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3Dプリンティングは「マーケットアウト」に有効?掲載日:2021/09/01

製品企画・開発やマーケティングで使われる考え方として「プロダクトアウト」「マーケットイン」があり、ご存じの方も多いと思います。3Dプリンティングはどちらにも役立ちますが、それより大きな利益につながるのは、「マーケットアウト」(筆者造語)に使うことではないかと。どういうことかというと...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

最近の「残念な」と「うれしい」ニュース

8月も終わりましたが今年の夏も昨年以上に「異例」ばかりで、これまでの当たり前や普通がこれからも通じなくなってしまうのではという感覚になっていますが、外に出ればセミの声はジージー、ミンミンからツクツクボーシに変わっていて、当たり前に秋は近づいているようです。

3Dプリンティング関連では、海外ではオフラインやオンオフ併用のカンファレンスや展示会開催の情報が届く一方、今年も3チームを協賛支援した「第 19 回 学生フォーミュラ日本大会 2021」の車検/動的審査現地開催中止や、国内では予定されていたオフラインイベントの中止など残念なお知らせもあり、また海外との情報格差が広がってしまう心配もしていますが、筆者はオンラインニュースやオンラインイベントを通じてなんとか取り残されないようにはしていて、最近もうれしいニュースに喜んだり、勉強したことからあれこれ考えたりしています。

最近のうれしいニュースをいくつかご紹介します。「みんなのロケットパートナーズ」パートナーとしてストラタシス社、丸紅株式会社も参加している、インターステラテクノロジズ株式会社の、国内民間で唯一宇宙空間に到達している「MOMO(モモ)」シリーズロケットが2機連続、3度目の宇宙到達を達成したことです。同社は3Dプリンティングによる実用部品設計製造も積極的に行われていて、筆者も展示会で下の写真の活用例を拝見しました。

もうひとつは、研究開発試作に3Dプリンティングを活用され、弊社のこちらのお客様事例でご紹介しましたasEars(アズイヤーズ)様のFacebookでの投稿で「ついに、片耳難聴の聴覚をサポートする眼鏡型デバイスasEarsの日常生活で着用できるくらいのプロトタイプができました!右耳難聴である僕自身が今日1日つけていますが、聞こえない方の耳に囁かれても声が聞きとれてとても感動しました!(中略)今年中開始予定のユーザーテストに向け、僕以外の人も着用できるように開発を進めています!」とのことでした。

これらのように、日本の特に若い世代の方が普通でない状況でも着実に歩を前に進められていることはすばらしく、出来る限り応援していきたいと思います。

プロダクトアウトとマーケットイン

さて、先日あるオンライン交流会に参加した時に、ご参加の方から「プロダクトアウトからマーケットインへ」という話題がありました。製品企画・開発やマーケティングで使われる考え方としてご存じの方も多いと思いますが、プロダクトアウトは自社の技術や自社が良いとするモノを基に製品開発を行うこと、マーケットインは市場やお客様が欲しい、買いたいものを基に行うことと理解しています。2つは相反するものではないとか、それぞれに長短があるなどネット上にも様々な情報があります。3Dプリンティングはプロダクトアウトのための現物試作評価を速く行うことや、マーケットインのためのリアルなモックアップによって需要を速く把握するなど、どちらにも役立ちますが、3Dプリンティングの市場が日本より大きいとされる海外地域での成功例を見ますと、上記2つとは異なる製品開発の考え方があり、それに活用しているユーザーが多いのではと考えました。

「マーケットアウト」に3Dプリンティングを使う

3つ目の製品開発の考え方を表す用語が見つからなかったので、筆者が勝手に「マーケットアウト」という造語を考えました。「マーケットイン」は、既にある、または調査するとわかる「需要や市場」を対象にしているとすると、それによる製品は売れる確率は高いかもしれませんが、競合や追従企業もわかるマーケットなのですぐ追いつかれたり競争が激しくなる恐れがあります。一方現在または将来、見えてはいないけれどもあるかもしれない需要や市場、またはその製品によって成り立つシステムやストーリーによる新たな「マーケット」を創出する製品を開発販売することが「マーケットアウト」という造語の意味です。逆に言えばプロダクト自体や技術はそれほど優れていたり「売り」にならなくても良いということです。

そう考えますと、3DプリンターメーカーであるStratasys社も「マーケットアウト」を繰り返してきたことで今の規模になってきたように思います。過去のコラムでもご紹介しましたが、創業者のScott Crump氏は自分の不満解決のために自宅ガレージで最初のFDMプリンターを作り、展示会に出展してみたら想定の20倍の高値で売れ、そこから出資を集めては製品改良開発を繰り返し、無かったマーケットを作ってきました。当初のFDMの装置や材料は技術的にはそれほど飛びぬけてはいなかったと思います。

売る製品開発だけでなく、社内で使う製造用治工具の例でも、どちらかというとモノ自体は特別でもなく、初めから求められていたものでもなく、むしろ作業者からは抵抗があることが多くても、軽く持ちやすく、間違いが少なくなり、改良も修理も簡単で速いというストーリーと共に作業者に提案し、使われ始めたら「良いので他にも使おう」というマーケットが出来てきて普及したことも「マーケットアウト」だったと思います。

その「マーケットアウト」が得意か、受け入れられやすいか、取り組む人や企業が多いかが、国や文化で異なり、日本では比較的少ないことがデジタルエンジニアリングや3Dプリンティングの活用の少なさにつながっているようにも思います。

筆者の試した「マーケットアウト的」な実例を挙げますと、2014年にセグウェイジャパン様のご協力により、セグウェイを公道や歩道でより安全に、周りと調和しやすくするために光るホイールカバーやスマホ・タブレットを装着できるアタッチメントを設計して、FDMで実用できるコンセプトモデルを作って展示会で展示しました。

 

 

 

 

 

 

結果としては7年後の現状でも日本ではセグウェイは限定された場所でしか乗れず、このマーケットは出来ませんでした。それでも電動キックボードも含めパーソナルモビリティーとして需要が高まり、免許や性能装備が条件を満たせば公道走行できる法整備も進んでいるので、これからはマーケットが出来るかもしれません。

前述の民間ロケットもasEarsも、「マーケットアウト」に近いと思いますし、他にも日本国内で似た例はたくさん起きていますが、大中製造企業が「プロダクトアウト」か「マーケットイン」に取り組んでいる間に個人や小企業が「マーケットアウト」を始めてしまって、そちらが伸びてしまうことが、例えば電気自動車でも起こっている気がします。

マーケットアウト型製品開発・製造では、速く開発し、型などの固定投資費は少なくし、どうしても使われてからの改善改良を素早く繰り返すことが必要になることが多いので、デジタルエンジニアリングや3Dプリンティングを使うとより大きなコスト工数削減、利益創出につながると思います。

日本製品の成功例として代表的なソニー ウォークマンも開発ストーリーによると、社内でも「録音機能が無い、大きい、重い」という評価で、基本部品も信頼性を重視して既存製品の流用でプロダクトとしては特に優れておらず、また需要や売れる見込みも社内評価もなく、実際発売当初は売れず、その後の地道な宣伝と口コミで売れてマーケットが出来た点でも、「若者と音楽のつながりを増す」「コンセプトを問う」という「マーケットアウト的製品開発」だったのではないかと思います。

参考
ソニーグループウエブサイト Sony History
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-06.html

「マーケットアウト」は造語で、異論反論もあるかと存じますし、3Dプリンティングという道具が先か、アイデアや挑戦しやすい環境が先かの話もありますが、この夏考えたことのひとつとして、参考にしていただければと思います。

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