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「ビジネスモデル」を考えるヒントがタイヤに?掲載日:2021/10/19

フランスのタイヤメーカー ミシュラン社は9月末にミュンヘンの自動車展示会で、革新的なエアレスタイヤの走行テストを公開し、2024年に市販することを公表しました。これには3Dプリンティングが関係し、他の製品への3Dプリンティング活用の課題である「ビジネスモデル」のヒントを見ることが出来ました。それはどのようなことかというと...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

3Dプリンティングの「品質が悪い」は正しい?

最近季節が急に秋に変わったのと同じく、日本の社会や経済も急に動き出した感じですが、以前より言われていたように「元に戻る」というより「ニューノーマル」に変わっていき、それが文字通り「普通」になっていく方がこれからの社会にも経済にも良いと思っています。今回はそのような、「新しい普通」に通じる話題を取り上げたいと思います。

宮城県産業技術総合センター(みやぎデジタルエンジニアリングセンター)主催で10月12日に開催されたオンラインイベント「AM・3Dプリンティングの今」に筆者も参加し、そこで「品質」と「ビジネスモデル」の話題がありました。

事前アンケートの結果として、3Dプリンティングの課題は圧倒的多数の回答が「コストが高い」「品質が悪い」とのことでした。コストについては前回のコラムで書きましたので、今回は3Dプリンティングの「品質が悪い」は正しいかについて個人的な見方を述べます。

まず「3Dプリンティングの品質」の良い悪いは大きく3つに分けて考えたり話したりした方が良いと思います。

①何を基準とした「品質」かを決める
②作られる1個のモノの形状的、性能的品質評価と改善
③作られる多数個のモノの品質評価、管理と改善

どの製品でも工法でも同じですが、品質とは要求や仕様の「基準と許容範囲」に対して評価比較することで良い悪いが決まります。特に3Dプリンティングの場合に注意すべきことは、その基準が「他の工法(NC加工や金型による成形)で作られた同じ形状材質のもの」の場合、3Dプリンティングの品質は概ね「悪い」ことが多いと思います。ただし注意が必要なのは、「悪い=使えない」ではなく、「目的性能を満たせる許容範囲内なら使える」点です。一方「使う3Dプリンティングを前提として設計された仕様と形状」の場合は一概に「悪い」とは言えないと思います。それは3Dプリンティングが「素形材と形状を同時に作る」ことから、3Dプリンターという機械装置より、素形材の「動き」が形状的、性能的品質に有意に関係することが多く(例えば樹脂硬化収縮)、かつそれは形状(DfAM設計)や積層方向、プリント条件を適切にすると適切な品質が得られる場合が多いためです。

次に、作られる1個のモノの品質の中で、形状的品質の基準が多くは「形状3次元データと許容誤差範囲」で、評価判定はそれとの比較になります。よく「3次元データからそのまま3Dプリントするのに寸法が狂うのは、機械の精度が悪いから」と聞き、それも一因ではありますが、もっと有意な要因があることを知らなければなりません。まず一般に3DプリンティングではCADデータからSTLデータに「設定許容誤差内」で変換します。次にSTLデータをスライスデータにし、更に素形材の収縮などをデータで補正することが多いです。つまりそれらの設定が誤差を左右します。加えて、前述の通り素形材の作られ方が更に有意なのですが、仮に全てメーカー標準設定で1個作り、その形状的品質が悪くても「それで終わり」ではなく、最近増えている「シミュレーションソフトウエア」で変形補正形状を作る、または変形を防ぐサポート設計をする、もしくは誤差を測り、それを補正する数値に形状寸法データ、収縮補正縮尺などを変えて誤差を減らす「フィードバックループ」をしやすいのが3Dプリンティングの特徴とも言えます。

性能的品質でも、左右するのは3Dプリンターの原料とプリンターだけではなく、寧ろ「素形材の動き」や「表面性状」などの方が有意な場合が多く、例としてはレーザーパスやツールパス、造形後のUV照射やアニーリング、表面を平滑加工するしないで変わります。加えて他の工法と3Dプリンティングの違いは、性能的品質が悪くても「それで終わり」ではなく、速く簡単に改善する方法があることです。例えば、コストや重量を増やさずに剛性を高める形状にCADで変えられる、または予め穴形状を作っておき、そこに安価なボルト、シャフトなどを入れて補強する、などです。

最後に作られる多数個のモノの品質ですが、これは一般の「品質管理=PDCAサイクルを回す」点で言えば3Dプリンティングでも基本は同じなのですが、特にP=プランを作ることが大事でもあり、独特な点があります。特にユーザーが自らだけで、別の工法から流用する、または経験や実験から作るのは効率が悪く、適さない場合が多いです。そこでお勧めするのが、ドイツで制定された規格 DIN SPEC 17071を基本の「型」としてそこから作っていくことです。詳しくは入門研修も提供されているテュフズードジャパン様のこちらのサイトをご参照いただきたいのですが、作られる多数個のモノの品質の良し悪しを左右するのは、PDCAであり、それが適切に回せて管理した上でなければ、3Dプリンティングの品質が良いか悪いかは言えないと考えています。一例を挙げれば、樹脂原料の吸湿が管理されていなければ、いくら3Dプリンターが良くても品質は悪くなります。

加えて、3Dプリンティングは他の工法よりデジタルデータでの現状把握、要因分析、対策がしやすく、「人」が介在しない工程にしやすい点から、特に海外先進地域では品質管理に有利と考えられています。例えば、全積層面の温度を加工中にセンサーで自動測定記録することで、異常検出、不具合要因分析に使えますが、他の工法では難しいことでもあります。もし3Dプリンティング工程の品質管理国際認証を得たい場合は、テュフズードジャパン様がISO/ASTM 52920を基にした「AM製造センター認証」サービスを利用することもできます。

今後3Dプリンティングの品質について話されたり、評価されたりするときに、上記のような視点が「新しい普通」になれば、3Dプリンティングの活用も変わっていくのではないかと考えています。

ミシュラン社「UPTIS」は新しい3Dプリンティングビジネスモデルのヒント

フランスのタイヤメーカー ミシュラン社はタイヤの革新的トレッド(溝)作るために成形金型を金属3Dプリンティングで作るなど、以前から3Dプリンティングの活用研究に積極的な企業のひとつとして知られていました。

同社は2017年に「VISIONコンセプト」という、自動車のタイヤを、ホイールも3次元網目構造で3Dプリンティングによる一体造形するという革新的なコンセプトでした。このコンセプトに基づいて市販を前提としたエアレスタイヤ「UPTIS」を開発し、9月24日にドイツ ミュンヘンでのイベント会場で実際の自動車に試作品を装着、公道を走らせ、その様子を動画で公開し、2024年を目途にアメリカGeneral Motor社との連携で市販する計画を発表しました。
VISIONコンセプトウエブサイト
https://www.michelin.com/en/innovation/vision-concept/
UPTIS紹介動画

このコンセプトが目指すことは、現在パンクなどで世界の20%のタイヤが廃棄されており、それを減らすこと、センサーを埋め込み「コネクテッド」にすること、2050年までに100%サステナブル原料にすることの他に、タイヤのトレッド(溝)を専用システムによる3Dプリンティングにより。例えば夏と冬でトレッドパターンを変えて作る、また摩耗で溝が浅くなっても交換廃棄せず、外周に積層でトレッドを修復することを目指すそうです。

以前から国内外のタイヤメーカーは3Dプリンティングで似たようなエアレスタイヤのコンセプトモデルを作成公表していましたし、このUPTIS試作品の詳しい作り方は公表されておらず、かつ写真からは3Dプリンティングは使われていないように見え、おそらく最初の市販品は3Dプリンティングによる製造ではないかもしれませんが(金型は3Dプリンティングの可能性あり)、デジタルエンジニアリングと3Dプリンティングがこのようなコンセプトと研究開発に役立ち、それが現実に市販化されることは、タイヤという何十年も基本構造は変わらず、世界中で大量に使われる製品の「普通」が今後大きく変わる転換点になるのではないでしょうか。

3Dプリンティング活用発展の課題は、特に日本では「ビジネスモデルが無いこと」と言われていますが、この例はタイヤだけでなく、新しいビジネスモデルを考えるヒントを与えてくれていると思います。

・「現状の普通」にとらわれず、現在QCDの点で実現できないアイデアでも、将来出来ることを仮定してコンセプトを作り、それをベースにまず出来ることから段階的に具体化していく
・現状品の改良や「製造コストダウン」ではなく、原料、使用中、使用後、修理の「利益」につながるコンセプトを作る
・まずアイデアをカタチにするのに適した解析設計ソフトウエア選定、3Dデータ作成方法もしくは設計専用ソフトウエアを開発し、それに適した3Dプリンティング材料と製造システムを市販汎用品から選ぶか、メーカーと共同で専用製造システムを開発するかを検討する

国内外の成功している、例えは補聴器オーダーメイド耳栓含め、3Dプリンティング製造ビジネスモデルでは最終的には設計ソフトウエア、3Dプリンター、材料は専用システムになることが多いですが、その前段階では市販品の組み合わせで段階的に成長させています。「言うは易し」ではありますし、タイヤのようなハードルの高いビジネスモデルは特殊ですが、上記のようなことを知っているかどうかで発想も変わってくると思います。

展示会出展のお知らせ

丸紅情報システムズは、「メカトロテックジャパン2021」(名古屋)へ出展します。製造業向けの3Dソリューションを2つのブースでご紹介いたします。
残念ながら筆者は弊社の新型コロナウイルス感染防止施策により参加できませんが、皆様のご来場をお待ちしております。

開催日時:
2021年10月20日(水) ~10月23日(土) 10:00~17:00
*22(金)は18:00まで、23(土)は16:00まで
会場:
ポートメッセなごや1・2・3号館
CAD/CAM関連展示ブース番号:1D25
3Dスキャナ/3Dプリンター関連展示ブース番号:2D19

主な展示製品:

<CAD/CAM関連展示ブース>
・Tebis社 ハイエンドCAD/CAMシステム(Tebis社のWEBサイトにリンクします)
・Tebis社 MESシステム ProLeiS
・NCB社 NCデータ最適化システム

<3Dスキャナ/3Dプリンター関連展示ブース>
・GOM社 3Dスキャナ
・Stratasys社 3Dプリンター Desktop Metal社 金属3Dプリンター

イベント公式サイト
https://mect-japan.com/2021/

事前来場登録はこちらから
https://mect-japan.com/2021/visitor/toroku/

第11回AMオンラインカンファレンスのお知らせ

先回より少し間が空きましたが、「AMオンラインカンファレンス」が下記の通り開催されます。今回も様々な立場の方からの情報提供講演、筆者も参加するパネルディスカッション、バーチャルテーブルでの会話を通じ、新しい情報収集と人のつながりを作る機会にしていただければと思います。

第11回 AMオンラインカンファレンス
日時:2021年10月29日(金)13:00~18:00
プログラム、参加登録は下記サイトをご覧ください。

https://go.link3d.co/jamm11

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