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医療分野 3Dプリンター活用事例

株式会社京都科学 様


株式会社京都科学
グローバル戦略部 研究開発課 係長 松岡 紀之 氏

3D CADを活かすべく3Dプリンターを導入し
試作精度の向上とスピードアップを実現

医師や看護師はすぐに注射や採血、手術ができるようになるわけではない。何度も練習することで初めて技術をマスターすることができる。
そこで生まれたのが医学・看護教育用のシミュレータだ。それを開発・販売しているのが京都に本社のある京都科学だ。松岡紀之氏はシミュレータの開発に携わっている。入社以来、松岡氏はずっと開発の現場にいるが、2010年、大きく舵を切る。
「それまでのものづくりを変えようと思いました」改革を図った開発の現場を追った。

人体模型の会社から要望を受けて

京都駅から南に8km、車で約20分のところに、工場を併設する京都科学の本社がある。従業員数は約120名だ。1944年に閉鎖された島津製作所の標本部を引き継ぐ形で1948年に設立された会社だ。取材に応じてくれたのは、グローバル戦略部研究開発課に所属し、日々研究開発に携わっている松岡紀之氏である。
「戦後は主に、理科教室にあるような人体模型などの製造や歴史文化財の複製をつくっていました。それが時代の流れとともに少しずつ変化していきました」
高度成長期に入ると医師不足、看護師不足が叫ばれるようになり、医科大学や看護養成学校が次々と設立される。そんな中、さまざまな要望が届く。その要望に応えたことが、人体模型をつくり続けてきた京都科学の新しい最初の一歩となる。





人体模型からシミュレータへの転換

1960年代、医学や看護の教育現場から次のような声が届く。「注射の練習ができるような人体模型がつくれないだろうか」長い開発期間を経て、1966年、注射・洗浄包帯用「看護自習モデル人形」を世に送り出す。これが京都科学では初めてとなる看護教育用「実習モデル」が誕生した瞬間だった。
そしてこの頃、医学や看護の世界と接点ができたことから、営業などで医学部や看護学校に出向くことが多くなる。そんなとき1人の社員がある光景を目にする。それは学生同士で採血の練習をしているところだった。その社員は、京都科学の現社長である片山英伸氏。「この現実をなんとかして変えられないか」と、採血の練習ができるモデルの開発に乗り出した。
採血する部分を樹脂にし、実際に血液を採取する練習ができるように血管を模したチューブを埋め込み、その中に赤い液体を入れ、注射器を引くと赤い液体がスーッと注射器の中に入っていくようにした。学生同士で採血し合う現実を変えるこの採血静注シミュレータは、現在「シンジョー」と名づけられているモデルで、医学・看護の現場にまたたく間に浸透していった。
そして1990年代には、新たなシミュレータ“イチロー”が登場する。心疾患の身体所見をすべて再現することができるシミュレータだ。試行錯誤が繰り返され、1995年、遂に実際に教育シミュレータとして使えるものが完成する。
「心音図を診ながら聴診ができ、医学部や病院などで使われています。心音はもちろん、頸動脈の視診、動脈の触診などもできます。このシミュレータが『イチロー』と名づけられたのです。ちなみに、プロ野球選手のイチローがまだ鈴木一郎の名前だった時代です」イチローはちょっとした高級車が買えるほどの価格だが、88症例のシミュレーションが可能なこのシミュレータは、本物の人体と同じような反応を示すことが医療現場で驚きをもって受け入れられ、国内、海外で高い人気を誇っている。
人体模型からスタートした京都科学は、今や売上のほとんどをシミュレータが占めるようになり、本分野において長きにわたりシェアNo.1を誇っている。その理由を松岡氏はこう推察する。
「教育熱心な先生方のご指導の下、他社にはない精巧さを追求しているからです」



3Dプリンター導入で精度をさらにアップ

「医師の方々からも、触った感覚などがより人体に近い、解剖学的にも優れていると言われます。そもそも人体模型がスタートの企業なので、精巧さへのこだわりが遺伝子として受け継がれているのです」精巧な商品づくりの中核を担っているのが、松岡氏が所属するグローバル戦略部研究開発課。総勢13名の少数精鋭である。
ある程度のところまでは自分たちだけでつくれるが、専門的な部分は医師などの専門家が必ず監修に入り、細かいチェックが行われる。「我々は医師ではないので感覚的なことはほとんどわかりません。
例えば、身体の部位でもっとここは上を向いている、もっと反っている、といったことがあります。違うとなれば、またつくり直します。こうした修正を何度も何度もやる。中途半端なものを絶対に商品にしな いと決めているからです」
そのため開発期間は長く、イチローは7年もの歳月を費やし、近年開発した商品でも2~3年はかかるという。
何度も何度も修正を重ね、実際の人体に限りなく近づけていく。それにより精巧な商品が完成しシェアNo.1へと結びついているのだ。こうした中、京都科学は開発現場の改革にも余念がない。一例が3Dプリンターの導入である。2005年ごろから3D CADを導入したが、3DプリンターがあればCADデータから直接試作品を造形することができると考え、2010年に3Dプリンターを導入する。
「大きく変わったのは失敗をたくさんできることです。トライ&エラーを繰り返すことが可能なので、問題点をすぐに洗い出すことができるようになり、試作品の精度が非常に高くなりました。試作品の精度が低いと、結局その後検証工程で何度も修正が入ることになり時間がかかってしまう。でも精度の高い試作品ができれば検証は終わったのも同然で、この差はとても大きいのです」
もう一つ大きく変わったのがスピードだ。「腕をもう少し細く」といったことも3D CADで一瞬にしてできてしまい、3Dプリンターで容易に試作品がつくれるようになった。試作までのスピードは格段にアップし、「2~3倍では追いつかないくらいに速くなった」と語る。
「複雑な加工が必要なものは3Dプリンターの方が圧倒的に速くできます。また、商品化の際は金属にした方がよいというものでも、補強をするなどして3Dプリンターでつくっておけば、モックアップとして十分に検証できる。試作品をつくる際に加工などでかなり外注に出していましたが、今ではほとんどなくなりました」





高い技術力をもった医療従事者を送り出すために

近年、医師の技術不足により、さまざまな医療事故が起こり社会問題となっているが、それに対して松岡氏はこう語る。
「学生同士で練習ができる手技はどうしても限られています。そこで必要となるのがシミュレータです。技術が未熟な状態で医療現場に出ることがないように、ぜひ京都科学の製品を使って技術を高めて欲しいと思っています」
松岡氏ら京都科学の開発チームは、日々トライ&エラーを繰り返し、人体モデルを限りなく人へ近づけていく。高い技術力をもった医療従事者を、世に送り出し続けるために──。



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