丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。
日々の仕事でお客様とこの話題になり、「とても役立っていて、今ではなくてはならないよ」と、「性能やコストの面でまだまだ使えないね」とのどちら声も聞くことががよくあります。
この会話でいつも「?」と思うのは、「使える」「使えない」を判断する境目はどこにあるかということです。
もちろん人や条件によってですし、答えはないのですが、特にものづくりの中で3Dプリンターを使う場合は、一般に言われるQCD(ここでは品質、コスト対効果、時間とします)に分けて考えると、少し見えてくることがあります。
まずはじめに品質について考えてみましょう。
2月7日に発表されたストラタシスF123シリーズ(写真はF370)について展示会で紹介しましたが、まず「寸法精度は?」「強度は?」 と聞かれます。
これはできるモノの「質」=品質を問われていると思いますが、この「精度」という言葉は便利ですが、とても「あいまい」だと思っています。
特に3Dプリンターについての「精度」は、少なくとも3つに分けて考えないと、ほしい答えが得られませんし、正しく理解できないと思っています。
「精度」の意味の1つめは「寸法の確からしさ」。
もちろんこのことを指す場合が最も多いのですが、例えば3Dプリンターの性能を示すのに最もよくつかわれる「積層厚さ(材料を積み上げる1層の厚さ)」があり、比較的安価でも「数10ミクロン」などというプリンターもありますが、必ずしもこの厚さと寸法の確からしさは同じとはかぎりません。
樹脂でも金属でも、液状または溶けたものが固まるとき、多くは縮みます。3Dプリンターでも同じで、寸法の確からしさは、機械としての確からしさよりも、この「縮み」がカギになることが多いのです。
例を挙げますと、プラスチックを熱で溶かしてノズルから押し出し積み上げるプリンターで、造形室内の温度を高くかつ調節するプリンターと、囲いがなく外気温度により造形室内温度が変わってしまうプリンターでは、プラスチックの種類にもよりますが縮みがかなり違います。
同じく、「型成形したプラスチックより3Dプリント品は精度が悪い」と言われることもありますが、型成形ではプラスチックが急激に冷やされ固まることで、一般にソリやヒケと呼ばれる変形が起きることがありますが、3Dプリンターでは比較的ゆっくり冷やされながら積み上げられることから、型成形品より寸法誤差が小さいケースがよくあります。他方でカタチや表面を決める「壁」が無いので、正確な調整が出来ないことは言うまでもありません。
次に「精度」を「どのくらい細かい形まで再現できるか」の意味で使われることがあり、これはなかなか良い用語がないのですが、紙プリンターやディスプレイなどで使われる「解像度」が近いので、これをあてます。
これは特に3Dプリンティングでは大事ですが、どの方式のプリンターでも、解像度には限界値があり、これによりどのくらい細かい形状ができるか、どのくらい薄いものができるか、どのくらいの表面の粗さになるかが決まることが多く、当然多くの方から「解像度が高いほうがよいに決まっている」と聞かれます。
その通りなのですが、作るモノの目的や、大きさによっては、解像度の高さが逆効果になることもあります。
多くの場合、解像度が高いとそれだけ積み上げるのに時間がかかり、その結果必要な時までにモノができないことや、大きいものを小さい積層厚で作ると、1層を作るのに時間が長くかかることで、歪が大きくなることによる不具合も起き得ます。
3つ目は「継時寸法変化」。
寸法の確からしさと同じく、「解像度」が高くても、材料や大きさ、カタチによって、プリント終了直後のプリンター内部、または取り出し直後には寸法誤差が小さいとしても、その後の置き方、保管環境(温度湿度など)によって時間が経つと寸法が狂ってしまう場合があるのも事実です。
3つの「精度」について述べましたが、言うまでもなく寸法が確かで、再現性が高く、時間がたっても変形しないものを求められるのは当然です。
しかし、これだけ数ある3Dプリンターでも、またそれ以外の加工機や材料でも、「万能選手」はいないのが現実で、逆に万能選手は、よく言う「帯に短したすきに長し」なこともあるでしょう。
3Dプリンティングでも、作る目的に合った「精度」は何かを考え、プリンターや材料、積層厚さを選ぶと、よい結果が得られると思っています。
例えば、最後に塗装をする前提である程度大きいモノを作る場合、大きい積層厚さでまず速く作り、どちらにせよ必要な下地としてパテやサーフェイサーを塗布、それを研磨したほうが寸法も確かで、強くきれいなモノが早くできるという結果になる例があります。
次回以降で、3Dプリンティングの「コスト対効果」と「時間」について考えてみましょう。
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