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ドイツの展示会formnextで見て考えたことは?(2)掲載日:2019/12/10

2015年から毎年ドイツ フランクフルトで開催されている3Dプリンティング専門展示会「formnext(フォームネクスト)」に今年も行ってきました。昨年より更に規模が大きくなり歩いて回るのも大変でしたが、そこで実際に見て、聞いて、感じて、日本との違いなど、帰ってきて考えたことは...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

Stratasys・Makerbotブース

今回はドイツでの3Dプリンティング専門展示会「formnext」についての2回目です。先回の1回目はこちらをご覧ください。お読みいただき、感想をお聞かせいただいた方もいらっしゃいました。皆様からのご意見は大変参考になります。ありがとうございました。

さて先回は全体についてお伝えしましたが、今回は丸紅情報システムズ株式会社が正規代理店となっているStratasys社、MakerBot社、DesktopMetal社のブースについて概要をお伝えします。海外の展示会に行く度に「日本の展示会と違うなぁ」と思うのは、ブースも通路も広く、人が出入りしやすいブースが多いことと、会社名、ロゴなどは大きく示し、製品やサンプルの説明は小さく簡単に書かれていて、もちろんノベルティーを配ったりアンケートを取ったりするブースは無くて見やすい反面、展示について知りたいときは説明員の方に個別に聞かないとわからないことも多いです。どちらが良いとは一概に言えませんが、欧米では「人と人が直接話す」ことを重視し、敢えて「見ただけで分かる説明」は避けているのかもしれません。日本でも3Dプリンティングの製品や用途が広く複雑になってきているので、「人に聞く」ことでより有効な情報交換が出来るような展示にすることも取り入れた方が良いかもしれません。

まずはStratasys社ブースです。昨年と同様ホール中央に大きなブースを設置し、多くの用途事例サンプルと3Dプリンターを展示していましたが、今年の特徴として、ブースを中央で左を「RP shop」右を「Factory Floor」の大きく2つに分けていました。

これからわかることは、元々Stratasys社は3Dプリンターメーカーの先駆者の一つとして、幅広い産業、幅広い用途に使える汎用的なプリンターを開発販売してきましたが、3Dプリンティングが普及し、用途が広さだけでなく深くなってきたことで、「用途に適したプリンター、材料と使い方」が使う側に広がり、メーカーにも求められていることの表れかと見ています。

「RP Shop」のゾーンでは、日本でも11月25日に新発売発表された「J850」の実機とサンプルの展示がありました。

「J850」は、2016年より販売している「J750」の上位機種として、J750よりも1種類多い最大7種類の造形材料を使用可能なことで、モデルの色・透明性・柔軟性などの色彩表現と質感表現が向上しました。またGrab CAD Print上でのPantone®色指定に対応しており、デザイナーの要望にも応えます。同時にJ850用に開発された2種類の新材料「VeroUltraClear」と「DraftGrey」も発売されました。(こちらの弊社プレスリリースでの紹介文から一部抜粋)

これらにより、より商品企画やデザインの早い段階でも最終商品により近い色、透明度、触感などの試作品で評価や市場調査が出来るので、変化の早い顧客ニーズに適した商品やパッケージをよりタイムリーに提供できることにつながると思います。

また今回初めて現物を見ることが出来たサンプルがありました。BMW社の小型乗用車MINIのユーザーは、メーカーの中国限定サービスとして、サイドターンマーカー(ウインカー)カバーを専用ウエブページから好きなデザイン、色、文字を選ぶカスタマイズパーツを購入することが出来、それはフルカラープリンターJ750でプリントされ、紫外線や雨に強いクリアコーティングをされて既に多数販売されています。

これは3Dプリンティングの使い道として成長が見込まれる「マスカスタマイゼーション」の好例ですが、参考にすべき点は、先回お伝えしたとおり、「考える」「作る」「整える」「評価する」の全てのツールとプロセスを作ったため成立しているということです。

「Factory Floor」の方では、製造工場で実際に使われる治工具、成形型、電車の交換部品や人工衛星の実用部品などが多数展示されていました。また今回新しいFDM材料が発表され、筆者も初めてサンプルを見て触れることが出来ました。

①3Dプリンターの最上位大型機種Fortus F900向けの新材料「Antero 840CN03」

こちらの弊社プレスリリースから紹介文を引用します。
「Antero840CN03は、ストラタシスが独自開発したPEKK(ポリエーテルケトンケトン)ベースのAntero高性能ポリマー材料です。ストラタシスのストラテジック・サプライヤであるアルケマ社のKepstan® PEKK技術を活用しており、安定した静電気放電(ESD)の特性を備え、低アウトガス性と優れた耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性があります。実用パーツ、治工具やESD特性による航空宇宙/産業アプリケーションでの軽量で強靭なパーツ製作に適しています。」

サンプルとして人工衛星に使われるカバーなどがありました。

②F123シリーズ「F370」向けの新材料「Diran 410MF07」

③F123シリーズ「F370」向けの新材料「ABS-ESD7」

同じくこちらの弊社プレスリリースから紹介文を引用します。

「Diran 410MF07は新たに開発された新材料で、炭化水素系の薬品に対しての耐性を持ちつつ、衝撃強さと強靭さを特長とするナイロンベースの熱可塑性プラスチック材料です。重量比7%の鉱物が含有されています。耐摩耗性に優れ、摩耗による部品へのダメージを低減するため、生産ラインで使用する治具や補助具など、さまざまなアプリケーションでの活用が期待できます。サポート材料には、手で剥がせるブレイクアウェイサポートを採用しており、溶液での除去が不要なため、ユーザーを選ばず容易で素早いサポート材料の除去が可能です。」

サンプルとして、アームロボット先端に付ける機器(エンドエフェクター)用ブラケットなどがありました。この材料はこれまで樹脂ブロックやアルミなどを削って作られてきた治工具類に対し、強さ、軽さ、耐久性を改善したり、FAやロボットの性能向上に役立つ軽くて強い部品や治工具を容易に作ったりすることが出来るようになるのではないかと期待しています。

「ABS-ESD7は、これまでストラタシス製3Dプリンターの上位機種であるFortusシリーズにのみ対応していた熱可塑性プラスチック材料で、F370にも今回対応しました。静電気の発生を抑制するとともに電気を帯びた場合はゆっくりと放電する静電気拡散性の特性を持っており、粉末、粉塵、微粒子などの他の材料への放電や誘引を防止します。電子部品の量産工程で利用される治工具や搬送容器など、静電気対策が必須とされる製品の造形にその特徴を発揮します。」

このように、Stratasysも「使い方から求められる特徴のある材料」を開発する傾向がありますので、特徴を理解し適切に使うと有効だと思います。

StratasysグループのMakerBotは別ブース出展でしたが、Method/MethodXの実機や既存材料のPLA、Tough PLA、PETG、水溶性サポート材PVAにABSとアルカリ水溶性サポートSR-30が使えることをアピールしていました。その中で活用事例展示として、「協働アームロボット」でのサンドペーパーで平面研磨と、バキューム粉塵吸引機能を一体化したエンドエフェクタ―が参考になりました。

エンドエフェクタ―は目的機能に最適な形状に出来、軽く出来ることだけでなく、最近増えている協働ロボットでは、人に触れてのケガを防ぐため角を丸くするなど切削では工数が増える形状が求められることから、樹脂3Dプリンターで作られることが今後も増えると思います。

DesktopMetalブース

今回DesktopMetalは、2つの新プリンター製品の発表イベントを行いました。初日始まってすぐの発表イベントでは限られた方のみブース内に入ることが出来、筆者も入れていただきました。
そのニュースはid.art様が下記の通りすぐに日本語で報じられました。

①樹脂+カーボン長・短繊維プリンター製品「Fiber

https://idarts.co.jp/3dp/desktop-metal-fiber/

②金属粉末+バインダージェッティングプリンター製品「Shop System

https://idarts.co.jp/3dp/desktop-metal-studio-system/

Fiberはプリンター実機、カーボン短繊維やガラス短繊維強化樹脂フィラメントリールと、カーボン長繊維を帯状に樹脂で固めたテープリールの展示がありました。

カーボン長繊維は高い剛性や引張強度が必要なところに積層することが出来ることに加え、層毎に繊維の方向を変えられることから、同じ板厚と材料でも曲げ剛性が変わることを体感できるサンプルが展示されていました。

Shop Systemは新車発表のように発表と同時にかかっていたベールを取る演出だったので、見えた瞬間から多くの人が写真を撮っていました。

造形サンプルも展示され、下の写真の黒い箱がプリントエリアサイズ(最大の16L)を表しています。

販売は来年秋以降を予定していますので、詳細は追って分かり次第お知らせします。

その他、発売済みのStudio Systemのアメリカのユーザー活用事例サンプルが展示され、これまでこちらの動画でしか見たことが無かったものを実際に見ることが出来ました。

このように金属切削加工工場で加工に必要な社内部品・治工具をStudio Syetemで作る事例はこちらの動画でも紹介されており、日本でも活用ニーズがあると考えています。

formnextから得た情報をどう読み解くべきか?

展示会場を見て得られた情報は、もちろんこのコラムでは書ききれませんが、今後筆者も講演や個別訪問でお伝えしていく予定ですし、その他様々なセミナーイベントやメディアを通じて情報共有されると思いますので、それぞれの都合に合った機会を見つけて参加、情報収集していただければと思います。

帰国後もいろいろな方とformnextの結果について話しましたが、その中でもう一つ個人的に気づいたことは、これまで3Dプリンターに対し、使うヒトが「いったい何がどこまでできるのか?」と問い続けてきたように思いますが、これだけプリンターも材料も選択肢が増え、出来ることが増えてきたこれからは、人が「どんなアイデアが出せてどう使えるのか」を問われる「逆転」が起きつつあると思っています。そのため、カギになるのはハードウエアや材料以上に、ヒトの発想や工程・品質管理を支援するコンピューティングやソフトウエアの技術やツールになるとも考えています。また先回述べた「考える」「作る」「整える」「評価する」のうち「作る」ツールだけが注目され、今は急に発達していますが、残りの3つが必要かつ今後重要になってきますので、一層視野を広げてこのコラムでもお伝えしていきたいと思います。

今年もご愛読いただきありがとうございました!

今回が今年最後のコラムとなります。

ご愛読いただきましてありがとうございました。

これから年末まで、formnextの情報をお伝えするなど、多くの方にお会いする予定があり、まだ年末という感じがしないのですが、今年を振り返っても来年を見通しても、世の中も3Dプリンティングの世界もますます速い変化が続きます。その変化のポイントを少しでもお伝えしていければと思いますので、引き続き宜しくお願い致します。

みなさん良いお年をお迎えください。

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