ロボティクス分野 3Dプリンター活用事例
目の前には、越えなければいけない2つの壁があった。
1つは「軽くする」こと。もう1つは「強さをもっている」こと。この相反することを
実現すべく、3社が集まっていた。株式会社イクシスリサーチ、株式会社くいん
と、丸紅情報システムズ株式会社である。
イクシスリサーチは、建物道路、トンネル、橋、大型タンクなど、社会インフラの点
検用の特殊ロボットを数多く製作する会社。くいんとは、「夢のあるCAEを日本
から」を社是に、計算力学関連のソフトウエアの開発・販売を行い、
「OPTISHAPE-TS」という自動車や重工業関係の企業に好評な構造最適化ソフ
トウエアを有する。
3社がめざしたのは、道路橋脚下にある、点検用通路を自走するロボットの製作。
点検用通路を有線リモートコントロールで自走し、橋の裏側から写真を撮影して
点検作業を安全かつスピーディに行うロボットだ。
問題は、ロボットの搬入方法だった。作業用の細い階段を人の手で抱えて上り下
りをして運ばなければならないために、重量のあるロボットは不可。何よりも軽
さが求められていたのだ。もう1つ、点検用通路は道路から落ちてくるゴミや石
が散乱している。そうした障害物を乗り越えられる「強さ」が求められていた。
軽さと強さ。この相反する2つの要望を実現するには、アルミや鉄鋼を切削加工
する従来のやり方では実現できない。そこで3社が出した答えがDDMだった。
くいんとの月野誠社長はこう語る。
「コンピュータシミュレーションは、最適構造を導き出してくれますが、従来の製
造方法だと中空や型抜きができないといった制約がありました。でも、どんな形
状でも自由に造形できる3Dプリンターなら最適構造をそのまま形にできる。構
造最適化技術との相性がバッチリだと思いました」
イクシスリサーチが、ロボットの基本構造を3D CADで設計。採用したのは「ロッ
カーボギー構造」と呼ばれるもの。障害物を乗り越えるために、惑星探査機など
でも採用されている構造だ。
次に、くいんとが脚に加わると想定される13種類の荷重拘束条件と材料機械物
性値をOPTISHAPE-TSに入力し、不要な部位を取り除いたり、細すぎる部位は
肉盛りにするなどの修正を加え、脚の最適化設計を行った。
最後に丸紅情報システムズがそのデータを受け取り、3Dプリンター「FORTUS
900mc」によって約1週間で生産。使用した材料は、機械的強度と難燃性にすぐ
れたULTEM9085樹脂である。それをイクシスリサーチに渡し、電子部品が組
み込まれてロボットは完成した。片側の前後の脚の合計重量は、目標だった5kg
に対し3.14kg。2kg近くも“減量”することができた。
イクシスリサーチの山崎文敬社長は感慨深そうに語る。
「インフラ点検ロボットは、超少量多品種が求められていて、確実に現場で動作
するロボットを効率的に開発しなければなりません。これまでは、設計者の暗黙
値や経験値に頼っていましたが、それらに頼らなくても作れることが確認できた
今回のプロジェクトの意義は非常に大きかったと思います」
くいんとの月野社長は、「3Dプリンターを使えば、微妙な膨らみやへこみまで、
最適構造をそのまま現物として表現することができる。最適構造は、ときに美し
さすら感じさせてくれます」と語る。
DDMと構造最適化技術のマッチングの良さから、「今後も3社でロボットをどん
どん開発していきたい」と前向きな姿勢だ。ちなみにロボットには名前がつけら
れている。その名を聞くと多くの人が「なるほど」と思うはずだ。
「Arumadilo(アルマジロ)」である。