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新しい設計手法と3Dプリンティングの相性は?掲載日:2017/08/23

3Dプリンティング。近年のブームのおかげで、広く知られ、様々な分野で使われるようになってきた一方で、正しく理解されていなかったり、よくわからなかったり、まだまだ知られていない使い方も可能性もあります。私も日々の仕事で「?」や「!」と思うことがしょっちゅうあります。みなさんもそうかと。

そこで、3Dプリンティングの達人や、これから使おうとされる方にも、3Dプリンティングの「?」や「!」ついて、これからこちらのブログで少しずつお伝えし、また一緒により良い使い方を考えていければと思います。

最近日本国内で製品設計・生産手法として「デライトものづくり」や、「トポロジー最適化」という新しい言葉が広がりつつありますが、今回はそれらと3Dプリンティングとの関係や相性について考えてみますと…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

「デライトものづくり」とは?

2017年7月14日に開催されました、大阪産業技術研究所主催のシンポジウム「想像を超える「驚き」のデザイン」に参加させていただきました。

ここでは、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の11課題の1つである「革新的設計生産技術」プログラムに参画されている大阪産業技術研究所様、パナソニック様などが研究開発の内容や一部の成果を発表されました。

「革新的設計生産技術」プログラムの目標をホームページから下記の通り引用します。

「日本のものづくり産業競争力強化(グローバルトップを獲得)
新たなものづくりスタイルを広く普及と展開すること(地域発のイノベーション実現)
を目標に、日本のものづくりが今後強化すべき領域として、感性や潜在価値を含めたものづくりと従来のものづくりの強みである性能・品質を更に向上させる複雑・迅速造形、高性能・新機能によって実現するデライトものづくりに取り組んで行きます。」

ここでの「デライトものづくり」という新しいキーワードはまだ聞き慣れない方も多いと思います。今回のシンポジウムでも解説されていましたので、筆者なりに理解したことをお伝えします。

「デライト」とは英語で「喜び」とか「楽しみ」の意味ですが、これまでの「商品価値」は「性能・品質・コスト」というような数値で表しやすい「モノ視点」で作られ、評価されてきたものが多いのですが、「使う人が喜びや驚き」をどれだけ感じるかという「ヒト視点」の評価と価値が高い商品を設計、製造することを「デライトものづくり」と理解しています。

ところが、「喜びや驚き」は感覚的なことなので、これを数値やカタチと関連付けることが難しいのですが、それを解決するための設計・評価・製造のための理論、ソフトウエア、作り方が研究開発され、今後広く使われることを目指されています。

「トポロジー・形状最適化」とは?

上記シンポジウムにて大阪産業技術研究所 研究員の赤井様から講演があり、最近注目されている「トポロジー最適化」についても紹介したいと思います。

トポロジーはまたまた横文字で、「位相幾何学」という和訳が使われていますが、ますますわかりにくいので、ここでの「トポロジー最適化」とは、モノに加わる力に対して、許される制限の中でより少ない材料で期待性能を発揮する最適なカタチを求めるための一つの方法と言えます。

ところが、カタチや加わる力と制限が複雑だと、「最適なカタチ」をヒトの頭で考えることはかなりの知識と経験を必要とするため、数学とコンピュータ解析により、性能に影響が少ない部分の「肉」を抜いて最適な穴の位置、数、カタチを求めるソフトウエアが多数商品化されているので、ここではそれらを使って設計することを「トポロジー・形状最適化」とお考えください。

 

 

トポロジー最適化と3Dプリンティング

筆者は2012年ころからStratasys社プリンターで樹脂製の実機能部品をトポロジー最適化で設計し、実際に作って使えるかの実証実験をいくつか行ってきました。

なぜかというと、理論上最適なトポロジー形状は、複雑すぎることでそのままカタチにすることが難しい場合がありますが、3Dプリンティングであれば作れることが多く、同時に3Dプリンティングの材料や時間も節約でき、利点が多いと考えているためです。

以下に例を挙げます。

 

・3Dプリンター台座

30kg弱のStratasys社mojoの台座で、重量静荷重と、プリンターが動くことによる揺れ、ねじれ荷重により、株式会社くいんと様のご協力によりOptishapeTSでトポロジー・形状最適化。そのメッシュモデルをそのままSTL化してFortus900mcとULTEM9085樹脂にて造形。

 

・インフラ点検ロボットの脚

株式会社イクシスリサーチ様のご協力で、橋などの点検通路の石などを乗り越えて裏側の状態を撮影するインフラ点検ロボットの軽量化を狙い、ロッカーボギー構造と呼ばれる脚を、株式会社くいんと様のOptishapeTSで13種の荷重拘束条件からトポロジー・形状最適化。そのメッシュモデルをそのままSTL化してFortus900mcとULTEM9085樹脂にて造形。目標重量を下回り、実際に機能することを確認。

 

・小型ドローン機体

3ローターの高速小型ドローンの機体を、アルテアエンジニアリング株式会社様のご協力によりsolidThinking Inspireでトポロジー・構造最適化。ポリNURBS機能で滑らかなソリッドモデルを生成、Fortus450mcとNylon12CF樹脂で造形。実際に飛行させ、飛行性能や衝突耐久性が高いことを検証。

その他にも、Fusion360Hiramekiworksといった、トポロジー最適化機能を持ったソフトウエアが続々と市販されており、今後それらを使った設計と3Dプリンティングによる実用部品製造を試していきたいと思います。

【参考セミナー情報】

Hiramekiworksを開発販売されている株式会社構造計画研究所様が9月に東京、名古屋、大阪で「最高にわかりやすい構造最適化活用講座」を開催されます。筆者も3Dプリンティングとの連携につき講演させていただく予定です。

日時、場所、詳細、お申し込みは下記をご覧ください。

http://www.sbd.jp/news/post_3.shtml

「デライトものづくり」と「3Dプリンティング」は相性が良い

前述のSIP「革新的設計生産技術」プログラムの研究テーマの中には、金属、樹脂、ゴム、セラミック、ゲルなど、様々な材料を積層造形する装置、材料研究開発テーマが含まれています。この背景には「デライトものづくり」を実現するためには、従来にない設計・開発・生産手法が必要となり、3Dプリンティングが適するケースが数多くあるためです。

もちろん、現在市販されていない3Dプリンターや材料の研究開発もありますが、市販されている3Dプリンターや材料も「デライトものづくり」に貢献すると考えています。

例えば、手に持った感じ、重さ、音、振動など、ヒトの感性や心理に関わる性能を、新しい設計手法でカタチにしたとしても、実際に作って官能試験をすることで「デライトかどうか」を評価する必要があり、そのテストモデルは3Dプリンターで速く作ることが商品開発には重要です。

また、「デライトなカタチ」は、ヒトそれぞれで異なることが多く、そのような「1個ずつ異なるカタチ」の商品または部品を作るには、3Dプリンティングが適します。

筆者の個人的な感性かもしれませんが、トポロジー最適化されたカタチや出来たモノを見ると「美しい」と思うことがよくあります。構造的に適した形は、自然の木や動物の骨に似ていることも多く、それは見た目にもデライトなのかもしれません。

そのようなことから、デライト設計やトポロジー最適化というような新しい設計手法と3Dプリンティングは相性がよく、両方を使いこなすことが成功のカギになると考えています。

みなさんも、今後の「デライトものづくり」に注目していただき、それぞれの商品開発に生かすことを検討されてはいかがでしょうか?

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