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「失敗」こそ3Dプリンティングの価値?掲載日:2024/02/22

先日日本の新たな大型主力ロケット「H3」の打ち上げ成功のニュースがありました。部品製造に3Dプリンターが使われた旨の関連報道もありましたが、記者会見では「失敗」についてのコメントもありました。それから気づいた「失敗の価値」とは…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

「失敗」と3Dプリンティング

2月も半ばを過ぎ、家の近所の公園や住宅の庭で紅白の梅が咲いているのをよく見かけますが、最近は満開の華やかな桜より梅の方がいいなあと思うのは、歳のせいかもしれません。今日の話題も華やかな「成功」より地味だけれども大事な「失敗」と3Dプリンティングの価値についてです。

前々回のコラムでお知らせした月面探査機「SLIM」の着陸成功に続き、日本の新大型主力ロケット「H3」打ち上げ、人工衛星軌道投入成功のニュースがありました。ご存じの通り昨年3月に1号機の打ち上げ失敗があっただけに、関係者のプレッシャーと成功の喜びは想像できないものだっただろうと思います。打ち上げ以前から公表されてもいましたが、部品製造に3Dプリンターが使われた旨の関連報道もあり、直接関わっていないものの、3Dプリンティング関係者にもうれしいニュースでした。一方で、3月の記者会見で「中止と失敗」が話題にもなり、今回の会見でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田匡史プロジェクトマネージャが「物凄い重い肩の荷がおりた」と仰っていて、それは本音だと思いますが、そこには日本に拡がっている「失敗=悪い、マイナス」「失敗した人は責を負うべき」というような空気を感じたのは筆者だけではないと思います。それでもその後のインタビューで、35年のロケット開発経験とH2Aの打ち上げ失敗も3度経験されたことを通じ、「JAXAの『ロケットエンジニア心得』には『忙しさの傍らでも、ロケットの未来を考えよ』とある」こと、この1年間を振り返り、「エンジニアは失敗すると、ものすごく強くなる」と仰っていて、とても重く、今の日本にあらためて必要な言葉だと思いました。

その後偶然見たテレビ番組の中で「失敗」について印象に残った言葉を聞きました。2月17日にNHKで放送された「野口聡一・劇団ひとりの2030月面テレビ」の中で、アメリカのテスラ社やスペースX社のCEO イーロン・マスク氏のモットーや発言が紹介されました。

「(コストと時間のムダを省くため)中間テストは無駄 結局最終テストでロケットが飛べばいい」
  「何度も打ち上げてそこから改善していくことこそ最も重要なんだ」
「トライアンドエラーを繰り返し、課題を見つけることが開発の速さに」
「(ロケット打ち上げ失敗などによる)鉄をムダにしても時間はムダにしないこと」
「完璧を目指すんじゃなくて気に入らなければ新しいものを作ればいい」

つまり、失敗は悪ではなく、完成品に近い状態で速く多く安く失敗することが結局コストや開発スピード含め圧倒的な競争力のある製品やビジネスにつながるという、上記の日本の空気とは逆の考え方だと思います。また、このようなことを現場の方ではなく経営トップの方が公言されていることが、最近の日本では少なくなっているようにも思えます。このような開発製造を実現するには3Dデータ活用と3Dプリンティングが適し、その利用価値も高いと考えられ、「失敗についての考え方」が3Dプリンティング活用規模の差につながっているのではと考えさせられました。

イーロン・マスク氏の好き嫌い、正しいか正しくないかはそれぞれあると思いますが、打ち上げ成功率が97.9%のH2Aも1回の打ち上げ費用が高いことで商業利用は5回に留まったそうで、打ち上げ費用半額を目指して民生部品や3Dプリント部品が使われ、10年の開発期間をかけて打ち上げ成功したH3ロケットもスペースXのロケットと競争していくことになり、これは電気自動車はじめ多くの製造製品にも起こることを考えると、「それは海外だから」「航空宇宙だから」と他人事と捉え続けて良いのかどうか。みなさんはどう考えられるでしょうか?

生成AIに聞いてみた「日本の3Dプリンティング」

最近話題の生成AIも、ある意味では速く多く失敗し続けることが正確性や有用性を速く高められるので、とにかく未完成でも多くの人が利用できるようにしたのではないでしょうか。実は弊社内で最近複数の生成AIを試験的に使えるようになり、試しに次の問いを投げてみました。

「日本の3Dプリンティング市場の現状と成長に必要なポイントを3つ教えて!」

<ある生成AIの回答(筆者要約)>

「日本の3Dプリンティング市場の現状については、以下のような特徴があります:

技術進化と産業応用の拡大: 精密工学や高度な製造技術の分野での3Dプリンティングの活用が進んでいます。自動車、航空宇宙、医療機器などの分野で特にその傾向が見られます。

研究開発の活発化: 多くの大学や研究機関が3Dプリンティング技術の研究開発に力を入れて、政府も新しい製造技術の開発を支援しており、イノベーションを促進しています。

スタートアップとのコラボレーション: 3Dプリンティング技術を取り入れた大企業と新しいアイデアや技術を持つスタートアップとのコラボレーションも盛んに行われています。

市場の成長に必要なポイントとしては、以下の3つが挙げられます:

教育と人材育成: 3Dプリンティング技術を活用するためには、専門知識を持った技術者やデザイナーが必要で、教育機関における3Dプリンティングに関するカリキュラムの充実や、現場での研修・セミナーの提供が重要です。

材料技術の開発: 3Dプリンティングの可能性を広げるためには材料技術の開発が求められます。特に、環境に優しいバイオマテリアルや、高性能な新素材の開発が重要です。

産業連携と規制の整備: 異なる産業間での連携やパートナーシップの構築が必要です。また、製品の安全性や知的財産権の保護など、技術の普及に伴う規制の整備も成長を促進する要因となります。

これらのポイントは、日本の市場だけでなく、世界の3Dプリンティング市場においても成長を促進する重要な要素です。また、市場の動向は常に変化しているため、最新の情報を得るためには、業界ニュースや市場調査レポートを定期的にチェックすることが重要です。」

以前に比べるとかなりそれらしい回答を出してきた印象で、もうこのコラムで筆者が書く必要もないのかもしれませんが、おそらくこういった日本語での文章がネット上にも増えていることが進歩の背景にあると考えていて、それはそれでよいことだと思います。

おまけですが、画像や動画の生成AIも最近報道で話題になりますが、「3Dプリンティングで人々が研究開発している画像」をお願いしてみたところこのような画像が出てきました。
img_3D_20240222_02.jpg
間違ってはいないと思いますが、実際にこのようなことは起きないだろうなぁという「失敗作」な感じです。こちらはまだネット上に情報が足りていないのかもしれません。それでも、1分足らずで自分では作れない画像を作るのですからすごい技術で、このような失敗を急速に重ねて進化していくのでしょう。

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