事例でみる、進化したIoTの活用による、企業DX化の現状

身の回りにある、あるいはビジネスに利用される多様なモノがインターネットにつながることで、さまざまなデータを自在に活用できる IoT(Internet of Things=モノのインターネット)。
そのIoTが、2010年代中頃からは日本でもさまざまな分野に浸透し、今では幅広く活用される事例がみられるようになっています。
特に企業での活用事例においては、近年になって広く浸透し始めているDX推進の動きと相まって、製造業や小売業などの多くの業種、そして業態の企業等で IoTの活用による事例が多数報告されています。その背景には、企業のDX推進においては、IoTの活用が極めて効率的・効果的に業務等のDX化を進めやすいというメリットの存在があります。
しかし一方で、どのようにIoTを活用すれば、自社のDX化が促進できるのか、よくわからないという企業担当者の声も聞こえてきます。
本稿では、IoTの活用について、分野ごとに事例を挙げながら解説するとともに、その活用シーンで利用できるIoT化のための各種ツールについても触れていきます。
IoTとは何か。企業のDX化を促進するIoTの有効性
1990年代中頃に商用利用が解禁され、以降急速に普及したインターネット。そのインターネットを活用し、さまざまなモノに各種センサーや通信機能を付加することで、多様な情報を共有・活用することができるようにするというコンセプトがIoT(Internet of Things=モノのインターネット)です。1999年にイギリスの技術者が、はじめてIoTを提唱したといわれています。以降世界中に普及し、日本においても、2010年代中頃には、このIoTが広く浸透し、活用事例がみられるようになりました。
私たちの暮らしの身近なところでいえば、インターネットにつながる家電が一般的になりつつあります。あらかじめインターネットにつながることで天気予報などの情報をいつでも確認できるテレビや、インターネット上に公開されている料理レシピを教えてくれる電子レンジなども、IoT家電です。
また最近では、ある種の家電を後付けでIoT家電として活用できるようにするスマートフォンアプリなども利用可能になっているなど、IoTはとても身近になっています。
そしてIoTは、企業の業務効率化にも大きく寄与しています。特に急速に進む企業のDX推進において、IoTは最も導入しやすいDX化のためのツールだといえます。最近では、企業側にもIoTについての知見が蓄積されてきており、どのようにIoTを活用することが、自社の課題解決・DX化推進につながるかをきちんと理解できるようになってきていることが、企業としてIoTを使いやすくなっている背景にあります。そもそもIoTを導入することによって、これまで見えなかったことをデータとして確認できたり、そのデータを有効活用することで、ヒトが担う業務をより効率化できたりします。
また、IoTを具現化するためのデバイスの価格や、データ通信の利用料など安くなり、またサービスの多様化で、選択肢か増えていることも、企業のIoT導入を促しています。
では、具体的には、どのようなシーンでIoTが活用できるのか、あるは実際にIoTがどのように活用されているのかについて、事例を交えてみていくことにしましょう。
ヒト・モノの動きを把握することで、工場内作業や在庫把握を効率化/製造業分野のIoT事例
ビーコン(Blue Beacon)、位置測位(iField)、IoTプラットフォーム(MAIDOA plus)、IoTカメラ(Lilz Gauge)、在庫管理(Smart Mat Cloud)
製造業におけるIoT活用においては、たとえば製造現場におけるヒトの位置情報を取得することによって、作業動線の改善・効率化につなげることが可能になります。また、モノが置かれている場所や数量等を的確に把握することで、部品や仕掛品、製品等の在庫管理がより正確になります。
ある製造工場では、「工場内の作業効率が悪い」という課題を抱えていました。そこで、IoTによって、現状の工場レイアウトにおける作業員の動線をデータ化しました。そして、その作業動線データを元に、どの工程に非効率な部分があるのかを明らかにし、工場レイアウトの変更に活用することで、大幅に作業動線を改善し、作業効率の向上に成功しました。
またある工場では、いわゆる製品になる手前の仕掛品の保管場所が複数個所に分かれており、仕掛品を探して正確な数量をカウントするだけでも相当な時間を要していました。そこで、仕掛品にRFIDタグをつけることで位置情報を取得できるようにし、正確な数量と保管場所を適切に管理できるようになりました。このように製品はもちろん、半製品等であっても大切な資産であり、定期的な棚卸し作業が必須です。IoT化が進めば、棚卸し作業に要した時間・労力も大幅に削減することが可能です。
さらに製造工場などでは、巡回点検のような点検業務が不可欠な業務となっているケースが多々あります。従来はヒトがメーターなどを目視で点検するなどが主流でしたが、IoTの活用によって、こうした点検業務を自動化することも可能です。また、製造工場内の自動制御のための制御基盤等がやりとりするPLC信号を、IoTによって集約して管理できるようにすることで、各種機器の稼働状況を少ない労力で効率的に、かつ適切に管理できるといったことも可能になります。
このように製造業分野では、IoTの導入により業務を効率化したという事例が多くあり、さまざまなメーカー等の工場でIoTの導入が進められています。
倉庫業務も配送業務も、動きをデータ化して、効率的にマネジメント/物流分野のIoT事例
物流分野では、いわゆる倉庫業務部分と、輸送・配送業務部分等でIoT活用の事例が多くあります。
たとえば規模の大きな物流倉庫では、複数の取引先企業の物流業務を扱っている関係で、倉庫内を複数エリアに分割しているケースがあります。こうしたケースでは、作業員がどのエリアで何時間作業をしたのかを記録して、その時間数で取引先への請求額が計算されるという場合がありますが、作業後に作業員の記憶に頼った申告をさせても正確さに欠けるということが問題になることがあります。こうした場合に、作業員の動きを把握できるIoTを導入すれば、データ化された作業員ごとの動線データに基づいて、どのエリアでどのくらいの時間、作業に従事していたかがわかるので、請求のための積算もスムーズで正確です。
また、輸送・配送に関しては、車両GPS機器を取り付けることで、移動状況の把握が可能になります。また、適切な温度管理が必要な場合には、荷室に温度センサーを取り付けて、そのデータを配送センターなどで集中管理したという事例などもあります。
施設の利用状況や、利用者の回遊行動もデータ化して有効に活用/商業分野のIoT事例
大型の商業施設などでは、トイレのドアなどに開閉センサーや人感センサーを取り付けて利用状況をデータ化し、その情報をリアルタイムに施設利用者に提供するというIoTが普及しつつあり、多くの事例が報告されています。利用者には施設内の標示板のようなもので情報提供し、そのデータは施設管理者も取得できるので、その分析により「来場者に対してトレイが少ない(多い)」といった状況把握に有効活用できます。利用率が100%に近い状態が続いているのなら、トイレの増設が必要だと判断できます。逆に利用率が低いなら、別の施設に変更することで、利用者の利便性向上につなげるといったことも可能です。
また、会員アプリのようなものを自身のスマートフォンにインストールしていれば、そのスマートフォンの通信機能を活用して、当該利用者の施設内や店舗内の回遊状況などをデータ化することも可能です。そうしたデータを活用できれば、商品ディスプレイを修正したり、店舗のレイアウトを効率化したり、といった改善ができるようになります。
危険の伴う現場でヒトの出入りを管理し、モノの紛失も防止/建設業のIoT事例
建設業においても、ヒト・モノの動きの把握にIoTを活用することで、大きな業務改善につながったという事例があります。
仕組み自体は、製造・物流分野等で活用するIoTのテクノロジーと同様ですが、建設分野においては、特に危険を伴う現場も少なくないので、ヒトの出入りをきちんと把握することがとても重要となります。
また、建設現場には通常多くの協力会社が参画して協働で作業を遂行しているということもあり、モノの動きを把握も重要です。具体的には建設現場で使用する工具類です。現場によっては、かなり広い敷地内の建設現場となり、多くの協力会社が似た形状の工具を使っているため、誤って持ち帰ってしまったり、紛失してしまったりして、作業完了後に1000万円を超える工具損失が出ることもあるそうです。
そこで、そうした工具にRFIDなどをつけておけば、どこにあるかを正確に把握できるので、紛失などを防ぐことができます。
また現場に設置している昇降機の数についても、稼働状況をセンターで感知することにより、今より少ない数でも問題ないと判断できれば、コストカットにもつながります。
熟練者の暗黙のノウハウをIoTで見える化して継承/農業など一次産業分野のIoT事例
最後に、農業などの一次産業分野でのIoT活用事例についてみていきます。
農業・漁業・林業・畜産業等の一次産業では、就業者の高齢化と後継者不足(新規従事者不足)が大きな問題となっています。
特に後継者不足(新規従事者不足)という問題に関しては、仮になり手がいたとしても、ノウハウの伝授が難しいという問題もあり、一朝一夕での解決が望めないとされています。たとえば養鶏業においては、管理する養鶏場の換気のタイミングや、給餌のタイミングが重要ですが、これらは経験的に培った属人的ノウハウであり、決まったマニュアルがないという点が後継者育成の障害でした。
そこで、ある養鶏場でIoTを活用して、熟練者の実施する給餌や換気のタイミングのデータと、養鶏場の温・湿度推移、気象情報、鶏の体重の推移等の可能な限りのデータ収集・分析を行い、換気・給餌のタイミングをデジタルデータとして保存するようにしました。当該のIoT活用によるデータに基づく給餌・換気で、熟練者と同じタイミングを実現させることに成功しています。
まとめ
各分野におけるIoTの活用の方向性や事例について、代表的なものを取り上げました。
ここで取り上げたような活用シーンで活躍するのが、丸紅情報システムズが提供可能な各種のIoT関連ソリューションです。
製造業分野や物流分野でのヒトやモノの動き・位置測位においては、利用環境に合わせた豊富なラインナップをもつビーコン製品「Blue Beacon」や、位置測位ソリューション「iField」が有効です。工場などでの点検業務ではIoTカメラ「Lilz Gauge」を活用して自動読み取りを実現できます。
商業施設での施設利用状況のデータ化や養鶏場でのデータ収集には電池レスセンサソリューション「EnOcean」などが役立ちます。
もちろん、どの分野のIoTソリューションであれ、各種のセンサー等で収集したデータは、IoTプラットフォームの「MAIDOA plus」で一元的に管理・活用できます。
IoT活用のプランニングのサポートはもとより、データの収集・分析から活用まで、丸紅情報システムズなら、トータルでご支援いたします。IoTを活用したいと思ったら、まずは丸紅情報システムズにご相談ください。