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NC加工と3Dプリンティング 発展の違いは?掲載日:2022/04/20

3Dプリンティングが様々な他の加工法と比べられることはよくありますが、データで加工するという点で近いNC加工の発展の歴史をたどり、3Dプリンティングが似ているところ、違うところをみてみると...

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

名古屋の展示会に行ってきました

「春に3日の晴れなし」と言われている通り、全国的に天気や寒暖が変わりやすい日が続いています。そのような中、前回のコラムでもお伝えしたとおり、2022年4月13日~15日に「名古屋ものづくりワールド 設計・製造ソリューション展」が開催され、筆者も2日間だけですが、行ってきました。

丸紅情報システムズ株式会社ブースでは、StratasysとDesktop Metalの3Ⅾプリンターとサンプルを展示しました。

特に今回は新発売となるStratasys OriginOneの特長をお伝えするためのサンプルを展示しました。樹脂は光硬化性で、平滑面やシボなどのテクスチャーを含め、射出成形に近い表面品質と形状で、射出成形エンプラ、エラストマーに近い物性、耐久性を持った
現状9種の世界的メジャーメーカーの樹脂が使えます。

またStratasys F770のサポート付き大型サンプル、Desktop Metal Studioも展示しました。

久しぶりに会場展示会の調査見学の許可が得られたという方もおられ、天候は不安定ながらも初日の開場から予想以上に多くの来場者が来られていました。

会場内では2つのセミナー会場で各種講演があり、「最新AM技術による、ものづくり変革」という講演を聞くことができました。その中で、日本ミシュランタイヤ株式会社 ジャック バボ様が講演の冒頭で話されたことがとても的を射ていて、印象に残りました。解釈をまとめると、

・日本は海外先進地域に比べAM活用が遅れているが、多くの方は既にAMの可能性と制約について、また「AMは手段であって目的ではない」ことも理解されている

・一方、「AM導入には新しいビジネスモデルが必要だが見つからない」とも聞くが、同じく手段である他の工作機械にビジネスモデルが必要だとは聞かない

・ネジは15世紀に発明されたが、すぐに全ての締結がねじに置き換わったわけではなく、新しいモノの普及には時間がかかる(筆者が調べると、標準ネジの工業化は19世紀初め)

確かに3Dプリンティングによってマスカスタマイズの製品を作って売るなど、新しいビジネスモデルが生まれた例はいくつもありますが、一般的には新しいビジネスモデルを考えたり立ち上げたりすることはとても難しいことです。でははたして3Dプリンティングにはビジネスモデルが必要なのか?とあらためて考えるヒントとして、時代背景は言うまでも無く違いますが、既に広く普及し、数値データで作る点で近いNC(数値制御)工作機械による加工の進化発展はどうだったかについてあらためて調べてみました。

NC加工と3Dプリンティング 発展の違い

NC工作機械の発展の歴史はネットで検索するとたくさん情報があり、概ね下記のような経緯をたどったようです。

・1950年ごろ、アメリカ空軍ジェット戦闘機の複雑部品を作るのに、それまで熟練工にょる加工から誤差を減らす目的で最初のNCフライス盤がアメリカで開発された。

・その技術は日本にも数年後に紹介され、国内でも開発が始まり、1950年代半ばに最初のNCタレットパンチプレス機が開発されたが、当初は動作が安定せず、その後モータやツールパスプログラム法の研究開発により解決され、これが日本での実用化と普及の基礎となった

・データは作業者が手入力したり、データ入出力は紙テープで行われていたり、機種ごとに仕様が異なり、単一の加工しかできなかったが、コンピュータを搭載したCNC装置が1970年代初頭に開発され、プログラムを入れ替えるだけで多くの加工が出来るようになった

・1970年代後半に日本のNC工作機械が世界で急速に競争力が高まったが、受注生産額が急成長したのは1980年代で、2000年代後半にピークを迎えた

・アメリカではNC工作機械は高度な軍用航空宇宙部品を加工するためのもので、簡単で一般的な加工を支援する役割と考えなかったのと、民間からのニーズも無かったので汎用化をしなかった半面、日本は自動車や電機製造産業の高度成長と共に汎用化したことで、アメリカから工作機械製造販売世界一の座を奪うこととなった

このことから分かることは、今でこそなくてはならないNC加工も初めは軍用・航空宇宙の複雑部品を作る需要から生まれ、しばらくはそのために使われていたこと、汎用化を進めた日本でも、急成長、普及までには20~30年かかったことなどが分かり、これは3Dプリンティングとも共通点が多いと思いました。

一方、日本でNC工作機械→CNC→マシニングセンタが発展普及した背景には、汎用化の遅れがアメリカの工作機械産業の競争力を低下させ、日本は独自改良技術で汎用化を進めたことも大きいと思われますが、導入のために個々の企業で新しいビジネスモデルを作ったわけではなく、大量生産工業製品の国内外の需要急増大への対応という共通需要があったことが考えられ、これらは3D プリンティングとは違う点だと思います。

その他、トヨタ自動車でカローラの最初の生産工場を立ち上げた方の回顧録によりますと、

”工作機械は全て海外製で、先例がない中その導入には多量の海外文献と海外出張で勉強されたこと”

”ユーザーも海外機械メーカーも日本の商社も、立場を超えて難題を乗り越えたこと”

”最初のアメリカ製工作機械は巨大頑丈で、粗くとも速く加工でき、その加工に耐えるように加工部品の設計の方を変えたりされたこと”

”NCデータ作成もCAD/CAMも初めは手間も時間もかかり苦労したがソフトウエアの進化含め段階的に解決されたこと”

”CNCが出来、加工後の計測データをフィードバックできるようになったことが精度向上に大きかったこと”

など3Dプリンティングの発展や活用に通じるものがあると思いました。

3DプリンティングはNC工作機械の時代と違い、モノが大量に売れない時代の加工装置ではありますが、例えば資源消費や環境悪化を減らす、自動車電動化、労働人口減、個人の価値観の多様化など社会や需要の大きな変化が背景にある点では似ていますし、一方、技術の進化に必要なIT技術は当時より桁違いに優れ、更に進化、汎用化するので、実用普及までの期間は過去の機械より短いと言われています。

「温故知新」が良いかはわかりませんが、アメリカはNC工作機械汎用化遅れの体験があり、日本は初期の苦労とその後の成功体験があり、それらを知ることは、これから3Dプリンティングをどう捉え、使うのにも役立つのではないでしょうか。

地域の産業発展に活かす3Dプリンティング

先日弊社丸紅情報システムズ株式会社のウエブサイトで、Desktop Metal Studioシステムを導入された公益財団法人 さかきテクノセンター 様のインタビュー記事を公開しました。

Studio システム 2 導入事例 公益財団法人 さかきテクノセンター 様

長野県坂城(さかき)町には製造企業、特に金属加工に携わる大小約200社があるそうで、さかきテクノセンター様は、中小企業だけでなく大企業をもサポートする工業分野の中核センターとして、地域の発展に大きく貢献してこられ、「モノづくりのまちとして成長を続けてきた坂城町にとって、最先端の設備に触れ、その実用性を評価していくことは、町の将来に直結する重要な命題」とのお考えから日本国内で初めて「Studio システム 2」をフルセットで導入されました。

筆者は2019年5月に同センターで近隣企業の方に金属3DプリンティングとDesktop Metalご紹介の講演をさせていただきました。その際、山村町長自らが参加されたことに驚き、坂城町の製造産業活性化の熱意に感銘を受けたこと、参加企業の方々も新しい技術に前向きな方が多かったことを覚えています。

3Dプリンティングを使う背景やきっかけは様々あると思いますが、地域産業活性化のため、また地域内共同で新しい技術を使うというのも3Dプリンティングと日本に合った広い意味での「ビジネスモデル」なのかもしれません。

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