建設分野 3Dプリンター活用事例
建築において依頼者の思いに応えるのは簡単ではない。依頼者は完成するまで現物を見ることができないため、依頼者のイメージと完成物のギャップが生じることもある。一級建築士事務所プラスデザインは「依頼者に成り代わって、依頼者の思いを成し遂げる」ために、大手住宅メーカーディベロッパー、デザイン事務所を経験した同社代表が一念発起し設立した。
その企業姿勢は依頼者から高く評価され、実績が次のビジネスにつながり、営業をしなくても仕事は途切れたことがないという。同社の事業は設計・デザインはもとよりコンサルティング、インテリアなど幅広い。建築領域もオフィス、商業店舗、旅館、戸建住宅など多種多様だ。同社は依頼者と建築会社、建築士が共通のイメージを持つことを大切にしている。1物件につき模型を2つ製作し依頼者と現場の双方に渡しているのも、関係者間での食い違いをなくすためだ。
社内で模型製作を行うことから手間暇が大きな課題となっていた。また建設業界の人手不足もあり、設計図面を読めない職人が多くなっており模型の質も求められた。同社は効率的に完成度の高い模型を製作するため3Dプリンターに着目した。
コンバージョン計画(オフィスビルからホテルへの用途変更)模型
家具模型もレイアウト
同社が3Dプリンター活用に踏み出すことができたのは、3Dプリンターでアイデアを具現化しビジネス化している「id.arts(アイディーアーツ)」代表の米谷芳彦との出会いが大きい。同社はid.artsから紹介を受けた丸紅情報システムズに「3Dプリンターでやりたいこと」を相談し購入を決断した。問題は誰が3Dプリンターを使うのか。同社は少数精鋭のため、建築士やデザイナーは本来業務に集中しなければならない。そこで抜擢されたのが、経理担当の高田佳奈氏だ。
「私は元薬剤師で事務系ソフトしか使ったことがありませんでした。米谷さんに3Dソフトの使い方から3Dプリンターによる造形まで短期講習を受けました。講習は要点を押さえたものでとても役立ちました。例えば、壁厚はそのまま縮小すると壊れてしまうから1mmは絶対確保しないといけないとか。すべて一括で造形するのではなく壁や天井は分割してつくることも教えていただきました」
高田氏は経理の仕事をしながら3ds Max®(Autodesk社)での3次元模型設計法を独学で覚えたという。「プラモデルのようにパーツを造形して組み上げていくのですが、パーツのつくり方を工夫したり、厚みを考えたりと、経験してノウハウを蓄積していきました。また丸紅情報システムズさんの親身なサポートにも助けられています。提供していただいたマニュアルには熱収縮度なども詳しく書かれていてじっくり読み込みました」
同社は3Dプリンターを購入して半年後、建築物の模型を紙のものから3Dプリンターによる造形に切り替えた。
「精度の高い模型により現場での説明もスムーズに行えます。従来はスチレンボードや紙で模型をつくっていて耐久性に問題がありました。3Dプリンターで造形した模型は耐久性が高く、現場で模型が破損することもほとんどなくなりました。また2つの模型を均一に造形できる点も魅力です。さらに模型を早く渡せるようになり、依頼者や建築会社がじっくり考える時間も創出できました」(高田氏)
同社は3Dプリンターで各部材などの形状を試作し独自性の高い空間提案を行っていくことも検討している。完成度の高い模型はコンペの競争力向上にも有効だ。また様々な造作物についても模型をつくることで、業者任せではなくデザイナーが主導権を持てる。同社で3Dプリンターの活用の場が広がるのに伴い、高田氏への要望も高くなっていく。「答えを出すまでには悶々とするときもあります。悩めば悩むほど、できあがったときの喜びも大きくなります」