丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。
formnextは、2015年に前身のEuromold展示会から分かれる形で毎年11月にドイツ フランクフルトメッセで開催される、アディティブマニュファクチャリング(3Dプリンティング)に関する国際的展示会およびカンファレンスです。今年は2018年11月13日~11月16日で開催されました。Stratasys、DesktopMetal社含め632団体が出展したとのことで、昨年の488団体より拡大しています。来場者は26,919名、49%は海外32か国からとのことで、世界的な注目度の高さも伺えます。今年の会場は比較として東京ビッグサイトの東1+2+3ホールより大きい会場でしたが、来年は既にスペースを広げるため別の2ホールへ移すことが発表されました。来年は11月19日~22日の開催です。
公式ウエブサイトはこちらです。https://www.mesago.de/en/formnext/For_exhibitors/Welcome/index.htm
行った日は曇りか雨、時々晴れの天気でしたが、例年に比べると暖かく、助かりました。
見た展示をいくつか紹介します。
まずStratasysブース。
下は今回発表された、FDM F123用新材料「TPU92A」(熱可塑性ポリウレタン)のサンプルです。柔らかく、手でねじっても容易に引き裂けないほどの強さを持つ樹脂で、ゴムや軟質ダクト、グロメットなどの試作や、クッションやカバーの実用部品などに使えそうです。
同じく発表された、Polyjet新材料「Agilus30 White」。これまで半透明と黒しかなかったので、白や、他のカラー硬質樹脂とのかけ合わせでJ750によるカラー造形なども出来ます。
以前にもこちらでご紹介した、ドイツSiemens Mobility社の路面電車の修理交換部品。下は椅子の手すりの一部。法規で難燃性が求められるので、FDM ULTEM9085で造形、独自開発の仕上げ処理後難燃塗料による塗装をしているそうです。
炭素繊維複合強化樹脂 FDM Nylon12CFで作られた、自動車製造現場で使われる治工具が多く展示されていました。下はリーフスプリングUボルトを組み付ける補助具です。どちらも機能と軽量を両立した設計が参考になります。
アメリカの生産設備設計製造会社が自動車メーカー向けに作られたものの一例で、英語のみですが先日公開された動画をご参照ください。
Desktop Metal社のブースでは、Studio+によるロボットグリッパーの爪の用途例がありました。微細形状もきれいに出来ている印象でした。
筆者は4年続けて見学調査に行っていますが、過去からの変化も含めて感じたことは次の通りです。
・欧米の3Dプリンティング産業はますます成長拡大していて、特に金属関連の成長は著しく、既に一般の実用品加工法のひとつとして認知されている。
・金属、樹脂とも多量生産、省人自動化のための新造形技術、新プリンターや周辺装置の提案が増えた。
・3Dプリントの前後の工程で必要なソフトウエア、ハードウエアの新製品、新規参入企業が増えている。
・日本からの見学来場者、出展者は2014年のブームの後は減ったが、また年々増える傾向が見られた。
日本でも3Dプリンティング産業は過熱ブームの後の一時の落ち込みから回復、これからも成長するという見方が多いですが、それでも産業規模や活用範囲は欧米と比べて小さく、むしろ格差は広がっているように感じます。例えば今年6月に投稿ビッグサイトで開催されたDMSで「3Dプリンター」で検索してヒットした出展ブースは54で、単純比較はできませんが、formnextの10分の1です。
どうして欧米と日本で違うのかについて、今回もいろいろな人から聞いたことから、次のように考えました。
もちろん欧米でも個々に違うとは思いますが、全体的な傾向として、
①まず3Dプリンティングに関する多くの情報、教育機会から3Dプリンティングの利点や可能性を学び、「何を作りたいか」のアイデアやニーズが先に考える。
↓
②それに適したプリンターや材料を多くの選択肢から選ぶ。
↓
③そのプリンターや材料だけで要求が満たせなくても、他部品・材料との組み合わせや2次加工、また個々ではなく多数と共同で調査研究したりして解決し、100点でなくとも使える範囲で使う。
↓
④その経験知識からまた次の「何を作りたいか」を考える。
このサイクルがぐるぐる回る「好循環」が起きているのだと思います。図にしてみるとこのような感じです。
ここでの「何を作りたいか」は、例えば既存部品の性能、コスト、スピードを「カイゼン」レベルではなく「何倍か」にするための設計と、それを製造するための作り方というものです。例として今回展示されていたBugatti社のブレーキキャリパーなどが挙げられます。
アイデアやニーズが増えるから、それに応えるプリンター装置や材料が増え、それらを補う周辺機器が増えることで用途が広がり、また新たなニーズが増えるといった循環です。もちろんこれには、「情報と教育」が重要であると多くの方が仰っていました。
逆に日本で見られる傾向は、
①まず3Dプリンターや材料の性能やコストを詳細まで調べ、他の既存工法や同類のプリンターとの比較をする。
↓
②「何を作りたいか」があいまいなまま比較的良さそうなプリンターを試しに使ってみるが、なかなか使い道が見つからず、見つかっても買った装置と材料が適さないものだったり、また3Dプリンターだけで要求が満たせないと実現しなかったり、諦めたりする。
↓
③そこで、プリンターや材料の性能やコストが良くなるまで待つ、または同業他社の成功例が出るまで待つことにし、様子を見る。
このような循環ではニーズそのものが増えないので、プリンター、材料、周辺機器の参入も増えず選択肢も増えないので、ますます活用が難しくなるという悪循環が起きているように見えます。
もちろん国際競争力の高い日本の製造企業は多いですし、3Dプリンティングの活用だけが競争力につながるわけではありませんが、欧米と中国他アジアの3Dプリンティング活用先進国との差をこのまま見過ごして良いとは言えないほどの「差」になっていると、今回改めて感じました。
日本から初めて来場された方に何人か伺いましたが、ほとんどの方が「来て実際に見て良かった」とのことでした。つまり、欧米でも重要でまだ足りないと言われる情報と教育が日本では圧倒的に足りないことの証でもあると思います。筆者個人も、弊社としても、尚一層情報提供の努力をしていきますので、3Dプリンティングについて知りたいことがあれば遠慮なくお問い合わせを頂くと同時に、来年のformnextの見学をご検討頂くこともお勧めします。
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