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3Dプリンティングの「時間」掲載日:2017/03/22

3Dプリンティング。近年のブームのおかげで、広く知られ、様々な分野で使われるようになってきた一方で、正しく理解されていなかったり、よくわからなかったり、まだまだ知られていない使い方も可能性もあります。私も日々の仕事で「?」や「!」と思うことがしょっちゅうあります。みなさんもそうかと。

そこで、3Dプリンティングの達人や、これから使おうとされる方にも、3Dプリンティングの「?」や「!」ついて、これからこちらのブログで少しずつお伝えし、また一緒により良い使い方を考えていければと思います。

前々回では3Dプリンティングの品質と精度、前回はコスト対効果について述べました。今回は…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

3Dプリンティングにおける「時間」とは?

「時は金なり」。限りがあり、取り返せないことを考えると「金」より大事です。

一方、例えば荷物宅配サービスは昔と比べてとても速く、希望の時間に届けられるようになった反面、配達する方々の負担を大きくなり過ぎ、運輸事業としてマイナスになっているという報道があり、単に速さや正確さを求めすぎるのも良いことばかりではないようです。

ものづくりの世界でも、前々回に述べたように3大要素として、「品質」「コスト」と同等以上に「時間」が重要なのはみなさんご存知ですし、品質もコストも時間に左右されることから、最も重要と言っても良いでしょう。

3Dプリンティングの世界では「早く試作品ができる」「開発期間が短縮できる」「AプリンターはBプリンターより速い」など、時間関連のメリットについての話題がよく聞かれます。しかし、3Dプリンターを販売している立場で言うのもどうかと思いますが、「3Dプリンティングは速いのか?」「速いと何が良いのか?」「3Dプリンターの速さとは何なのか?」と常々思っているのは筆者だけではないと思います。

みなさんはいかがでしょう?

3Dプリンティングは決して速くない。でも使われるのはなぜ?

みなさんがご存知の「3Dプリンター」を使ってモノを作ることやその技術を、国際的な工業規格ASTMではAdditive Manufacturing(アディティブマニュファクチャリング、日本語では付加製造と訳されることが多い)と呼ぶことになっており、つまり、3Dプリンターにもいろんな種類がありますが、共通していることはコンピュータとデータによって制御された機械で、材料を積み上げて作ることでしょう。

一方、その他の作り方として、材料を削って作る切削加工、または型で作る型成形が思いつきますが、それらと比べ、3Dプリンティングが「速い」と言えるでしょうか?

もちろんモノの形状、大きさ、材料、加工条件によって違いますが、多くの3Dプリンターは1個作るのに数分から数時間、大きいものでは数日かかることもあり、例えば1サイクル数秒からできる樹脂射出成形や金属プレス成形、または切削より加工時間だけを見ると、かなり遅い場合が多いのではないでしょうか。

ですから私がお客様に、あるモノが3Dプリンターでできる時間をお伝えすると、「そんなに長くかかるの?!」と仰ることがよくあります。

ところが別の方は全く逆の「そんなに早くできるの?!」と仰ることも。

なぜでしょう?

お気づきの通り、上の文で「加工時間だけを見ると」と、「何の時間」を「どこからどこまでの時間」で比べるかがポイントです。

2種の3Dプリンター比較でも「速さ」を正しく比べるには、加工時間に加え、3次元データができた時点からプリント用のデータを人やコンピュータが作成する時間、プリンターを起動させる準備の時間、プリンターから取り出した後の処理まで含めた、「データから手にするまでの時間」を比べないといけません。

3Dプリンティングの、「データから手にするまでの時間」が他の工法より長くても、これだけ多く使われているのは、加工以外の「時間」について大きなメリットがあるからではないでしょうか。

3Dプリンティングの最大メリットは「人の時間」

ものづくりも様々ですが、概ね共通する流れは、

①何を作るか1人または複数人で考える
②どの材料でどのカタチでどうやって作るか考えて決める
③作る人に頼む場合は、②を伝える
④作る
⑤品質が良いか調べる
⑥使われる場所へ運ぶ
⑦使う
⑧修理するまたは捨てる

になるかと考えます。

最近はロボットなどによる自動化が進んできていますが、それでも人がやること、人でなければできないことが多くあります。

3Dプリンティングが使われている理由はいろいろありますが、その最大のメリットは「人の時間」をより有効に使えたり、ムダな時間を減らしたりすることであり、そのことで得られる金銭的な利益は大きいと筆者は考えています。

ものづくりの各工程における「人の時間のメリット」の例の一部を挙げてみましょう。

3Dプリンティングは「良い考えを速く産む」「考えを速く良く伝える」のに使う

①何を作るか1人または複数人で考える
コンセプトやアイデアを考えるとき、言葉にしたり、スケッチを描いたりしますが、何かの立体物を作り、それを眺めたり触ったりしながら考えると良いアイデアが速く出ることがあるのはお客様の事例でもよく伺います。

「なんとなくこんなモノ」をまず作り、それを何度か変えながら考えを良くしていくサイクルを速くたくさん回すのに、考える人が自分で作る、または他の人に作ってもらうと「考える時間」も減ってしまいますが、手元に簡便な3Dプリンターがあると、コンピュータで簡単な形を作り、3Dプリンターをスタートし、できるまでの間は考えたり次のカタチをコンピュータで作る時間として使えます。

また、近くにいる複数人で考える場合も、考えを伝えるのに「立体現物」の方が速く正しく伝わるので、それにも3Dプリンターで作った模型は役立ちますし、もし離れた場所、もしくは海外の人たちに考えを伝える時も、作った模型を送ると時間がかかりますが、3次元データを送り、現地の3Dプリンターで作れば、離れていても短時間で考えをやり取りすることができることで、「人が待っている時間」を減らせ、「人が考える時間」を増やせます。

こちらの動画が参考になります。

②どの材料でどのカタチでどうやって作るか考えて決める
これは「設計」と呼ばれる工程にあたりますが、ここでは「考えて、試して、また考える」作業とも言え、このサイクルを決められた期限までにどれだけ回せるかが重要です。

もちろん「試す」のは最近コンピューターシミュレーションが発達し、模型がなくても試せることは増えましたが、やはり「現物による実験評価」の効果は大きいことは変わらないでしょう。

現在多くの設計はコンピュータとソフトウエアで行われることが増え、それは最終量産品、もしくは量産型の加工に使うためのデータとして設計者が作りますが、3Dプリンティングであれば、そのデータを直接模型製作に使えるので、模型のための図面を別に書いたり、模型のための型設計、模型のための切削用NCデータを人が作る時間が不要で、また設計者が設計しない夜や休日に3Dプリンターを動かせば、次に試したり考えたりし始める時に模型がすぐ使える。つまり「考える人が考えることに、限られた時間をより多く使える」のが大きなメリットになります。

模型そのものを作るだけでなく、最近は模型を成形する簡易型にも3Dプリンティングが多く使われ始め、それも「安さ」や「正確さ」より「速さ」がメリットであることが多いようです。

また設計工程で、作るとき、また使うときに起こるかもしれない不具合をできるだけつぶしておくことで、量産型の修正改造、市場での製品不良・不具合による大きな損失を防ぐことの効果は模型を作るコストに対してとても大きく、それを理由に3Dプリンティングを使われ、効果を得られているお客様が多くいらっしゃいます。

③作る人に頼む場合は、②を伝える
設計する人と作る人が違うことは多く、その場合は設計結果を作る人に伝えなければならず、言うまでもなく2次元図面や書類、3次元データが一般に使われますが、それに「立体現物」が加わることで、より速く正確に伝わるようです。

私どものお客様のプラスデザイン株式会社様の事例でも、特に建築は実際に建てるのに多くの専門技能を持った方々が分業しなければならず、依頼者が望むカタチを速く正しく伝えて良い建物を作ることに3Dプリンティングを活用されています。

言い換えますと、正しく伝わらないことにより、完成までに修正、改造など人が時間を使わなければならず、早く正しく伝えることでそれを削減できます。

「人の時間」とモータースポーツ

先日2件続けて、このようなニュースがありました。

McLaren Honda Formula 1チームとStratasys社がパートナー契約
Team PenskeとStratasys社がパートナー契約

モータースポーツファンの方は良くご存じのチームかと思いますが、モータースポーツはレースだけではなく、そのものづくりにおいても「時間勝負」であり、また多くの人が作業分担し、団結連携することが求められます。

それ故に3Dプリンティング活用の効果は大きく、おそらくこれまで述べた3Dプリンティングによる「人の時間」のメリットを活かすための提携だと考えています。

 

次回は残りの

④作る
⑤品質が良いか調べる
⑥使われる場所へ運ぶ
⑦使う
⑧修理するまたは捨てる

の工程での3Dプリンティングがもたらす「人の時間のメリット」の例を挙げて、3Dプリンティングは使えるか?について考えをまとめてみたいと思います。

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