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航空・宇宙分野 3Dプリンター活用事例

次世代宇宙システム技術研究組合 様


次世代宇宙システム技術研究組合
理事長 山口 耕司 氏

「ほどほどでいいじゃないか」の発想で
1機わずか数億円の超小型人工衛星を開発

衛星が安くなることでできること

ミカン箱を上下に2つ重ねたような大きさだった。3辺とも長さは約50cmほど。衛星「ほどよし」である。「それはモックアップですが、実物大なので現物と同じ大きさです」山口耕司氏。次世代宇宙システム技術研究組合の理事長だ。同組合は、大学、企業、行政の産官学連携によって、衛星の世界市場を獲得するべく2010年3月に設立された組織だ。衛星を4機打ち上げることをミッションとしている。だが、衛星市場は各国が熾烈な争いを繰り広げており、そう簡単に入り込めるものではない。そこで、組合が目をつけたのが「超小型衛星」という市場だった。
衛星は一般に、何トンもある「大型衛星」、500kg以下の「小型衛星」、100kg以下の「超小型衛星」と分けられる。つまり、衛星のなかでもっとも小さい部類の衛星をつくることを目指したのだ。
「それまで衛星は1機3、4トンもの重さがあり、価格も300億円前後と非常に高額で、開発期間は5~10年もかかっていました。そこで私たちは、開発期間を2年程度と短くし、価格も従来の約50分の1である1機約2~3億円を目標に掲げました」
安い超小型衛星によって、今までできなかったことが可能になるという。
「衛星は地球の周りを周っていますが、同じ場所の上空を通過するのに2~3週間ほどかかってしまうので、1か所の撮影頻度も限られてしまいます。しかし、衛星の価格が安ければ数多くの衛星を打ち上げることができ、衛星が多ければ多いほど地球の状況をリアルタイムで把握できるようになる。農業であれば生育状況が把握できることで追肥や刈り取りのタイミングがわかり、漁業でも魚群の把握が可能になります」
だが、いくら機体を小さくするとはいえ、1機2~3億円で衛星をつくることは本当に可能なのだろうか。組合には目算があった。





「ほどよし信頼性工学」という発想

組合が目指したのは「ほどよし信頼性工学」だった。
「これは組合の中心研究者である東京大学の中須賀真一教授の研究テーマで、完璧を目指すのではなくほどほどでいいのではないか、という考え方です。この発想によって価格を下げることを考えたのです」
「ほどよし信頼性工学」をもっとも象徴しているのが「再起動させる」という発想だ。通常は、不具合が起こったときにそれに対応できるシステムを別に構築しようとする。しかし、それでは複雑な仕組みになり、開発時間もコストもかかってしまう。そこで、「パソコンのように再起動すればいいじゃないか」と、不具合が起こったら単純に再起動させる設計にした。こうした設計の工夫のほか、もう1つ改革に着手したのが書類の簡略化だ。
「宇宙業界は冗談で『原価が2割、書類が8割』ともいわれていて、品質のエビデンスをきちっと残さなければなりませんでした。そこで、今あるルールを適用するのではなく、自分たちで簡略化したルールをゼロからつくっていくことにしました」
こうして、コストと開発期間の削減を図っていったが、組合にはもう1つ大きなミッションがあった。すべて国産品でつくるということだ。
「組合は衛星の世界市場の獲得を目的にしているため、海外の部品を集めてそれを海外に売っていては利益が出ません。国産でつくったものを売るからこそ意味がある。カメラ、バッテリー、太陽電池パネルなど、すべての部品を自分たちの手でつくっていくことにしました」そして山口理事長は、1つのアイデアを思いつく。



組合設立と同時に導入した3Dプリンター

「昔、アメリカのロッキード社に行ったときに、最新のCADがズラリと並んでいて、小さい加工機を使ってスケールモデルをつくっていました。モニタ内だけでなく実際の形として触れるほうがはるかにわかりやすく、モデルがあるのはすごいことだと感じていました。やはり仮想と現実のギャップを埋めなければならない。そのために3Dプリンターが欠かせないと判断し、組合設立と同時に3Dプリンター Dimension SST 1200esを導入しました」
超小型衛星といえども部品点数は膨大で、3Dプリンターを使い試作を重ねていった。最初はあまり3Dプリンターを使っていなかった若手スタッフも、一度その便利さを知ると、山口理事長も驚くほどの勢いで一気にフル稼働状態へとなっていく。モックアップの表に見えている構成部品はすべて3Dプリンターでつくったという。組合設立から2年半ほどたった2012年10月に1号機が完成。そしてその後、2号、3号、4号が次々と完成していく。
「4機はミッションがそれぞれ異なっていますが、いずれも1機当たり2~3億円で、開発期間は2、3年でした」





さらなるコストダウンを図り「マイ衛星」へ

ほどよし1号は2013年中には打ち上げられる予定だったが、打ち上げ予定地のロシアの事情により、まだ打ち上げには至っていないが、2号機は日本のH2Aロケットで2015年中に打ち上げ予定となっており、3、4号は2014年6月19日(日本時間20日)、ついにロシアのロケットに乗って打ち上げられ、無事軌道に乗ることに成功した。
「最終的に衛星を3Dプリンターでつくれないかと思っています。たとえば、ハニカムパネルは『接着』というあやふやな工程を含んでいますが、3Dプリンターなら一体成型なので強度が出る。宇宙空間では避けられない放射線や紫外線に強い素材が出るようになれば、衛星に3Dプリンターでつくった部品が実装されるようになるはずです」
1機当たり数億円の超小型衛星。打ち上げによって確かな性能が確認できれば、日本発の超小型衛星が世界市場を席巻する可能性もある。
「ただ1機2~3億円で満足しているわけではなく、将来的には3,000万円ほどでつくれないかと考えています。これくらいの額になれば、国に頼らなくても企業が独自で衛星をもつことができ、個人がお金を出し合って衛星をもつことも可能です。つまり『マイ衛星』に近づいていく。そうなれば、衛星はもっともっと身近なものになっていくはずです」
かつて高嶺の花といわれたテレビ、自動車、パソコンなどは価格が下がるにつれて人々の生活のなかにどんどん浸透していき、今や暮らしになくてはならないものになった。1企業1衛星、1団体1衛星、1自治体1衛星──。そんな時代は、意外と早くやってくるかもしれない。

※「日本発の『ほどよし信頼性工学』を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」のプロジェクトは、内閣府最先端研究開発支援プログラムの助成を受けて実施されているものです。



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