製造ソリューション事業本部

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アメリカの自動車製造現場はどうだったのか?掲載日:2018/05/15

3Dプリンティングの「?」や「!」ついてお伝えするコラムです。

4月8日(日)からアメリカで開催された、「AMUGカンファレンス」に今年も出張参加してきました。そこでは数多くのブース展示、講演を見たり聞いたり、また参加者と個別にいろいろな話を出来、北米中心に海外の3Dプリンティングの最新事情を垣間見ることが出来ました。それがどうだったかというと…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

自動車の街 デトロイトへ

今年の5月の大型連休はいかが過ごされたでしょうか? 9連休にして旅行に行かれた方や、関係なく仕事をされた方、それぞれと思いますが、報道によると国内外とも旅行された方は昨年より増えたとのことです。筆者は連休中にStratasys社主催の会議に参加するため、アメリカ ミズーリ州デトロイトに出張してきました。連休中に海外に出たことは一度もなかったので、行き帰りとも空港や飛行機が混雑して大変かと覚悟していましたが、ちょっとピークとずれたからか、いつもと変わらず拍子抜けの感じでしたが、おかげさまで問題なく帰国することが出来ました。

筆者は個人的にもクルマが好きで、最初に入った会社では8年ほど自動車に使われるプラスチック部品を設計していたり、今でも自動車産業の多くのお客様と接する機会もあり、クルマにはずいぶんお世話になってきました。なので「クルマの街」デトロイト、またFordを訪ねる機会が頂けたことは有難いことでした。(子供からは不満も出ましたがお土産でなだめました…)

もちろんFordやアメリカの自動車産業について表面的なことは見聞きしていましたが、実際に行って見てみたことで、知らなかったこと、改めて分かったことがありましたので、お伝えしたいと思います。

デトロイトはとして有名で、ご存知の通りかつて自動車産業が隆盛のころから比べれば人口も減り、衰退していることは否めませんが、中心市街から少し離れたFord本社近くは住宅街が広がり、建物にも「古き良きアメリカ」の感じが残り、意外とのどかな感じでした。街を走る日本車の割合は少なく、逆にアメリカの2ドアスポーツカーを年配の大人が普通に乗っているのをよく見かけ、少しうらやましくも思いました。

Ford 自動車組み立て工場見学

良く知られている通り、ヘンリー・フォード氏は1908年(明治41年)にT型フォードという乗用車を発売し、価格の安さ、性能の良さと、初の流れ作業による大量生産方式により大成功を修めますが、1917年に最初のトラクター組み立て工場を建設した地に、2000年に新工場に改築されて現在もFordのF150ピックアップトラックを生産するRouge(ルージュ)工場があります。今回その工場の一般向け見学ツアーに参加することが出来ました。

工場内は厳しく撮影禁止とされていましたので、売店で買えた絵葉書を撮ったものが下の写真です。

このように車体は作業によって高さが上下するパレットで流れ、最後の方で荷台と車台とが組み立てられます。もちろん実際は作業者がいるのですが、それぞれが決められた部品を手や工具により組みつけていきます。筆者は日本の工場を何度も見てきましたので作業の流れや使う工具や作業補助具は大きくは変わらないと思いましたが、印象として作業者の数が多く、動作も遅いことに加え、ほぼ普段着のようなラフな服装で、帽子もかぶらず、ジュースやお菓子やスマホが作業台に置いてあったり、その辺はだいぶ違うと思いました。後から別の方に伺いましたが、日系企業の工場は日本と近いとのことで、アメリカでもそれぞれのようですが、それが良い悪いは別にして、治工具や安全衛生用具に求められるものもそれぞれの事情によって違うことを再確認しました。

3Dプリンティングの製造治工具への活用は?

その他、Fordの研究開発拠点がある広大な敷地の中にあるカンファレンスセンターの1室をお借りして会合があり、Stratasysアメリカ本社や販売代理店、ユーザーの方々からいろいろなお話を伺うことが出来ました。

Fordの工場見学では、ラインから高く遠いところからしか見られなかったので実際には見えなかったのですが、Fordだけではなく日系含めた自動車製造現場では、樹脂3Dプリンティングの活用が広がっていることを聞きました。詳しくはお伝え出来ませんが、下の写真のように、手で持って使う工具をStratasys FortusのNylon12CF(炭素短繊維含有ナイロン12樹脂材料)で作ることにより、剛性や耐久と軽量化を両立させた例があるそうです。

よく見てみると、FDM方式で作ることを前提とした最適形状設計(これをアメリカでは最近DFAM、Design For Additive Manufacturingと呼んでいます)が使われていて、例えば水平穴が丸ではなく菱形になっていることで、サポートが不要になり、材料、造形時間、サポート除去工数を減らす効果を得ています。

その他、最近では多くのロボットや自動機械が溶接から品質検査まで使われていますが、それらの動作プログラミングと動作試験に使われるダミーモデルや、人が持つエアツールをより安全に、楽に使えるような補助具など、アイデアと設計の工夫と3Dプリンティングにより、これまでと違う活用が広がっているようでした。

日本との違いはどこにあるのか?

先に述べたとおり、同じ自動車工場でも、それぞれ事情が異なるので、当然治工具に対するニーズは違いますので、北米での事例が日本にも当てはまるとは限りません。

ただ、今回再認識できたことは、自動車に限らず北米の製造産業で3D プリンティングによる実用品加工が広がっている原動力は、もちろんこれまでもこれからも製造産業の主役である、切削加工を含めた「工作機械」、またそれらを使いこなす技能を持った「人」を、高い利益を生む作業にもっと効率よく使うために、3Dプリンティングでも出来る、または得意な部分は3Dプリンティングに任せた方が全体的に利益が出るという考えが広まっていることと感じました。

つまり、3Dプリンティングが今出来ること、得意なことを見定めて、全部でなくその部分だけでも3Dプリンティングに移すことで、例えば初めから終わりまで効果で高性能な工作機械や技能者を使わなくても、本当に必要な部分だけに使うことで、限られた時間をより「儲かる」ことに使えることが理解されてきたのではないでしょうか。

もちろん日本では工作機械や人が優れていて、既に効率もよくなっているので、すぐに同じようにならないと思いますが、今後技能者が減っていくとすれば、3Dプリンティングによる利益は北米の状況に似てくるかもしれません。

アメリカのモノづくりの歴史とチャレンジスピリッツ

帰国する前に時間が出来たので、カンファレンスセンターの近くにあったヘンリー・フォード博物館を見に行くことが出来ました。下の写真はその建物の一部です。

そこでは上のT型フォードは当然、懐かしい「アメ車」から日本車含めたクルマだけでなく、蒸気機関による産業革命以降のアメリカでのモノづくりの歴史が感じられる多数の展示物があり、その大きさと広さに圧倒され、とても数時間では見切れない素晴らしいものでした。

同時に、ヘンリー・フォード氏も、機械好きな少年から、後に会社員として勤めながら、自宅の台所で内燃機関エンジンの試作品を作るところから、巨大企業を作り上げるまで、世界恐慌、戦争、労働争議、過酷な競争を、常に挑戦と新しいアイデアと行動力で乗り越えてきた「チャレンジスピリッツ」を展示物から感じ、なんだか元気づけられて帰国しました。

インターネットで海外情報は簡単に手に入る時代ですが、北米での3Dプリンティングに関する情報はものすごく多く発信、共有されているので、活用方法も早く広く広まっているようですが、日本含め非英語圏 ではどうしても得られる情報が圧倒的に少ないとも感じました。これからも様々なカタチで海外で得た情報を皆様にお伝えしながら、3D プリンティングの日本に合った活用法を皆さんと共に作っていきたいと思います。

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