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AM量産メガネフレームを実際使ってみた!掲載日:2023/07/12

3Dプリンティングでの実製品多量生産は最近よく話題になり、一方で「実例が無い」「実現にはまだ時間がかかる」と聞くことも多いですが、先日とあるきっかけで欧州製の樹脂AMで量産されたメガネフレームを日本でも売っているお店があることを知り、実際思いのほか良かったので使ってみることにしました。それからいろいろわかったことは…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

AM量産メガネフレームを実際使ってみた!

2023年もあっという間に後半に突入しましたが、今年の梅雨も各地で線状降水帯による被害が出たり、逆に真夏のような猛暑になったりと、厳しい天気に困られている方も多いかと思います。天気予報や警報も昔に比べると細かく、精度も高くなっていると感じますが、それでもうまく対応することは難しいことも現実なようです。実際の天気はどうすることも出来ませんが、まずは予報や情報は積極的に知って予め準備できることはしておき、遅れる前に行動していくことがますます大事になっていることは間違いないようです。今回は3Dプリンティングの世界でもそれに近い話題を取り上げたいと思います。

今年の1月に開催された展示会「TCT JAPAN 2023」でのMaterialise社創業者兼CEO Vancraen氏の講演の中で、同社が3Dプリンティングによる樹脂メガネフレームを複数社に対し年間20万個量産されている話は過去のコラムでもお伝えしましたが、なかなか日本国内ではその製品を見たり、国内メガネメーカーでもそのようなことをまだ限定的にしかされていないので、実際に買って使うことはなおさら難しいのですが、先日とあるきっかけで欧州メーカーが樹脂AMで量産しているメガネフレームを日本でも売っているお店があることを知り、訪ねてみました。

下の写真はお店のオーナーの許可を得て撮影した展示の一部です。
img_3D_20230711_03.jpg

これらはスイスやデンマークの複数メーカーが樹脂粉末レーザーPBFプリンターにて量産、普通に市販されているものを、お店のオーナーが数年前の欧州での展示会で見つけ、「これは良い製品と作り方だ」と驚き、メーカーの製造工程も見学され、独自に選んだ製品を輸入、販売されているそうです。写真の比較的太いフレームはPA11(ナイロン11)、細いフレームはPA12(ナイロン12)が主な材料だそうです。そのオーナーに伺ったところ樹脂AM製メガネフレームは次のような良いところがあるそうです。

・特にPA12材料は丈夫なので、細いフレームの新しいデザインが可能になり、とにかくこれまでの樹脂メガネフレームよりとても軽くて良い

・昔から樹脂フレームに多く使われている材料「アセテート」のフレームは、発色が多彩できれい、職人による磨きで良い艶になり、壊れにくく調整もしやすいという利点もたくさんある半面、かけているうちに変形してしまう欠点があるが、PA製だとそのようなことが無く、またしなやかで壊れにくい

・フレームは3Dプリント後研磨、染色で仕上げられ、光沢や艶が無く単色になってしまうが、逆に艶消しで、柔らかい色になることが日本人にも合っていて、これまでと違う良い質感になる

・多くの樹脂フレームでは、テンプル(つる)を折り曲げるための丁番は金属製となっているが、AM製品の中には独特の設計形状により、テンプルをフレームにはめこむだけで、金属丁番とネジを無くし、さらに軽く、かつ丁番に無理な力がかかって外れてもすぐ元に戻せるものもある

・アセテートで作る場合は主原料から削るので、実際に使う材料の割合は少なく、原料の85%は廃棄物となってしまうが、AM製であればそれが非常に少なく、未硬化粉末の98%は再使用される

その他もちろん、ナイロン系やポリエーテルイミド系の樹脂を金型で射出成形したフレームも多数販売されていますが、AMであれば言うまでもなく金型が不要、必要な時に必要なだけ生産したりできるので、デザイン、サイズ、色のバリエーションも増やしやすいですし、オンライン販売にも適しています。

また面白いと思った話として、オーナーは日本人に合うようにパッド(鼻あて)は独自に選んだものをつけるような工夫もされ、知り合いの各地のメガネ店の方に販売を勧めているそうですが、なかなか扱う店が無いとのことです。考えられる理由は、日本の消費者、特に最近の若い方が比較的古いデザインのフレームを好む傾向にあり、現代的なデザインが意外に売れないこと、またマット調な外観は「高級感」が無いと思われてしまい、価格と価値が合わないことがあるようだとのことでした。また欧州ではAM製フレームは売れ行きが良いそうですが、アメリカ、アジアでは売れ行きが悪いそうで、これも消費者の好みや環境に対する意識の違いが影響している可能性があるとのことでした。

オーナーには、こちらから3Dプリンティングの工法や材料の違いや、原料の物性や色の違いなどをお伝えしたりして、マニアックな話で盛り上がって楽しかったのですが、ちょうど筆者も3Dプリンティング製品を普通に使ってみたいと思っていたこともあり、それは別にしても自分のメガネが古くなり、ちょっと見えにくくなっていたこともあるのと、実際にかけてみてデザインと色、なにより軽さがとてもよかったので、正直安くはない買い物でしたが、個人的に1点選んで買いました。どれを選んだか、使ってみてどうだったかは、それぞれにお会いした時にお伝えしますので、ご興味がある方はお尋ねください。

AM量産製造に大事な国際規格が発行

既にご存じの方も多いかと思いますが、AM製造の品質保証規格ISO/ASTM 52920:2023が、2023年7月4日に正式に発行されました。

規格書購入ウエブサイト
https://www.iso.org/standard/76911.html

これがどのような規格なのか、他の規格とどう違うのかについて、とても分かりやすく解説されたSharelab様の記事がありましたので、ご参照ください。
https://news.sharelab.jp/interviews/iso-astm-52920-230705/

この規格の基であるDIN SPEC 17071を含め、過去にこちらのコラムでお伝えしたことがありますが、正式発行されたことはAM量産製造の活用発展には大きな転換点でもあり、今後海外、国内で多くの企業がこの規格をベースにAM量産製造工程を設計運用したり、第三者監査認証を受けたりすることで顧客や消費者からの信頼を得やすく、取引がしやすくなったりすることから、新ビジネス、新企業が増え、競争も起きてくると思われます。

前述のメガネフレームメーカーがこの規格に沿って製造工程構築と品質管理を行っているかはわかりませんが、AMで量産製造を継続的に適切に行うには、原料から形状設計、プリント工程、品質計測評価、記録などをPDCAサイクルで管理、維持、改善していくことが必要なのは間違いなく、それをゼロから学んで作ることよりは、このような規格を基に作る方がはるかに速く確実に出来ると思います。

またこれまで上記のメガネフレームと同じような製造を国内で行うためには、装置や技術が不十分なこともありましたが、例えばPA11/PA12粉末材料が使え、小部品の量産に適したStratasys H350プリンターや、プリント後の表面研磨や染色を多数部品バッチ自動加工できる装置も国内で試せるようになっていて、上記の規格も含め環境が整いつつありますので、このような情報や見通しを積極的に入手され、起こるであろう変化に対応するために新たな挑戦をされる企業が国内にも増え、国産のAM量産製品が普通に買える日も遠くないのではと思っています。

オンラインイベントJAMM#14のお知らせ

これまでもこのコラムでご案内してきましたが、3Dプリンティングに関わる方々の交流オンラインイベント「JAMM(Japan Additive Manufacturing Meet-up)」の14回目が7月21日(金)に下記の通り開催されます。筆者も企画とパネルディスカッションに参加していますが、前回の参加者アンケートから「3Dプリンティング材料について知りたい」というリクエストが複数あったので、今回は樹脂、セラミック、金属の材料についての講演を企画しました。全体の時間は長いですが、入退場は自由ですし、聞きたい部分だけの参加でも結構です。ぜひみなさんのご参加をお待ちしています。

イベント詳細と参加申し込みウエブサイト:https://sharelab.jp/event/jamm-14-230721

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