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BMW社から学ぶAM製造導入と活用のポイントは?掲載日:2020/07/01

世界の経済においても新型コロナウイルスによる後ろ向きな話題が多い中、先月末にドイツの自動車メーカーBMW社が約2年の年月と約18億円をかけて作ったAdditive Manufacturing Campusを開所したニュースがありました。そこから学ぶAM製造導入と活用のポイントは...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

BMW社Additive Manufacturing Campusが開所されました

新型コロナウイルス対策は「感染予防の上、活動をしながら」という段階になっており、いろいろなことが再開されてきました。筆者も当面在宅勤務しながら、必要な場合に限り出社やお客様訪問を始めました。先週オフィスに出社したら、ドアに先回のコラムでお伝えしたドアハンドルが実際に使われていました。

これはStratasys Fortus(FDM)でPC(ポリカーボネート)材料により作られ、研磨などの仕上げなしで使われています。役立っていてよかった半面、無くせる日はいつになるだろうと複雑な気持ちでした。

さて、世界の経済においても新型コロナウイルスによる後ろ向きな話題が多い中、ドイツの自動車メーカーBMW社が先月6月25日付プレスリリースで、約2年の年月と1,500万ユーロ(約18億円)をかけてミュンヘンの北のオーバーシュライスハイムに作ったAdditive Manufacturing(AM) Campusを開所したことを発表しました。写真や動画も多数公開されていて、内部の設備を見ることが出来ます。

プレスリリースサイト(英文)
https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0309872EN?language=en

動画例(22分33秒)
https://youtu.be/4Q4on8vxApQ

下はその動画のスクリーンショットですが、BMW社が出資しているDesktopMetal社のStudioシステムも10分50秒くらいから映っています。

これは本コラムでもこちらで触れていますが、2018年4月のAMUGカンファレンスでのBMW社の方の講演で計画を知りました。2019年に開所予定が少し遅れてとなりましたが、このような状況下でも開所したのは、短期景況に左右されず長期の視点でAM活用を他社に先んじて積極的に推進していくという、BMW社の意思の表れではないかと勝手に考えています。

このニュース自体「すごい」と思わせるものですが、「BMW社だから出来ること」と、他人事と捉えてしまうのはもったいないと思っています。プレスリリースに記された関係者の挨拶や文書から、BMW社が何の利益のためにこれほどの投資をしてAM製造を導入活用しようとしているのかを読み解くことで、日本の製造企業にも参考になることがあると思い、私見によるポイントを以下にお伝えします。

まず分かることは、金属も樹脂も複数AM工法、同じ工法でも複数メーカーのシステムを1か所に集めていることです。仕様や目的により適した工法と材料の選択肢を広げたり、異種を組み合わせることが活用には重要で、かつ1か所に集めることで運用効率が良いだけでなく、人の技能経験獲得も早まります。

BMW社から学ぶAM製造導入と活用のポイント

プレスリリース全文は長いので、要所を和訳して参考になるポイントだけを示します。

まず施設の概要は下記の通りです。

「昨年BMWグループは300,000個の部品をAMで製造しました。Additive Manufacturing Campusには最多80名の社員がおり、金属、樹脂の工業用3Dプリントシステムを約50台稼働させています。その他に全世界の製造拠点で50台の金属、樹脂3Dプリンターが稼働しています。」

確かに自動車メーカーとしておそらく世界最大規模だと思いますし、すごいのですが、同社の企業規模からすれば、非常に限られた部品の生産にしか使われていないとも言えます。ただし研究開発拠点だけではなく、製造拠点で広くAMを活用していることがわかります。

BMW AG社生産部門取締役 Milan Nedeljković氏の開所式での挨拶
「現在既にAMは我々の全世界的な生産システムの一部に組み込まれており、我々のデジタル化戦略の中で確立されています。将来このような新技術は生産時間をさらに短縮し、型レス製造の可能性から得られるもの以上の利益をもたらすでしょう。」

ここで分かることは、生産部門の経営トップがAMを理解し、活用する狙いを明確にされていることです。更に、単に製造工法だけをAMに置き換えるのではなく、生産システムのデジタル化の一部として組み込んでいること、また、狙いは部品製造のコストダウンなどではなく「生産時間」という価値と、一般にAMから得られると言われる「型レス製造」による利益を「上回る」利益(ここでは何かは行っていませんが)を狙いとしていることです。

BMW Group 製造統合とパイロットプラント担当上級副社長 Daniel Schäfer氏の言葉
「我々のゴールは自動車生産のために3Dプリンティングの工業化をさらに進めることであり、そしてプロセスチェーンにおける新しい自動化コンセプトを実現することです。このことが、コンポーネント製造工程の工程を直線的にし、開発速度を速めることを可能にします。それと同時に、車両開発、コンポーネント製造、調達部門とサプライヤーとのネットワーク、また社内のあらゆる部門と、この技術をシステマチックに組み入れ、効率的に利用するために協力しています。」

ここでのポイントは3つ。AMの製造での活用の狙いは、
①部品単位のカイゼンではなく、生産工程全体の自動化を実現すること
②コンポーネント(パーツとモジュール含む)製造の工程をシンプルにし、かつ開発速度を高めること
③AM技術を生産プロセス全体に組み入れるためには、製造だけでなく開発から購買、サプライヤーとも協力すること、一過性ではなく計画的にシステムとして進めることが必要

これは海外でも国内でも、AMの活用に成功し、利益を得ている企業や組織に共通した狙いと方法であり、また自動車製造が、これまでの多数の単部品をラインで組み立てる方法から、大きなモジュール単位で作ったものを組み立てるという大きな変化に対応する方法の一つとしてデジタル化とAMを使おうとしていると見られます。

Additive Manufacturing Campus責任者 Jens Ertel氏の言葉
「30年以上前から、そしてこれからもBMWグループはAMの実践的な技能を開発してきており、それらは我々が最新の装置と技術を有する新キャンパスによりこれからも進化させるものです。加えて、我々は形態の柔軟さと高機能により、従来より速い製造のためのコンポーネントの開発と設計を行います。」
「我々は、初期製品コンセプトから量産、アフターサービス。クラシックカーでの利用含むプロダクトライフサイクル全てにおいてAM技術を成熟させ、AMからの利益を最大限得るために懸命に仕事をし続けています。」

AMもものづくりの工法技術として理解し、使いこなす技能を得るには、既存工法と同様にある程度の年月が必要であったことがわかり、BMW社はそれを予測して早く取り組み始めたとも考えられます。一方「今からAM活用研究を始めたら30年かかるのか?」というと、そうではないと思います。現在はツール、情報、教育、工業規格など、考える→作る→整える→評価する のそれぞれに必要なものが多量にあり、先駆者から多くを学ぶことが出来るからです。また、自動車という製品のライフサイクル全体で活用することで、AMからの利益を最大に得られるとの考えも読み取れます。

その他、BMW社は自社内だけでAM製造導入と活用を進めてきたのではなく、多数の産学官共同のプロジェクトに参加していることが書かれており、社外リソースの活用も人材育成や推進スピードアップに重要だと考えます。

「AM技術の実用を成功裏に進めるには、AMの利点と特徴を完全に理解し、良く訓練された社員が社内ネットワーク全体に必要です。AM技術を使うには新しい思考回路と、これから使われるコンポーネントを考案する全く新しいアプローチに設計者が適応する必要があるでしょう。3Dプリンティングはほぼあらゆる形を製造出来、新しい設計と機能への道を開きます。最近では、AMだけが製造出来る数えきれないコンポーネントがあります。」

ここでも人材と教育が個別部署ではなく社内横断的に必要なことがわかります。またコンポーネントを現状の延長ではなく、新しい形と機能で考える「人の変化」のためのAM技術であり、「AMありき」ではないことも大事なポイントです。

最後にBMW グループが自動車実用部品にAM製造を使ってきた歴史について述べています。1991年にコンセプトカーの試作品製造を始めて以降、2010年までに樹脂、金属のAM製造工程を実用化し、DTMレースカーのウォータポンプホイールなど、初めは少量生産部品を製造し、2012年以降現在まで、Rolls-Royce Phantomや BMW i8 Roadster (2017) の部品、今年発売の MINI John Cooper Works GP (世界で3,000台、日本240台のみ販売)では少なくとも4種の標準部品を製造したとのことです。PR動画を見ると下記の部品がAM製造されています。

メッシュ構造の専用アルミニウム製シフトパドル

シリアルナンバー付き助手席パネル

その他ステアリングホイール最上点を示すセンタークリップがAM製とのことです。

最後にちゃんと製品宣伝を入れていますが、実はこれもBMW社がAMを積極活用する狙いの一つと考えられます。常に新しい技術を商品に活用するイメージだけでなく、特にオーナーが「自分だけの特別なクルマ」を持つ喜びに応えるメーカーであるというブランドバリューを高めるのにも大きな役割を期待していることがうかがえます。

もちろんAM製造導入と活用は会社や組織ごとに正解が異なるのがAM、3Dプリンティングの特徴でもありますが、BMW社のこれまでとこれからの取り組みと考え方は「王道」と見ても良く、学ぶところは多いと思います。日本の皆さんも参考にされてはいかがでしょうか?

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