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3Dプリンティングと形状最適化は「帰納法」で考える?掲載日:2018/08/15

十数年前と違い、3Dプリンティングについての情報は毎日多量に発信、拡散されていますが、「どこかおかしい」「腑に落ちない」と感じる記事もいくつかあります。そのような記事の考え方や伝え方にはある傾向があるように思えるのですが、それはどういうことかというと...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

3Dプリンティングの国内での状況は「変わった」けど「変わっていない」?

毎年8月は暑いのですが、今年は7月が異常に暑かったので、「残暑」がすごく長いように感じています。筆者は冷房の乾燥でのどが痛くなったりしながらも、ビールでなんとか乗り切ろうと思っています。長い休みを取られた、これから、または仕事に汗を流されている方もいらっしゃると思いますが、まずは健康第一でこの夏を乗り切っていただければと思います。

さて、ご存知の方も多いと思いますが、2014年前後に3Dプリンターの「ブーム」があり、その時は海外でも日本でもマスメディアが注目してとても多くの映像や記事が発信されましたが、日本ではブームが冷めたあとは急に少なくなった一方、欧米ではひとつのものづくりの方法として認められたり、学術研究からビジネス、一般社会にまでますます拡大していることもあり、メディアからの情報発信は減るどころか増えているようにも見えます。

そのような中で国内では、世界的なIT専門の調査会社であるIDC Japan 株式会社が7月に発表された「国内3Dプリンティング市場予測」で2017年~2022年の年間平均成長率は 9.1%という予測を含め、今後も高い成長を続けるという内容でしたが、そのような成長市場にもかかわらず、国内で3Dプリンティングに関する報道や情報発信が増えているようには見えません。

他方で3次元CADや3Dプリンティング関連のイベントに参加しますと参加者も多く、3Dプリンティングは個人、企業、公的機関、教育研究の中で知る人には知られ、認められるようになってきているようで、十数年前のことを思い返すと「時代が変わった」というのが筆者の実感です。しかしながら、そこで話されている話題や内容については「あまり変わっていない」と思うことも多々あり、複雑な想いです。

 

「演繹法」と「帰納法」

3Dプリンティングについて国内で発信されている情報や会話の中で十数年前と「あまり変わっていない」と感じるのは、「3Dプリンティングは使えるのか使えないのか」「なぜ日本では欧米のように普及しないのか」という話題になると、結論が「どこかおかしい」「腑に落ちない」と感じることが多いことです。

どうしてそうなるのかを、暑くてボーっとしている頭で考えてみたところ、ふと「演繹(えんえき)法」と「帰納(きのう)法」のことが浮かびました。筆者は高校生のころ初めて聞いたもののすっかり忘れて過ごしてきましたが、インターネットのおかげで簡単に調べられ、少し思い出しました。

ある物事の「結論」や「推論」を考えたり、人に分かりやすく伝えるために「論理的」に考えることは大事なことで、自然に行われていることも多いのですが、その考え方は「演繹法」と「帰納法」の2つの基本の組み合わせで行われているそうです。

演繹法は、三段論法とも言われるもので「観察事項(新しく知った)」ことを「ルール(既に知っているまたは一般論)」に照らし合わせて「結論」を導き出すというものだそうです。「AはBである」「BはCである」だから「AはCである」という例が良く挙げられます。但し、観察事項やルールが正しくないと、結論も正しくなくなってしまいます。

帰納法はいくつかの「観察事項」の共通点を見つけ、推論や結論を導き出す方法で、演繹法と違い、結論が1つ自動的に導き出されるのではなく、複数だったりもします。また良い結論を出すには、正しい共通点を見つけたりする「知識」が必要で、その知識から「こうなる確率が高い」と推定する力も必要です。例としてはいくつかの実験結果から、「これは○○である」という結論を出すことが挙げられます。

筆者が見たり聞いたりする話で、「どこかおかしい」「腑に落ちない」と感じるのは、例えば

「3Dプリンターで銃を作ることができる」→「銃が簡単に作れることは問題だ」→「だから3Dプリンターの普及には問題がある」

「3Dプリンターで作るモノは表面が粗い」→「表面が粗いモノは品質が悪いものである」→「だから3Dプリンターは品質が悪く使えない」

「3D プリンターや材料は価格が高い」→「価格が高いモノは売れない」→「だから3Dプリンターは売れない」

「市販自動車は高速道路を走れる安全性が必要」→「今の市販自動車車体や部品を同じ品質で3Dプリンターで作ることはできない」→「だから3Dプリンターで自動車は作れない」

およそこのような話です。もちろんそれぞれ一理あるのですが、「演繹法」のような結論の出し方で、かつ「観察事項」と「ルール」の関係は正しいか? すべての場合に当てはまるか? その結論だけで全体の結論として良いのか?という疑問が湧くときに「どこかおかしい」と感じるのではと思っています。

3Dプリンティングについては「帰納法」の方が合っている?

確かに「三段論法」の方が狭い1つの結論を考えて伝えるには分かりやすく良いのですが、3Dプリンティングについて「使えるか使えないか」「なぜ普及しないか」を考えるには、多くの「観察事項」や「実験結果」から、「およそこうなるだろう」という推論を出す帰納法の方が合っているように思っています。

ただし、「観察事項」が間違っていたり、「良いこと、悪いこと」の「共通点」の見つけ方が良くないと、良い結論を導けないというケースも実際に多くあるように思います。

例えば「表面が粗い」とか、「内部に空洞や隙間がある」ということは「事実」であり変えられませんが、それは目的に対して「どの程度」なのか、本当に悪いことなのか、またその他「人の工数が少ない」「設計してから実際に手にするまでが早い」など出来るだけ多くの事実を集め、「ある目的に対して使える共通点」が多ければ、「役立つ」という結論になるケースも多くあると思います。

「装置や材料の価格が高い」というのも毎回出てきますが、「高い」というのは「何とどの条件で比較して」という点や、「得られる利益に対してどうか?」という点など、「事実」をどこまで集めるかでも変わってきます。

形状最適化設計ツールにも演繹法と帰納法のタイプがある?

3Dプリンティングの話題でよく目にするのは、コンピュータによる解析を基に、より少ない材料で必要な剛性や強度を出すためにトポロジーや形状を最適化するソフトウエアを使う事例で、特に最近、設計者自身が使う目的のソフトウエアがいくつか市販されています。筆者の勝手な見方ではありますが、その中に演繹法と帰納法のそれぞれに近いタイプがあると見ています。

Autodesk Fusion360に含まれるGenerative Designでは、変えてはいけない形状、そこに拘束・荷重条件を加え、更に「材料が入ってはいけない空間形状」を作り、材料種を選択、諸条件を入れるとクラウドコンピューティングにより、少しづつ条件の異なる「形状候補」を複数計算し提示します。

結果提示例 Autodesk様 スライド資料より引用

この中から、材料量、強度などの特性、加工性など様々な条件から最後は人が「最適」と決めたものを3次元データとしてダウンロードして、編集設計するなり、3Dプリントするなりして使います。これはどちらかというと帰納法的な結論の導き方ではないでしょうか?

一方、Solidworksのアドオン製品であるHiramekiWorksや使うCADに関わらず使えるSolidthinking Inspireのように、まず変形や肉抜きして良い形状と、変えてはいけない形状を作り、拘束・荷重条件、素材を選択、諸条件を入れると、計算結果を1つの形状として提示してくれます。これは1つの事項からルールにより1つの結論を導き出す点では、どちらかというと演繹法に近いと見られます。すると、この計算結果は「本当に”最も適した唯一の形状”なのか?」と疑問に思うのは筆者だけではないと思います。

何れのソフトウエアにも目的や使い方によりどれが良いとは一概に言えませんが、まずどれもソフトウエアが出してくる結果は、「設定条件」が正しくないと結果も正しくないこと、また、呼び方として「形状”最適”化」というのが良くないのかもしれませんが、結果は「唯一絶対最適」ではなく、あくまで実験結果の一つとして出てくるものであり、最後は人が複数の結果から「ほぼ正しいであろう」結論を導き出す「帰納法」的に考えて使うのが良いのではないでしょうか?

繰り返しになりますが、あくまで筆者の見方として、3Dプリンティングの使い方も、形状最適化ツールの使い方も、どちらかと言えば帰納法で考えた方が良いのではという提案でした。皆さんはどうお考えでしょうか?

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