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航空機製造に3Dプリンティングが使われるのはなぜ?掲載日:2017/07/19

3Dプリンティング。近年のブームのおかげで、広く知られ、様々な分野で使われるようになってきた一方で、正しく理解されていなかったり、よくわからなかったり、まだまだ知られていない使い方も可能性もあります。私も日々の仕事で「?」や「!」と思うことがしょっちゅうあります。みなさんもそうかと。

そこで、3Dプリンティングの達人や、これから使おうとされる方にも、3Dプリンティングの「?」や「!」ついて、これからこちらのブログで少しずつお伝えし、また一緒により良い使い方を考えていければと思います。

今回は、先日フランスで開かれたパリ航空ショーでStratasys社が初めて出展するなど、3Dプリンティングに関するニュースが届きました。なぜ航空機製造に3Dプリンティングが使われ始めたかについて考えてみますと…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

パリ航空ショーは1908年(明治41年!)に始まり、現在は2年に1回開催される、世界最大規模の航空宇宙関連製品の見本市で、第52回の今年は2017年 6月19-25日にパリ郊外にあるル・ブルジェ空港で開催されたそうです。

48か国から2381の出展、32万人の来場者があり、各社最新の飛行機を展示、この場で商談するという、想像もつかないスケールです。筆者は行けませんでしたが、日本からもMRJが初めてヨーロッパへ飛行したことなどが報道されていました。

一般のニュースでは報道されませんでしたが、今回のショーでは3Dプリンティングに関する初めての展示や発表がいくつかあったとのことで、3Dプリンティングが航空機製造に使われる工法の一つとして認められ、広がってきたことを示す、大きな前進であったと思います。

特に弊社が正規代理店となっているStratasys(ストラタシス)社は、今回初めてブース展示をしたそうです。以下はそれに関するStratasys社のブログです。

旅客機内装、シートのデザインやカスタマイズ検討用の実物評価模型の活用例

ブースでは、アメリカFAAの航空機搭載認証がとれている、ULTEM9085樹脂による実用空調ダクトや、新しい樹脂材料Nylon12CFなどのサンプルが展示されたそうです。

 

 

3Dプリンティングによる航空機部品製造の進化

実はStratasys社のFDM方式3Dプリンターで、航空機の実使用部品を作ることは主にアメリカでかなり以前から行われていましたが、例えば特注プライベートジェットの室内空調部品や、小型飛行機の操縦席の計器パネル、1台のヘリコプターに特殊なカメラを取り付けるためのケースなど、1個から数個だけ作る場合でした。

しかし、2016年10月に欧州の旅客機メーカーAirbus社が新しい A350 XWBの内装や電子機器に使う部品をStratasys社のプリンターとULTEM9085材料で製造することをAirbus社規格として認めた発表があり、実際に1機あたり1,000個以上の3Dプリント部品がおそらく今日も空を飛んでいるとのことで、大きな進展がありました。

良くご存じの通り、3Dプリンターやその材料は、「試作には使えるけれども、量産品には性能、寸法精度、品質、コストの点でまだ使えるものではない」というのが一般的な見方で、確かにその通りなのですが、求められる性能や品質が高いことで知られる航空機部品製造に最近急速に使われるようになってきたのはなぜでしょうか?

Stratasysが航空機製造にもたらすメリットは?

Stratasysグループ会社で、受託3Dプリントサービス専門会社 Stratasys Direct Manufacturing(以下SDM)社はアメリカ中心に多くの3Dプリント品を航空機産業に提供しています。最近SDM社が、3Dプリンティングが飛行機のどこに使われどんなメリットがあるのかが簡単にわかるインフォグラフィック(情報図)を作り、公表しています。

ここでの内容を簡単にまとめると下記のとおりです。

・部品のサプライチェーン(作る、運ぶ、使う、情報やモノの流れ)を効率化し、コストが下がる

・部品の軽量化により、飛行時の燃料消費が削減され、コストが下がる

・修理部品を必要に応じて作れることで在庫が減らせる

・組み立て部品の数が減らせ、組み立て効率が上がる

・これまでにない部品形状(ラティス構造など)により部品の軽量化ができる

・旅客機では内装の装飾部品、空調関連部品、電子機器ハウジング、電線・パイプ固定具などで使われる

装飾部品イメージ

空調ダクトイメージ

電線固定具イメージ

 

 

 

航空機産業が3Dプリンティングへ期待していることは?

Stratasysに限らず、金属、樹脂両方の3Dプリンティングに対して、航空機産業からの期待や注目が急速に高まっていることを感じます。その理由を筆者の視点で整理してみたいと思います。

・製造から修理までの部品サプライチェーンを大きく改善できる手段としての期待

旅客機1機作るのに300万点の部品が必要と言われており、それらの多くは型成形、切削加工により作られ、その作り方による制限から、多数の部品を溶接、ボルトやリベット締結、接着などで組み立てられること、またそれらネジ1個でも厳しい品質基準と工程管理、記録が求められますが、3Dプリンティングで作る前提で設計すると、部品を一体化できる場合があり、部品数を減らすことができます。部品数が減るのは最初に作る時だけでなく、20年以上修理しながら使われるので、長い期間の管理工数を大きく減らせることになります。

加えて、型成形で作られるものは、型がある場所でしか作ることができませんが、3Dプリンティングであれば、作る、運ぶ、在庫するなどを柔軟に選べる、変えられるので、そのメリットは大きいとのことです。

更に、民間旅客機でも、軍用機でも、整備や修理のために飛べない時間が短くなることは大きな利益になり、また修理整備場所は世界中に数多くあり、そこに必要な部品をタイムリーに届けるには、3Dプリンティングが有利です。

・部品の性能向上、寿命向上と軽量化の両立への期待

航空機エンジンメーカーのGeneral Electric社の方から筆者が伺った例では、燃料噴射ノズルを金属3Dプリンターで作る前提で設計製造すると、従来20部品必要なものが1部品となり、溶接や締結が減ることで寿命が5倍になり、重量が25%減らせたとのことで、そのエンジンの燃費向上にもつながるそうで、このようなケースが熱交換器などでも当てはまるそうで、単に既存部品の作り方を置き換えるのではなく、設計を変えられる手段として期待しているそうです。

前述の内装樹脂部品でも、3Dプリンティングを前提とした最適設計が性能向上と重量・コスト削減の両立を実現しています。

・納期やカスタマイズのニーズに応えられる期待

民間航空機の需要が高まり、航空機メーカー間の競争が激しくなっていることはよく報道されていますし、エアライン会社間の顧客獲得競争も激しさを増す中、エアライン各社もより良いサービスや料金の差別化、燃費などのコストダウンの要求が高まり、航空機メーカーもこれまで以上に厳しい要求に応えなければなりません。特に新型の飛行機は、納品されるまでに様々な仕様設計変更があり、納期も守らなければならない中で、3Dプリンティングで製造する部品であれば、設計仕様変更を従来より短時間で行えることや、納品後も様々な改良、デザイン変更、カスタマイズ要求に柔軟に素早くこたえられることも期待されていることの一つです。

 

期待と実現のギャップを乗り越えるための知恵と努力

言うまでもなく、期待はますます大きくなる一方で、それを実現するのは「言うは易し、行うは難し」で、3Dプリンティングでの航空機部品製造は品質、コスト、時間のどれに於いても、課題山積です。しかし、前述のとおり、これまでの作り方の改善ではこの先もできないであろう期待が実現できるのは3Dプリンティングが、当面は最も可能性のある工法として認識がされつつあります。よって、出来るようになるまで待つのではなく、まず今出来る部品に限って選び、3Dプリンティングの足りないところを補う周辺技術や品質管理方法を開発することで、実現をしているようです。加えて、課題を解決するための人、お金、モノが急速に増えて、課題解決のスピードがさらに加速するというのが、関係者の見方のようです。

航空機部品という、モノとしてハードルが高い分野だからこそ、実現することの利益が大きいことが、人を動かし。多くの知恵と努力を生む原動力のようです。当然、そこで解決されたことは他の製造産業全般に広がっていくことは歴史的にも繰り返されていますので、今は「飛行機に限ったこと」かもしれませんが、広がってきてから注目したのでは後れを取ることにもなりかねません。

これからも航空機産業での3Dプリンティングの使われ方について情報を集め、お届けしていきたいと思います。

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