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「日本の定説」は「世界の定説」ではない?掲載日:2023/02/08

3Dプリンティングの展示会「TCT JAPAN 2023」が2月1~3日に開催されました。その中で感じたことは3Dプリンティングのよく聞く「日本の定説」は実は「世界の定説」ではない?ということでした。偶然最近参加した海外オンラインイベントからもそのように感じた話題がありましたが、それは...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

TCT JAPAN 2023が開催されました

今年の1月はいつもに増してあっという間に過ぎてしまったように感じていますが、立春も過ぎ、日が暮れるのも少しずつ遅くなってはいるものの、まだしばらく寒い日が続きそうです。そのような中、3Dプリンティングの展示会「TCT JAPAN 2023」が2月1~3日に東京ビッグサイトで開催されました。弊社丸紅情報システムズ株式会社は日本AM協会共同ブースで出展しました。

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多くの企業で出張やイベント参加制限がほぼない状況での展示会は久しぶりだと思いますが、筆者の感想としては出展も来場もコロナ前の規模には戻り切らなかったように見えました。これには様々な背景があったと思いますが、遠方からの具体的な目的をもって来場された方と多くお会いしましたし、昨年のドイツFormnextにはこれまで以上に多くの日本からの来場者があったとのことですので、展示会もただ見に行くより、目的に合った展示会に行く方が増えているのかもしれません。

TCT JAPANの良い点は、なかなか聞くことのできない海外専門家や日本の実践先駆者の講演が聞けることで、今回もとても勉強になりました。その中で感じたことは3Dプリンティングのよく聞く「日本の定説」は実は「世界の定説」ではない?ということでした。偶然最近参加した海外オンラインイベントからもそのように感じた話題がありましたので、以下にご紹介します。


3Dプリンティング「日本の定説」は「世界の定説」ではない?①

その例をいくつか挙げてみます。まずは「日本の3Dプリンティングは世界の中で遅れている」という定説です。

TCT JAPANの中の日本の有識者によるパネルディスカッションでもこの話題が取り上げられましたが、パネリストからは「日本にも先進企業は存在する。ただ活用している企業は的を絞れている。海外に比べても進んでいる技術はある」、また全世界の産業規模の中で日本の割合が少ないことについても、「国の産業規模からすれば一概に少ないとは言えない 」とのことでした。

また、今後5年間でどう変わるかの話題では、日本は欧米と製造産業種類が違うけれども、3Dプリンティングが成長する良い環境にあり、伸びていくだろうとの見方が示されました。その環境については具体的に示されませんでしたが、今後の日本の環境の参考になる下記の情報がありました。

ニュースダイジェスト社 ウエブニュース記事「2023 FA業界新年賀詞交歓会 業界展望、今年の受注見通し」(https://www.news-pub.co.jp/newyearceremony/report/index.html)によりますと、「2022年の日本の工作機械受注総額は半導体や電気自動車の関連需要増から前年比プラスの1兆7500億円に達したとみられ、2023年の見通しは1兆6000億円で、海外景気後退による外需は減るが内需設備投資堅調の予測からの数字」とのことです。また大変興味深い解説があり、「市場原理では需要の変化で設備投資がされるが、経済が悪化しても設備投資が増えるのは、供給側(=製造企業)が人手不足、環境対応、サプライチェーンの再編など改革が求められることで設備投資が増える」とのことで、3Dプリンターは日本では「工作機械」には含まれていませんが、今年の背景は共通しているのではないかと思います。またロボットの2022年受注額は「自動化需要堅調で前年比増の約1兆1100億円」とのことで、こちらも3Dプリンターにもプラスに作用すると思います。

TCT JAPANでも海外企業の新しい出展も多くあり、海外から見れば日本の3Dプリンティング市場は有望とみている方も多いと思います。


3Dプリンティング「日本の定説」は「世界の定説」ではない?②

次の「日本の定説」は「3Dプリンティングは実部品量産には向かず、品質も足りない」です。

TCT JAPANでの、ベルギー Materialise社創業者兼CEO Vancraen氏の講演では、同社が3Dプリンティングによる受託生産する約半分は既に実用部品生産で、例として欧州有名メーカー競技用自転車の金属サドル部品を月間2000個、樹脂眼鏡フレームを複数社に対し年間20万個、補聴器シェル部品を累計200万個生産され、その他医療歯科手術用ガイド含め、納期や品質の需要を満たせているとのことでした。特に品質については一般論で良い悪いではなく、特定の製品部品においては適切管理により十分な品質が保てるとのことでした。

この視点は重要で、筆者もよく「〇〇プリンターの品質や寸法精度は?」と聞かれることがありますが、今後は皆さんも「〇〇プリンターで△△の部品を□□の要件定義で作る場合の品質や寸法精度を満たせる可能性は?それに必要な品質管理条件は?」を質問され、そこでわかる課題について解決できること、できないことを探ると有用な情報と成果が得られると思います。


3Dプリンティング「日本の定説」は「世界の定説」ではない?③

次の「日本の定説」は「3Dプリンティングはコストが高い」です。

2月25-26日にWomen in 3D Printing主催「TIPE 2023」がオンラインで開催されました。この団体は3Dプリンティング産業や学術界に携わる女性が産業技術発展により活躍できることを女性が中心に応援する非営利の団体で、設立はアメリカですが、全世界に地域グループがあり、短期間にとても大きな組織になっています。イベントには男性も参加できるので、筆者もオン/オフイベントに何度か参加してきました。TIPEは数年前から年1回すべてオンラインで開催され、参加費無料で、運営もボランティアによって行われています。簡単に書きましたが、このような団体が他の専業にあるか存じませんし、ボランティアベースでここまでうまく運営されるイベントが出来ていることはすごいことですし、とかく製造産業は男性が多くなりがちですが、その中でも3Dプリンティングは女性も活躍しやすい分野なのかもしれません。また今回SME(アメリカ製造エンジニア協会)が協賛協力し、3Dプリンティングが製造産業にも定着、共存共栄が進んでいることもうかがえます。

プログラムは識者からの講演から、数名によるパネルディスカッションの他に、雑談によるネットワーキングの時間も多くとられ、かつ今回はメインステージ講演のほかに、「技術」「ひと」「経済」「産業」の4つのトラックで多くの双方向セッションが、アメリカ西海岸時間を軸に世界地域ごとの時差にも合わせて、2日間ほぼ途切れなく提供されるという内容でした。筆者は歳のせいで早起きは何でもないので、日本時間早朝のセッションだけ参加しましたが、本当に今働いている方々の生きた情報を得ることが出来、勉強になりました。

その中で、よく日本でもテーマになる「なぜ3Dプリンティングは普及しないのか?」も同じようによく話題になっていて、海外の一般アンケートの結果でも理由のトップは「コストが高い」なのですが、講演者から何度か「もうコストは高いといえない」という発言が何回も出ていました。その背景は、まずコロナ禍と国際情勢により、これまでのサプライチェーン、エネルギーチェーンが機能しなくなり、また人の移動も難しくなったことで、相対的に3Dプリンティングによる単純、柔軟なサプライチェーンのコストが低くなったこと、またこれまでは材料費、加工費など目に見える部品単体の表面だけのコスト比較だったのに対し、サプライチェーン、ライフサイクル全体、または既存製造に意外と多い「隠れコスト(例えば在庫や輸送、人の作業)」を含めた本来の比較が行われるようになったことがあるとのことでした。この見方は「日本は例外」とは言えず、むしろ国際的チェーンへの依存度が高い日本だからこそ、取り入れるべき見方だと思います。


3Dプリンティング「日本の定説」は「世界の定説」ではない?④

最後の定説は「3Dプリンティングを使うにはデジタル化が必要」です。

Fraunhoferが主催する「Direct Digital Manufacturing Conference(DDMC2023)」が3月15‐16日にベルリンでオフラインで開催予定ですが、その宣伝も兼ねたウエビナーシリーズが開催され、これは日本時間23時からだったので眠さとの戦いでしたが、筆者は1月26日の会に参加しました。DDMCには2012年の第1回と、当時は2年毎で2014年の第2回に実際に参加し、どちらかというと学術研究中心なのですが、最近は実用やビジネスも含まれてきているようです。今回のウエビナーは、2022年のウエビナーで、ドイツEOS GmbH社創業者でありExecutive ChairmanであるHans J. Langer博士の講演録画の後で、同社Managing DirectorのNikolai Zaepernick氏が質問に答える内容でした。Langer氏は3Dプリンティングだけでなく、「Digital Nature」という表現で、今後あるべきデジタルデータ基盤製造サプライチェーンを示され、その中の3Dプリンティング(AM)の役割は「Digital impact on AM solution」とおっしゃっていました。つまり「3Dプリンティングを使うにはデジタル化が必要」とは目的と手段が逆で、「製造のデジタル化には3Dプリンティングが必要」という説も海外で広まっているということです。

また、筆者の質問「レーザーPBFでの量産に必要な品質安定性、繰り返し再現性に最もカギとなることは何か?」に対し、Zaepernick氏は「正に重視し取り組んでいる課題だが、どれか一つではなく、エコシステム(循環工程と管理)が重要」との回答をいただきました。この回答はどの3Dプリンティング技術にも当てはまり、一見わかりにくいけれども、これが正答だと思います。

他にもあるかもしれませんが、とかく「定説」は変わるもので、万人に共通でもないのは3Dプリンティングでも言えることだと思いますので、みなさんも定説は参考にしながら「自説」を持って3Dプリンティングの活用をされることをお勧めします。

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