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「構造から機能を生む」3Dプリンティングとは?掲載日:2024/01/25

先日明るいニュースとして、小型月着陸実証機「SLIM」が着陸に成功したことが報じられましたが、この着陸に金属3Dプリンティング部品が大きな役目を担っていました。この例を含め、「構造から機能を生む」3Dプリンティングの例があり、どのようなことかというと…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

SLIMが月面着陸に成功

大変な災害と事故のニュースから始まった2024年1月も月末に近づいていますが、あまりに多くのことが起きたからか、いつもより長い月のような気がしています。そのような中、生中継をご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、1月20日未明に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「SLIM(スリム)」世界で5か国目、日本の探査機として初の月面着陸に成功した、明るいニュースが報じられました。それも単なる着陸ではなく、「降りやすいところに降りる」ではなく、「降りたいところに降りる」というピンポイント着陸もおそらく成功していることや、着陸後の探査機を撮影する超小型変形ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」も無事放出されたようです。現在太陽電池の発電が出来ていないとのことでしたが、最新の情報では着陸時のデータを取得でき、かつ太陽電池が西側に向いているようで、そこに太陽が当たれば発電できそうとのことで、画像も含め今後様々な成果発表があると思われ、とても楽しみです。

これもご存じかもしれませんが、SLIMの着陸に金属3Dプリンティング部品が大きな役目を担っていました。このコラムでもちょうど3年前の2021年1月最初の回でご紹介していましたが、弊社の3Dスキャナー「ATOS」のお客様でもある株式会社コイワイ様が製造された着陸脚衝撃吸収材がその部品です。

株式会社コイワイ様のウエブページ https://www.tc-koiwai.co.jp/info/%E6%9C%88%E3%81%B8/

上のページ内にあるように、着陸時の衝撃を最適に吸収するよう計算された複雑な3次元網目構造のアルミニウム合金で作られたとのことですが、これもどのようにつぶれたかが画像で分かればと期待しています。

数年前、筆者も関わった月面探査機が打ち上げ直前にロケットの問題で中止となり、月面に3Dプリンティング部品が届くチャンスを逃したことが懐かしく思い出されますが、これから次々と月面着陸探査が計画されていて、その第1歩として今回の偉業は3Dプリンティングにとっても大きな1歩となりました。

3Dプリンティングで実用部品を作る価値のひとつとして、上記の「構造から機能を生む」があり、上記の衝撃吸収材はまさにその好例だと思います。他にも移植後に体液が通過することで、より体をあるべき状態に戻しやすい内部海綿構造を持った人口骨や補綴物などの例もよく知られていますが、他の工法で出来る物の多くは材料性能と表面形状で機能を生むものがほとんどで、それだけでは出来ない機能を構造により生み出せるだけでなく、おそらく衝撃吸収体も理論解析と実際は異なり、実験と改良が繰り返されたと想像しますが、そのサイクルが速く安く出来ることも含め、3Dプリンティングの価値はとても大きいと思います。

AMシンポジウムでの「構造から機能を生む」例

ご参加された方もいらっしゃるかと思いますが、1月19日に東京大学生産技術研究所内で開催されました第14回AMシンポジウムに筆者も参加してきました。その講演や展示の中でも「構造から機能を生む」例がいくつか見られました。

ひとつ目は、「流路設計とAdditive Manufacturing」の題でご講演いただきました東京大学 生産技術研究所  長谷川洋介教授のご研究のひとつに「伝熱面のトポロジー/形状最適化」があり、これは空気や液体による熱交換器などでも、乱流を用いて熱伝導を良くすることは出来るけれども、比例して流体抵抗が増えるという複雑な問題を、実際に起きる輻射伝熱も含めて数値解析出来るようになってきたことで、熱交換機の形状とトポロジーを最適化した3次元形状として得る研究とのことでした。一例として、円柱ピンを交互に配置した流路構造に対し、ピンの形状を最適化する過程の動画が公開されています。熱伝導は大きく下げずに、圧力損失とコストが下がっていくのがわかります。

このように最適化した形状は、3Dプリンティングであれば熱伝導率の良い材料と解析に近い形状でこれまでにない機能性能を持った熱交換器が出来る可能性があり、今後活用が大きく広がることが期待されている分野です。

もうひとつは、著名なデザインエンジニアでもあり、これまでも樹脂3Dプリンターによる義足用ソケットなどを研究開発されてこられた東京大学 山中俊治特別教授の「AMによるからくりの可能性」のご講演の中で、カブトムシなど甲虫が単純な動きと少ないエネルギーで羽根を折り畳みする構造を人工的に再現し、PBF樹脂により作られた「READY TO FLY」のご紹介がありました。筆者もはじめて現物を実際に動かしてみましたが、とても不思議かつ滑らかな動きで開閉が出来ることに驚きました。動きは下記動画で公開されています。

これは展示用作品ですが、当然人工衛星の太陽電池パネルへの応用だけでなく、身近な傘やテントなどにも使えるかもしれません。ただし、羽根に当たる部品は剛性と軽さを両立し、多数の回転軸と軸受けを組み立てるには複雑ですが、3Dプリンティングであれば一体形状加工も出来、これも「構造から機能を生む」例だと思います。

これらのように、単に軽量化などだけでなく、構造からの機能の活用を可能にする使い方は3Dプリンティングのコスト対利益を大きく高める分野ですので、これからも様々な例が出てくることを期待しています。

TCT Japan 2024出展のお知らせ

前回もお知らせしましたが、丸紅情報システムズ株式会社は下記の通り「TCT Japan 2024」展示会にブース出展します。弊社が1月19日に取り扱い開始のプレスリリースをしました、Stratasys社 FDM方式最新機種「Stratasys F3300™」につきましてもご紹介をする予定です。

img_3D_20240102_01.jpg

開催日時: 2024年1月31日(水)~2024年2月2日(金) 10:00 ~ 17:00
会場: 東京ビッグサイト 東3ホール ブース番号  3A-13
参加費:無料
主催:株式会社JTBコミュニケーションデザイン

出展製品、参加事前登録など、詳しくはこちらのお知らせをご覧ください。 みなさまのご来場をお待ちしております。

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