Powered by

AI・IoT

date_range2020年3月3日

画像データのエッジ解析に特化した小型で低価格の「AIチップ」が新たなビジネスを創出する

事業部門統括役員補佐 徳永克也
事業部門統括役員補佐 徳永克也
ネットワークカメラなどのエッジデバイスの利用拡大とともに、AIを活用して画像データを解析する小型で、低コスト、低消費電力のAIエッジコンピューティングのニーズが高まっています。そのソリューションとして注目されるのが、米Gyrfalcon Technology社のAIチップおよびAI学習モデル用ソフトウェア。従来のAIエッジデバイスとの違いや、新たなビジネスへの展望について、事業部門統括役員補佐の徳永克也が語りました。

AI活用でエッジデバイスの付加価値が高まる

昨今、ドライブレコーダーやネットワークカメラなどのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、エッジデバイスを利用した新サービスが拡がっています。ある損害保険会社では、ネットワーク対応ドライブレコーダーを活用し、前を走る車との車間距離が近づき過ぎると車内に警告音を発するなど、ドライバーの安全運転を支援すると共に、利用者の保険料率を下げるようなサービスを提供。こうした事例が、徐々に増えつつあります。

ドライブレコーダーにAI(人工知能)を組み合わせることで、さらに付加価値の高いサービス提供も可能でしょう。ドライバーが運転中に眠そうな表情をした場合、警告音を発して休憩を促すといったサービスも考えられます。このサービスでは、まずドライブレコーダーのカメラが撮影するドライバーの目の動きの変化から、AIが「居眠り」を推論、予測する学習モデルが欠かせません。

事業部門統括役員補佐 徳永克也

その推論、予測のAI解析を行うには、技術的に2つの方法があります。1つはドライバーの顔の画像データをクラウドに送り、そこで推論する方法。もう1つは画像データをエッジで推論し、結果だけ通知する方法です。AI解析においてクラウドとエッジのどちらが適しているかは、アプリケーションに応じて適材適所に選択する必要があります。

ただ、ドライブレコーダーの画像データをAIで解析する場合は、エッジに軍配が上がります。クラウドで解析する場合、ネットワークの遅延などでリアルタイムの画像解析が難しく、警告音が遅れることも考えられます。一方エッジ側では、ほぼリアルタイムのAI解析が行えますし、AIが画像データから「居眠り」と推論すれば、直ちに警告音を発して事故を未然に防げます。また、エッジ側で処理してしまえば、画像データのセキュリティ確保(プライバシー保護)にも効果的です。

わずか6㎜角でエッジAI解析の課題を解決する

とはいえ、画像データをエッジでAI解析するには様々な課題を乗り越えなければなりません。AI解析に適した汎用GPU(画像処理半導体)もありますが、高価なことに加え、消費電力が大きく、発熱を抑えるための冷却ファンなどが必要になります。ドライブレコーダーやネットワークカメラなど、小型のエッジデバイスに搭載するのは難しいのが実情ですし、民生機器の性格上、ファンで大きな音をたてたり、熱が上がりすぎるのはご法度です。

こうした課題を解決するのが、米Gyrfalcon Technology社のAIチップ「Lightspeeurシリーズ」。エッジデバイスで画像データのAI解析(画像分類、物体検出)する際のCNN(Convolution Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)処理のうち、特徴を見つける畳み込み部分と、特徴を整理するプーリング部分の処理に特化した専用AIチップで、それぞれの特徴をまとめる全結合部分は、CPU(中央演算処理装置)を用いて分散処理する仕組みです。加えて、チップの内部構造を2次元に配列し、処理ブロックのそれぞれにメモリを備える同社の技術によって、CNNの高速演算処理と低消費電力化を実現しています。

Lightspeeurシリーズの「SPR5801」のサイズは、わずか6mm角で、高速、低消費電力、低発熱、低価格を実現し、従来のエッジAI解析の課題を解決します。AIチップに加え、AI学習モデルの開発、動作に必要なソフトウェアの「学習モデル開発キット」も用意しており、主要AIプラットフォームのAIモデル形式をGyrfalcon専用フォーマットに変換してAI学習モデルの作成が可能です。AIチップとソフトウェアを用い、ドライブレコーダーなど小型IoTデバイスやモバイル機器に適したソリューションを提供できます。

Gyrfalcon technology

エンジニアとチームを組んで新ビジネスを生み出す

このAIチップは小型、低消費電力、低コストといった特長を活かし、画像データのリアルタイムAIエッジ解析が要求される分野への適用が見込まれています。ドライブレコーダーやネットワークカメラ、自動車、ドローン、掃除ロボット、自販機などのほか、スーパーの買い物かごにAIチップを搭載した小型カメラを取り付けることも可能です。スマホのアプリに表示されるレシピと連動し、必要な食材をAIが解析して消費者に購入を促すといった使い方も考えられるでしょう。ペット型ロボットがご主人とその他の人とを見分けて甘えるなんて、かわいいでしょうね。

現在、AIチップに大きな関心を寄せているのがドライブレコーダーなどのメーカーです。Lightspeeurシリーズを搭載することで、付加価値の高い製品やサービスの提供が可能になると期待しています。既にドライバーの表情から「居眠り」を検知して、警告を発する製品や、車線を検知しジグザグ走行に警告する製品もあるようです。AIチップの特長は、柔軟にAI学習モデルをプログラムできること。例えば、居眠り検知のほか、レンタカーの禁煙車でドライバーが喫煙した場合や携帯電話を利用しようとした場合に、警告を発するといったプログラムの開発も可能です。

CNN技術は画像処理技術に利用されるのが一般的ですが、音声(音響)処理、言語処理に加え、これまでRNN(Recurrent Neural Network:回帰型ニューラルネットワーク)技術が利用されてきた回帰分析処理にも応用が見込まれていることから、Gyrfalcon社のAIチップの応用範囲が拡がる可能性も秘めています。AIチップというハードウェアの可能性をAI学習モデルや、アプリケーションソフトウェアがさらに高める組み合わせです。

我々がGyrfalcon社のAIチップを取り扱う上でのアドバンテージは、長年培ってきた半導体の知見に加え、社内のAIエンジニアの技術力を活かしながら企業へ最適なソリューションを提案できる点。そこで、AIチップ単体の販売ではなく、AI学習モデルの開発に必要なMDK(Model Development Kit)、SDK(Software Development Kit)といったソフトウェアのライセンス販売と合わせてAIチップを提供します。ソフトウェアのサポートは、技術本部と営業を融合したチームで対応します。さらに、分散データ可視化ツールやエッジ管理サービスなどを組み合わせた有機的、複合的なサービスの展開や、AI学習モデルのマーケットプレイスの創出など、AIチップをトリガーにAIの新ビジネスを加速していきたいと考えています。

最新記事

お役立ち資料

「アクセス制御」と「通信の最適化」で理想のリモートワークを実現

パンデミックをきっかけとして、リモートアクセスに求められることが変化している現在。本資料では、従来型のリモートアクセスソリューションには課題が潜んでいます。それらを解消する先進的なソリューションとしてAbsolute(NetMotion)を解説しています。

防御だけに頼るのではなく、EDRで早期検知を

最近のランサムウェアの傾向として「正規の動き」を装うものが増えています。こうした手法に対抗するには、エンドポイントや通信のログを解析し、怪しい挙動がないかどうかを検知するEDRのような仕組みが必要になります。本資料ではこのEDRについて解説しております。

優れたバックアップとランサムウェア検知機能で重要なデータを保護

最近では「バックアップを取っているから安心」という心理を見越し、サイバー攻撃者は先にバックアップを消してから本番システムを暗号化するようになってきました。ランサムウェアの被害を最小限に抑えるために、優れたバックアップやランサムウェアの検知等、高度なデータ保護機能を有したストレージの導入は有力な選択肢の1つです。

煩雑な運用に和ずらされることのない、高速なリカバリでシステムの稼働継続を

バックアップシステムは、システム稼働の継続に必要不可欠です。しかし、その適切な運用は専門的な知識を持ったエンジニアがいないと困難です。そして、バックアップを取っていても、システムが被害を受けた際、復旧まで時間がかかってしまってはいけません。こうした課題をまとめて解決し、簡単に導入できるソリューションを紹介します。

100%防ぐことはできないランサムウェア、感染後の対応にフォーカスを

バックアップを用いてランサムウェア被害からの一次復旧を果たしても、対策は終わりではありません。情報漏洩がないか確認や、再発防止のための施策が必要です。これまでの対策の限界をカバーする有効な手立てとは何なのでしょうか。本資料は、感染後の対応にフォーカスしたアフターランサムウェアについて解説しております。

ソフトウェア工学における技術的負債の知られざる真実

本資料では、ソフトウェア工学における技術的負債の知られざる真実と題して、ソフトウェアエンジニアリングチームが過去におけるすべての迅速な修正、または、手っ取り早い方法を着手したことに対して支払わなければならない代償である技術的負債について詳しく解説しています。

FDA サイバーセキュリティガイダンスに従うには

本資料では、医療機器を安全に保つ方法が示されているFDA サイバーセキュリティガイドラインについて、ガイドラインの概要、安全な開発ライフサイクルの5つのフェーズ、ガイドラインの実施方法、そして実施する手段としてSASTツールについて紹介しています。

PA DSSとは 概要とPA DSSコンプライアンス

本資料では、クレジットカード決済に関してはセキュリティが重要であるため、PA DSS および PA DSS への準拠が不可欠です。ここでは、PA DSS とは何か、PCI DSS との関係、および PA DSS コンプライアンスを確保する方法について解説しています。

ソフトウェア開発におけるセキュリティガイド 安全なコーディングスタンダード ベストプラクティス

ソフトウェアセキュリティ問題の最大90%はコーディングエラーが原因で不可欠とされている安全なコーディングスタンダード。ここでは、安全なコーディングスタンダードとは何か、およびこれらのセキュリティスタンダードを実施する方法について解説しています。

メーター読み取り業務の自動化・デジタル化とは?-現状の課題と導入メリットを徹底解説-

スマートファクトリ―において、現時点ではメーター読み取りの自動化・デジタル化が進んでいる現場は少なく、“せめてスマートメーターを導入したい”と思っても、それすら簡単には進まないのが実情です。ここでは、メーター読み取り業務の問題点や、その解決のための方策などについて解説しています。