ市場、そしてデジタル市場のさらなる開拓へ、新生KADOKAWAはスローガン「新しい物語をつくろう。」を掲げ挑戦を開始した。さらにその先を見据え、2014年10月には日本最大級の動画サービス「niconico(ニコニコ動画等)」を運営するドワンゴとの経営統合を行い、コンテンツとプラットフォームの融合を目指す。

ネット小説投稿サイト「カクヨム」の立上げ、600社以上の出版社が作品を提供する業界プラットフォームの電子書籍ストア「BOOK☆WALKER」の成長など、コンテンツを生み出す力と、作品を様々なチャネルで展開できる力や、独自の業界プラットフォームを合わせて成長スピードを加速させる。また書店とネットをつなぐ「ニコニコカドカワ祭り」、カドカワが創る新時代の通信制高校「N高等学校(学校法人角川ドワンゴ学園)など、持株会社のカドカワのもとKADOKAWAとドワンゴとのシナジー効果によりイノベーションを起こしていく。

各ジャンルの最前線で活躍する多様な人材はKADOKAWAの大きな強みだ。様々な個性がその力を存分に発揮するためにはワークスタイル変革が求められた。

ワンカンパニー化を進めるうえでワークダイバーシティを重視

3年前9社を合併、ワンカンパニー化を行ったKADOKAWAは、その1年後にはブランドカンパニーの枠を取りはずし、旧会社間の距離を縮めることから段階的に意識改革に向けた取り組みを進めている。

「第一段階は、できるかぎり徒歩圏内に各社を集めました。第二段階で、各社が持つブランドを領域やジャンル別に統合し、同じジャンルの担当者が1つのフロアで業務を行える組織に変えました。お互いにどのような発想や考え方でビジネスを行っているのか。いつでも話せる環境にすることで相互理解を深め、ブランドの枠を超えてコンテンツ企画力や営業力の向上を図っています。そして、第三段階として現在、ワークスタイル変革に取り組んでいます」とKADOKAWA コンテンツ事業企画室室長 兼 管理局広報担当部長 兼 ワークスタイル変革プロジェクトリーダー 荒木俊一氏は話す。

ワークスタイル変革に取り組むきっかけは、2015年に会議の中でKADOKAWAの松原眞樹代表取締役社長がワークライフバランス(仕事と生活の調和)というキーワードを発言したことにあるという。出版ビジネスは長時間労働になりがちな側面があるため、ワークライフバランスは重要なテーマとなる。労働時間短縮と生産性向上の両面を実現するワークスタイル変革プロジェクトを立ち上げ議論を重ねる中で、ワークダイバーシティ(働き方の多様性)がキーワードとなった。

「9社合併=多種多様な価値観を持った人材が集まっていることが当社のユニークな点だと考えています。様々な個性を活かすことがKADOKAWAの強みとなることから、多様なライフスタイルに合わせた働き方に変革していくという方向性を定めました。メッセージとして掲げたのは『働き方の選択肢をもちましょう』
です」(荒木氏)

ワークスタイル変革プロジェクトは事業戦略メンバーを中心に、テーマごとに総務や人事、情報システム部門などからメンバーを集める流動的な組織となっている。「デスクから働く人を解放する」というテーマでは情報システム部門がメンバーに加わった。

従来、固定電話とパソコンがデスクにつながれており、机の中に資料があるなど在席しないとできない仕事が多かった。しかし、実際には作家や関係部署との打ち合わせなど離席して行う業務も少なくない。

同プロジェクトはワークスタイル変革に向けて「固定電話とデスクトップパソコン」から「スマートフォンとノートパソコン」への転換を提案した。この転換を進めるためにノートパソコンの容量不足の解決は不可避だった。

「容量が足りないと、細かくデータの整理を行わなければならず非常に面倒です。そこで、ノートPCの容量に加え、1人に対し500ギガバイトの容量を提供することにしました。500ギガバイトは既存のデスクトップPCの容量と同等です。個人専用か、部署全体で束ねて使うかは部署の判断に任せています」とKADOKAWA 管理局 情報システム部 OA管理課 中里博美氏は話す。

部署によって必要とするデータ量には差があるのに、なぜ一律なのだろうか。「課金スタイルも検討しましたが、それでは利用しない部署もでてきます。目的は全社の観点で取り組むワークスタイル変革を推進することですから、平等である点を重視しました」(中里氏)

1台で600テラバイトの実行容量を実現し運用負荷を軽減

社員1人に500ギガバイトを提供する環境の実現では、当初Windowsファイルサーバの導入を検討していたという。「Windowsファイルサーバの場合、Windowsのアップデートが毎月一回必要でこれがネック。システムを止める日程について関係各部署と調整しなければならず、ユーザにも迷惑がかかります。またサーバの台数が増えるほど運用管理に要する負荷も増大します。想定していたのは6セットの導入でした。ビルの停電時にシャットダウンして立ち上げるのにも非常に手間暇がかかります」とKADOKAWA 管理局 情報システム部 OA管理課 主任 山本浩之氏は話す。

今回、運用負荷の軽減、省スペース、大容量、優れたコストパフォーマンスといった要件に応えるべく、丸紅情報システムズはNetAppと一体となって先進的なストレージソリューションを提案した。ユニファイドストレージ仮想化プラットフォームNetAppFlexArrayを利用し、NetAppFASシリーズとNetApp Eシリーズを組み合わせて高度なストレージ機能と優れたコストパフォーマンスを実現。NetAppEシリーズにより1セット、23Uで実行容量600テラバイトの確保を可能としたうえで、NetAppFASシリーズのOSであるclusteredDataONTAPで管理できる。

「NetAppの場合、専用OSのため定例パッチもなくメンテナンスも容易に行え、システムを止める必要もありません。また管理対象も1台となり業務負荷の大幅な軽減が図れます」(山本氏)

高可用性の観点ではコントローラの冗長化に加え、NetApp EシリーズのDynamic Disk Pools(DDP)を活用するメリットも大きい。「600テラバイトの大容量ファイルサーバでは1本あたり数テラバイトのハードディスクを使うことになります。問題は、ディスクが故障した時の再構築時間が長くなり、別のディスクの故障を誘引するリスクが高くなるという点です。DDPはディスクの再構築時間を大幅に短縮できるためリスクの低減が図れます」(山本氏)

NetApp製品の信頼性について「部内のファイルサーバとしてNetAppを使っていましたが、5年間トラブルは一切ありませんでした」と中里氏は高く評価する。

2016年1月末にNetAppの採用を決定し構築を行い、2016年5月から本番運用を開始。「丸紅情報システムズにはインターフェースの切り替えを依頼しました。またテストのサポートもしていただくなど、信頼しています」(中里氏)

子育て中の社員を中心にテレワークの実証実験も開始

KADOKAWAの打ち合わせルームで行われた取材中、荒木氏、中里氏、山本氏はノートPCを持参し時折、画面で資料を確認しながら話をした。「会議のときにみんなノートPCを持ってくるようになりました。会議室へのモニターの設置などの要望にも応えています。紙の資料を用意する必要もなくなりペーパーレス化の推進にもつながっています」(荒木氏)

ノートPCの活用と合わせて共有ストレージを使えることに対するユーザの評価は高いという。「1人500ギガバイトの容量提供の実現により容量が不足しているといった声は聞こえてきません。またこれまでバックアップをとっていない部門もありましたが、今回、NetAppのSnapshot機能により筐体内に高速でバックアップを取得できることから、ユーザに大きな安心をもたらしています」(中里氏) 運用面ではコマンドを活用した自動化のテストを行っていると山本氏は話す。「clustered Data ONTAPはコマンドラインが充実しており、それらを使って自動化を推進し創出した時間で新しいことにチャレンジしていきたいと思います」 現在、ワークスタイル変革プロジェクトではスマートフォンを600台、ノートPCを500台支給している。今後ノートPCの支給数1,000台をターゲットに、利用シーンの拡大を図っていく。 在宅ワークも視野に入れ、子育てを行っている社員を中心にテレワークの実証実験も開始した。いつでもどこでも仕事ができる環境を実現するためにはインフラだけでなく制度面の整備も必要となる。課題があるからトライしないのではなく、トライして課題を見つけ解決していく。「Changing Time, Changing Workstyle」、時代が変わると働き方も変わる。

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