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3Dプリント品の寸法精度をきめる3つの要素とは?掲載日:2021/05/11

3Dプリンターについての質問で最も多く、かつ答えが難しいのが「寸法精度」であり、3Dプリンターの性能指標にも使われ、3Dプリンターの改良課題のひとつでもあります。ただし、3Dプリンターの寸法精度を決める要素には大きく分けて3つあり、それを理解することが大事です。その3つの要素とは...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

そもそも「寸法精度」とは?

ゴールデンウィークは昨年に続き今年もこれまでとは違う連休でした。いつもなら出来たのに今年は出来なかったことを挙げればきりがありませんが、見方や考え方によっては出来たことも多く、筆者と同じく有意義な連休だった方もいらっしゃるのではと思います。

さて、3Dプリンターに限らずものづくりの中でQCD(品質、コスト、時間)は重要な視点で、特に寸法精度について話題になることが多いと思います。3Dプリンターを紹介すると何よりも先に「寸法精度」に焦点があたり、時にはそれだけで優劣が決まってしまうことも、大げさではなくあると思います。

筆者は「寸法精度」について聞かれたときに、特に3Dプリンターの場合、そもそもその「精度」は次の3つのどれを指しているか確認してから話を進めるようにしています。

 

 

 

 

 

 


①解像度(精細度)

どれくらい細かい形状が出来るか?ということです。3Dプリンターは基本的に素材を足していくので、解像度は積層厚だけでなく、樹脂線の太さやレーザースポット径やピクセルサイズなども関係します。

②寸法誤差偏差
モノが出来た時にどのぐらい狙いの寸法からずれるか、ばらつくか?ということです。3Dプリンターは基本的に3D形状データから作るので、それを正として、寸法だけでなく面形状として「どのぐらい違うか」になります。よく誤解があるのですが、①解像度が高いからといって寸法誤差偏差が小さいとは限りません。1個の寸法の誤差が小さいからと言って、多数作ったときのばらつきも小さいとも限りません。

③継時環境寸法変化
モノが出来た時から時間が経ったり、その環境(温度、湿度、紫外線、自重、残留応力など)によってどのくらい寸法が変わるか?ということです。特に3Dプリンターでは忘れてはいけないことで、また変わる仕組みが分かっていれば変化量を少なくできる場合もあります。

3Dプリンターの性能は上記3つを総合的に見ないと評価を誤る恐れがありますが、一般には「寸法精度」と言われるのは①②が組み合わされた「出来た時の1個の」であることが多く、それを決める要素が更に3つあると筆者は考えています。

寸法精度を決める3つの要素

よくご存じの方も多いと思いますが、3Dプリンター以外の加工法では「加工機械の性能」がモノの寸法精度を決める要因として大きいのと、「スイッチポンで完成品が出てくる」というイメージからか、「3Dプリンターという機械」が寸法精度を決めると考えられるケースが多く見受けられるようですが、例えば切削加工機械の精度が高くても刃物やツールパス設計で寸法は変わりますし、金型がどれだけ高精度でも成形条件で寸法は変わるように、3Dプリンターも機械だけでは寸法精度は決まらず、むしろ機械以外の要因の方が大きい工法と考えた方が良いと思います。

そこで筆者は寸法精度を決める大きな要因が3つあると考えています。

①3Dプリンター毎の加工原理と機械の解像度
②設計形状と材料
③加工条件


①3Dプリンター毎の加工原理と機械の解像度
ここで全ては説明が出来ませんが、例えば材料吐出法であれば加工原理として1個のパーツを一定の積層厚さで作るとすれば、Z方向の解像度は積層厚さでほぼ決まります。3Dプリンターの多くはZ方向よりXY方向の方が解像度が高い場合が多いですが、材料噴射法であるStratasys PolyJetのようにZ方向の方が高い場合もあります。もちろん解像度と機械的な位置決め精度が高い方が寸法精度には良いのですが、それよりも以下2つの要因の方が寸法精度には影響度が大きいケースが多く見られます。

②設計形状と材料
これも要素が複雑に関係するので短く説明することは難しいのですが、例としてStratasys FDM Fシリーズの場合で説明します。まA:10×10×10mmの立方体を設計し、プリソフトウエアのGrabcadPrintで開いて積層厚さ0.254mmを選んでスライスデータを作ると下の画像のようになります。

 

 

 

 

 


レイヤー(積層)層数=50で、サポート部=10層なのでパーツは40層で作られますが、パーツの理論上Z方向厚さは0.254mm×40=10.16mm(CAD寸法+0.16㎜)となります。
次にB:12.7mm×10×10mmの部品の場合は、パーツは50層で作られ、パーツの理論上Z方向厚さ0.254mm×50=12.70mm(CAD寸法±0㎜)となります。Aを積層厚さ0.127mmで作ればZ=10.033mmとなります。
つまり、3Dプリンターの解像度、位置決め精度が同じであっても、設計形状寸法により寸法誤差が変わる例です。(注:インチ基準のプリンターがメートル基準より寸法精度が劣るという意味ではありません)

これに加え、樹脂材料毎に硬化収縮率が異なり、例えば一般にABSやASAのような非晶性よりナイロンのような結晶性の方が収縮率が大きく、どの材料を使うか、またこれらをプリンター側でどう補正しているかによっても寸法精度が異なります。言うまでもなく、この他にも肉厚や形状、サポートの付き方によっても収縮量と向きが変わり、3Dプリンター機械精度よりこの変位の方が一般に大きく、これは樹脂も金属も同じ傾向です。

③加工条件
例えば、プリンターの庫内温度や造形後の冷却条件によっても寸法誤差は変わります。また例えばDesktop MetalのBMD(材料吐出法プリンター)やバインダージェッティング法のように、プリントしたものを別装置で脱脂焼結するような工法では、その加工条件によっても寸法誤差は変わります。樹脂でも2次加熱・硬化を要する工法も同じです。

このように寸法精度には様々な要素が複雑に関係していますが、工学的、科学的に各要素を見れば全く理解できない話ではありません。また寸法精度は装置自体より、このコラムでも何度か触れている「DfAM」による設計も含めた形状設計と条件設計が決めると言っても過言ではありません。

寸法精度とプリンターの実用性

寸法精度について、特に3Dプリンターならではの考え方があることを少しでもお分かりいただければ嬉しいのですが、加えて寸法精度とプリンターの実用性の関係についても触れておきます。

例として、同じ3次元形状データからAとBの異なる樹脂3Dプリンターで10個作り、CAD上10.0mmの厚さの同じ場所を測定した結果が下表のようになったとします(単位mm 実際のデータではありません)。

n 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 標準偏差 平均値
A 10.20 10.25 10.30 10.15 10.20 10.10 10.25 10.30 10.15 10.10 0.0745 10.20
B 10.10 10.00 9.80 9.90 10.20 10.10 10.00 10.20 9.90 9.80 0.1490 10.00

平均値だけを見るとプリンターAの方がBより精度が悪いと言えますが、実用性もAの方が悪いと言えるでしょうか?

Aの場合、欲しい寸法10.0mmに対して全てプラスになっており、もし10.0mmが必要な場合は削って修正できますが、Bのようにマイナスになってしまうモノが出来ると肉盛りは難しく、速く簡単に修正することが出来ません。

もう一つは標準偏差の値はAの方がBより小さく、これからAの方が寸法誤差のばらつきが小さく、1つの部品内の寸法、または似た部品を多数作る場合の寸法のばらつきが小さい方が安定した造形が出来、その方が実用的な場合があります。

加えて、3Dプリンターの場合、プリンター側で収縮補正率をXYZそれぞれで変更できる、もしくは3次元データ形状をXYZ異なる率で拡大収縮が容易にできるので、傾向が把握できれば上記の寸法誤差範囲を小さくすることもできます。それは3Dプリンターの良いところでもあり。型成形ではそのトライアンドエラーをするには型を修正加工しなければならず、速く簡単に行うことが難しいことはご想像いただけると思います。

寸法精度と別に造形時間の点で、もしAがBより積層厚が厚いことで半分の時間で造形できたとすれば、使う目的によってはAの方が実用的とも言えます。

3Dプリンターの寸法精度というのは使う人、使い道によって求めることや良い悪いが変わってきますし、3Dプリンター装置としての平均寸法の精度が悪かったとしても形状や条件を変えれば良くなったり、見方によっては実用的だったりもするということをお伝えしました。ご参考にしていただければ幸いです。

新製品発売のお知らせ

丸紅情報システムズ株式会社は、2021年5月10日に、ストラタシス社製のシステム価格・材料コストを抑えながら大型モデル造形を実現したFDM方式3Dプリンター「F770™」の発売についてこちらのプレスリリースで発表致しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

詳しくはこちらの製品紹介ウエブページをご覧ください。

今後も新しい様々な3Dプリンターが発売されると思いますが、使う目的、作るモノから寸法精度のどの要素が重要なのか、装置だけでなく設計や条件でどのように調整できるのか、寸法精度とプリンターの実用性の関係、などの見方で評価選定されることをお勧めします。

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