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ドイツの3Dプリンティング事情とは?掲載日:2019/09/17

先日ドイツの3Dプリンティング研究機関の方が東京で開催されたイベントに参加してきました。そこではドイツの3Dプリンティング事情の「過去-現在-未来」を一部分ではありますが知ることが出来ました。また日本と違う、または同じところもありましたが、それは何かというと...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

ドイツ「ACAM」とは?

先週は台風が関東地方に上陸し、夜中だったのでわからなかったのですが、筆者の自宅のほぼ真上を目が通過したようで、道の標識が変な方向を向いたりしていて、朝になって風の強さに驚かされました。まだ復旧されていない地域もあり、停電含め被害にあわれた方々には謹んでお見舞い申し上げます。

さて、先週ドイツの「ACAM」が東京で初めて開催した情報交換イベントに参加し、3Dプリンティング事情を直接ドイツから来られた方から伺う機会を得ましたので、今回はそれについてお伝えします。

ACAM
https://acam.rwth-campus.com/

ドイツ アーヘン工科大学内にありAdditive manufacturing(3D プリンティング)に関するプラットフォームとして研究開発、コンサルティング、教育などを提供しており、ドイツ、欧州、日本含めた国際的な企業のメンバーによる資金で2015年に設立、自主運営されている組織です。
アーヘン工科大学Melatenキャンパス内に延べ3000平米の研究スペースがあり、100名以上の研究者、25台の金属と15台の樹脂3Dプリンターを保有し、年間運営予算は1600万€(約19億円)。2018年は7つ、2019年は6つの研究プロジェクトがあり、テーマは工法、材料、ソフトウエアから品質管理、ビジネス機会まで多岐にわたっています。年1回のメンバーミーティング、毎日3Dプリンティング関連のニュース配信、用途や特許を見つけるためのデータベース、またメンバー外にも有償でAM基本教育、個別導入活用コンサルなども提供しているそうです。

ここまで聞いただけで、日本にはそのような機関は筆者の知る限りは無く、一般に言われるドイツと日本の「格差」は縮まるどころか拡がっているとも感じられます。

一方、3Dプリンティングについての理解、現状の課題、目指すところなどを伺うと、我々と同じところが多いことも分かりました。例えば、

・3Dプリンティングは同じ形で作る数が少ない、またはほかの工法で作りにくい複雑な形のモノ、一言で言えば「相応の価値」を生むモノを作るべき。

・3Dプリンティングが活用され、成長できる産業分野は航空宇宙、医療(歯科含む)、エネルギー関連、マスカスタマイズ関連である。市販自動車の部品には価格、性能、生産能力の面からも当面は向かない。

・3Dプリンティングはまだまだ未成熟の技術で、課題の例として材料価格が高い、素材と形状を同時に作る複雑さ、形状の複雑さによる後計測の難しさ、繰り返し加工の安定性が不十分などがある。

・3Dプリンティングに適した設計(DfAM)は最も重要で、それには目的に特化した解析、シミュレーションソフトウエアの活用が必要。更に3Dプリンティング以外の工法との「ハイブリッド」も重要。

などが挙げられます。

一方日本とドイツの違いとして、例えば日本では「3Dプリンティングで出来ることは分かるが、何をどうやって設計すればよいのかわからないので、そもそも設計者の意欲が沸かない」という課題があり、それはドイツでもあるとのことですが、日本では企業の部署、または企業単独で抱えてしまう「自前主義」の傾向がある一方、ドイツでは同じ課題を持つ企業が共同で協力して解決に取り組んでいるという点が挙げられました。文化とか気持ち(ドイツの方はマインドセットと仰っていました)の問題も絡み、これはもちろん簡単なことではないのですが、日本でも出来ないことではなく、見習うべき点ではないかと思いました。

もう一つ現状違う点として話し合われたことは、3Dプリンティングの活用分野についてでした。例えば、3Dプリンティングが使われている分野全体を10とした場合、日本では「研究開発分野」と「製造分野」の比率が、9:1ぐらいではないかとの見方が示され、それがドイツでは7:3ぐらいになってきているのではないかとのことでした。確かに筆者の感覚とも近い感じで、現状の3Dプリンティングは製造治工具や成形型(最適冷却水管金型含む)に使われる欧米の事例が最近増えており、投資対効果が出やすい分野である証だと見られ、そこも日本でも見習い、できることだと感じました。

「formnext」に行ってみませんか?

読者の中にも参加された方がおられるのではないかと思いますが、実は同じ日の午後に同じ場所で「フォームネクスト フォーラム 東京」というイベントが開催されました。

formnextとは毎年1回ドイツ フランクフルトメッセで開催される3Dプリンティング専門展示会で、このコラムでも何度かご紹介してきた通り、筆者もその前身のEuromoldのころから続けて訪問しています。

formnext2019ホームページ http://formnext2019.com/

今年も11月19-22日で開催されますが、より多くの日本の方に来ていただきたいとのことで、メッセフランクフルト ジャパン株式会社様が初めて開催されたイベントでした。

やはりその中でもドイツから来られた方が仰っていましたが、この展示会のテーマは「Connecting Bright Minds」、つまり単なる情報発信収集の場ではなく、前向きな気持ち、知識とアイデアを持った人たちが「つながる」場であり、つながることで新しいアイデア、ビジネスを生むということでした。

イベント会場でいくつかの3Dプリンティング関連企業による講演とブース展示があり、そこでも多くの初めて、旧知、また久しぶりの方々とつながることが出来たのですが、そのなかで先に述べた3Dプリンティングの製造分野での活用でとても参考になる事例がありましたので、紹介したいと思います。

それはオランダに本社を置くAdditive Industries社のユーザーである食品メーカーがパンの生地を切る自動機械のカッターに3Dプリンティングを活用された事例です。

写真の左が従来の工具で、プレスや切削の金属部品をボルトナットで組み立てて作られていましたが、金属3Dプリンティングで作ることを前提に、右のようなトポロジー最適形状にしたことに加え、中央にばね(曲がって見える部品)機構も組み込み、一体化、軽量化したそうです。そこまでは他の事例でも見られるのですが、「すごいアイデアだ!」と驚いたのは、先端のナイフでした。

パンの生地を触ったことがある方はとても手にくっつきやすいことをご存知かと思います。同じくナイフにもくっつきやすかったそうですが、金属粉末をレーザーで焼結積層する工法では、わざと小さな通孔空洞をもつ「ポーラス」構造を作ることが出来るので、それはこれまでも金型のガス抜きに使われた例がありますが、それをナイフに使うことで刃の表面から空気を出しながら切れる構造にしたことで、くっつきにくくしたそうです。

このようなアイデアは、3Dプリンティングの原理、特徴を知ってそれを活かす設計に織り込む、DfAMの好例だと思います。

今年のformnextではこのような活用事例を紹介するコーナーやセミナーが設けられるなどに加え、特に日本からの来場者向けのイベントも用意されるとのことで、詳しくは主催者からの発表をお待ちいただきたいのですが、もちろんStratasys社、DesktopMetal社もブース出展しますし、特にドイツ中心の欧米の最新情報、活用事例を実際に見て、聞いて知るだけでなく、多くの方と「つながれる」貴重な機会ですので、ご参加を検討されることをお勧めします!

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